50.二体の魔物 Ⅲ
五十話到達しましたっ!!
ありがとうございます。
五十話は前回と前々回に似た内容になっていますが、別のお話です。最後には真実が分かるかもしれません。
僕達は〈変異種〉である逆転者と大貘と別れ、次こそアルグランテへ進む。
王都付近の村から北に回る為には一度大街道に出る必要がある。しかし、大街道には騎士が駐屯しているため、小街道を通ってアルグランテへ一度戻る。そこでミシェルと再び会議の場を設けた方が良い。それは幻の時と同じ。
「じゃあ、出発しようか。」
一泊して洞穴を後にする。夜の間は交代で見張っていたが、〈変異種〉達の気配は無かった。僕達に魔法が掛けられている兆候も無かったので大丈夫だろう。後は僕の策が通用するかだけだが、それは時間が掛かるだろう。
洞穴から森を抜けて、小街道へ。道のない所を歩くため、想定以上に時間を要し、魔物も当然現れる。誰かが一撃で仕留めるため、攻撃を浴びることはまずない。それを食料にして、時々休憩を挟む。
二時間ほど経った頃だろうか、僕達は漸く小街道へと出た。その頃には全身が草まみれ、泥まみれだった。【洗濯】と【乾燥】という便利な魔法を使って、服を綺麗にした。これは服を着た状態でも身体が濡れずに服のみが綺麗になるため、重宝している。
「やっとだね。」
レーナが溜息をつく。幻の時と同じ情景に驚いたが、どうにか小街道へ辿り着いた。それでも疲労が溜まっているのだろう。早めにアルグランテに着きたいところだ。再び足を進める。
のんびりと小街道を進むが、一向にアルグランテは現れない。既に数週間歩いているのだ。あまり特段変わったことがないため、流れるように時間が過ぎているが、実際は長い時間を要している。不思議と違和感を覚えてきた。
「……そう言えば〈魔物探査〉が一回も反応していない気がする。」
その違和感にはすぐに気付いた。幻と同じ。ここまでに何度も魔物は撃破してきたが、一度たりとも〈魔物探査〉が反応していない。これは魔道具だ。壊れないはず。前回は幻だったから反応しなかった。今回も……魔術干渉による機能の衰えや破壊は有り得るが、そういう訳ではないようだ。
「また何かをしているのか?」
「これが幻だとしたら、大貘?」
レーナは説明した。確かにそれだったら魔道具が反応しない訳にも頷ける。だが────
「でも今回は現実だよね?」
『あの二体の魔物と話しかけたからね。』
しかし幻を見せる魔物は決して多い訳では無い。大貘などはその一種である。他の魔物で幻を見せる魔物というのは聞いたことがない。
同じことが二回起きるという不自然に僕は違和感を覚える。
『取り敢えずこれが幻だったら、この魔法を破壊しない?』
「そう……だね。対処法が分からないから強い衝撃を与えようかな。そうすれば起きるかもしれない。」
幻であれば、どれだけ魔力を使っても大丈夫だろうと、至高魔法を発動させる。【爆炎】の魔法。周囲一帯を全て炎で包み込み、さらに爆発を多数起こす。そこに人がいれば、魔法発動後には身体の欠片すら残っていないだろう。
「アデル、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。」
僕は二人に言う。お陰で幻は解けたようだ。景色は一変し、
戻った場所は洞穴の中。これまでの数週間が全て幻だったのだ。そして目の前には二体の魔物。片や幻を見せる魔物、大貘。片や強さを誇る魔物、逆転者。
じゃあ聞き出すとしよう。どうして同じ事が二回起こったのか。
「バレちゃったー?」
洞穴で一泊する際にどうやら魔物の攻撃を浴びていたらしい。一体が幻を見せる魔物である大貘。もう一体が強敵と戦う時ほど強くなる人型の魔物の逆転者。数週間経っていたが、全てが幻だったのだ。今回も幻。
そして【爆炎】を撃ち込み、強い衝撃を与えることでどうにか幻を払うことが出来た。今、僕の目の前には二体の魔物が立っている。
「どこからが幻だった?」
レーナが疑問を口にする。逆転者と話している時に違和感は無かったはずだ。そしてどれが現実でどれが幻なのか。
「どこからー?ここで休憩してからだけどー?」
逆転者は前回と同じく陽気に話す。だが、この姿でも今は〈魔物探査〉が反応しているのだ。今は紛れもなく現実。頭が混乱してきそうだ。
「お前達はお前達か?」
「んー?何を言っているのー?僕達は僕達だよー?」
「でも逆転者であるお前は話すのか。」
「なんでだろうねー?」
この逆転者は前の個体と別の個体なのか?〈変異種〉自体に会うのが珍しいのだが、言葉を話せる魔物など、どれぐらいの確率で会えるのか。恐らく国家転覆を成功させる確率よりも低いと思う。それも二回も。
