30.魔物は潰える
次回が第三章の最終話です。
今日も二回投稿します。正午です。
瞑想状態に入ったルカを横目にミシェルは立ち上がった。アデルが【防御】の中央にいて、最も安全な位置にいる事も確認する。一度、息を整えて再び詠唱する。
「……【突き刺せ】【ファイアーアロー】!」
この魔法だけ。今使えるのはこの魔法だけだ。そんな自分が不甲斐ない。そう思いつつもこの魔法を使って魔物を倒さなければならない。自分に苛立ちを覚えていた。少しずつだが【火矢】の技術は向上している。それは気付いているのだ。だがそれでは数は倒せても、広範囲の魔法には負けてしまう。広範囲の魔法のえいは分かるのだ。それを発動するだけの魔力があることも。
心の中で焦燥感と苛立ちが渦巻き、混沌としている。その間にも魔物は【防御】に攻撃を仕掛ける。攻撃をしようとする魔物を重点的に狙って【火矢】を放つ。それだけでも【防御】が打ち破られる速度は次第に遅くなっていた。ルカの魔力が回復するのはまだだろうか、と不安になってルカを見遣るが、瞑想をしているルカは返事をしない。
ひたすらに【火矢】を打つ。魔力が無くなると無理せず回復を待つ。自分が魔力が回復するのが早いというのには気付いているのだ。回復したのを感じると、再び【火矢】を放つ。何十回も何百回も。【火矢】では終わりが見えない。他の魔法が使いたい。せめて、上級魔法だけでも。だが、その選択肢を取れば、失敗した時のデメリットが大きく、暫く魔法が発動できない状態になる。
今に出来ることをする。それがこの瞬間に大切な事だ。雑念に頭を悩ましている内に死んでしまう。いつでもアデルが隣についていると考えている内は絶対に成長出来ない。今は一人だ。ルカもアデルもいるけど……この瞬間に戦っているのは私だけ。私がこの戦況を傾けるような事をしないように……覚悟を決める。
「……【焼き尽くせ、地獄の業火で、焼失せよ】」
多分、成功する。そんな気がした。私にだって挑戦権は残っている。それを今使っただけだ。挑戦権を使ったのだから、後は頑張るだけ。魔法が私には扱えないだろう、とでも言うように逆らおうとする。そんな魔法に負けていては自分には勝てないっ……!!絶対に成功させてやる!
波打つ魔力を操り、魔方陣を展開する。範囲は【防御】の魔法を避けるようにして、その周囲にいる魔物全域に設定。この部屋にいる全ての魔物を対象とする。魔力は足りないかもしれない。でもそんなのは気合いでなんとかなる……はず!
「…………【インフェルノ】!!」
アデルやルカも使った至高魔法。【業火】の魔法だ。魔物を倒す為だけに【業火】はマグマすらも超える温度で燃え上がる。ミシェルは急激に搾り取られる魔力に堪えかねて膝を地面につく。
「負けて……られない!」
最後まで気を抜かないように視線は魔物達から離さない。魔物達は【業火】に包まれ、次々と倒れていく。増える気配は無い。
「もう少し……あともう少し。」
その数は既に千を切っていた。残りは数百体。あと数秒で全てを仕留められるだろう。魔物の慟哭が部屋に響く。既に聞き慣れた。何回も聞いた慟哭は両親を攫