「お前は大貘と会話が出来るのか?」
「うん、出来るよー?それを念話って言うのかなー?」
どうやら今回も念話のようである。だが、それでは大貘も通常とは違う魔法を使うことになる。まさか────
「多分、予想通りだと思うよー?僕達はどちらも〈変異種〉って言うやつだよー?」
その洞察力。こちらもかなり高度な知能を所有しているようだ。人間界に混じっても何ら違和感の無い存在。細かい点を言えば、話し方。まあ、話し方など十人十色であるから大丈夫ではあるけども。
「お前は危険な存在だ。肝心な事を聞こう。お前達は────敵か味方か?」
何故か僕には逆転者が微笑んだように見えた。常に浮かべている薄ら笑いの裏に隠された本当の笑みが見えたような。やはり前回と変わりなく、全く同じだ。
「……どっちだと思うー?」
僕は口には出さないが確信した。この魔物は何かを隠している。その上で僕達の目の前に居続けているのだ。相手が勝てないほどに強いと知った上で。何と大胆な魔物であろうか。もしかすれば、それすらも見越した上でこの場にいるのかもしれないが、それはそれでまた一つの度胸だろう。何を隠しているのか変わらないのが今は歯痒い。
「……僕達の負けだ。」
「んー?」
逆転者は知っていて知らないふりをする。そちらがそうならば、僕達は素直に騙されるとしよう。
『アデル!絶対、この魔物はおかしいよ!』
レーナが念話でそう伝える。だけど、それは僕も知っている。知っていて、こう話しているんだ。僕は手短に『そうだろうね、あまりにも変だ。』と返す。レーナはまだ何かを言いたそうだったが、見て見ぬふりをする。今はこの魔物達だ。
「君達の企みに乗ってあげるよ。目的はなんだい?」
「目的ー?何のことかなー?」
「誤魔化すな!」
「レーナ。」
レーナを宥める。今は情報を聞き出す方が大事だ。前回の魔物達との違いを見つける必要がある。
「アデル……でも!」
「目的かどうかは分からないけどー?仲間を探しているよー?」
転生者はそう言った。裏の意味があるとすれば、目的とするまでもない、という事か。仲間を探して見つけるのは決定事項だと。頭がきれる魔物のようだから、すぐに仲間も見つかるだろう。これも同じ、か。
「仲間は〈変異種〉の?」
「勿論だよー?僕達は結託して、軍隊を作るんだよー?」
「軍を作って何をする?」
「そんな事も分からないのー?戦うんだよ、お前達と。」
やっと本性を出したか。本性までそっくりとはな。人間かぶれしているが、それでも魔物。思考は魔物のものだ。人間を襲うという習性。それが形を少し変えただけである。結局は人間達を襲うのだ。問題はそこではない。
「何故、それを僕達に言う?」
「簡単な話。お前達が一番の邪魔者になるからね。」
そう断言する。僕達が〈変異種〉の軍隊の邪魔者になると。未来の可能性は一つではない。だが最終的にそこに行き着くと、この魔物は言っているのだ。信じたくはないが、そんな気がした。
「お前達がそうなるつもりがなくても、そうなるさ。僕達がそうさせるからね。」
宣戦布告は続く。今は二体しかいない魔物達の軍団も、先の未来には強敵になると、そう言っているのだ。逃げる道はないのだろう。
「そうならないことを祈るよ。」
僕はこうとだけ言った。誤魔化しようのない遠吠えだ。僕は負け犬だった。たかが魔物にしてやられたのだ。────いや、たかが魔物ではないのかもしれない。
「いずれかの未来、再び相見えるだろう。」
そうだけ言い残すと、転生者と大貘は消え去った。文字通り、消え去ったのだ。恐らく転移する魔法。独自の魔法だ。
「何が本当で何が嘘なのか分からないな……。」
『そうだね。』
「あー!頭が混乱する!」
レーナも情報の整理が追いついていないようだ。流石にこの状況は理解ができない。次回も嘘だとすれば……。
「もう一回、【爆炎】を使う。これが────現実か否か。」
ルカとレーナも頷く。今、ここ瞬間が既に幻であるとしたならば、死ぬ事は無いだろう。
「流石にここが現実だったら大変だから、死なない程度に威力は抑えよう。死ななければ回復させられるからね。」
そして、僕は魔法を発動する。【爆炎】は僕達を包み込むように炸裂する。それは一瞬の出来事だった。世界に亀裂が入るではないか。これは三回目。幻から現実へと戻る時に見られる兆候。 僕達は今、この瞬間も幻だったのだ。
「バレちゃったー?」
犯人はこう言った。
アデル達はどうやら北の大都市にはまだ行かないようです。いつ行くのでしょうか。




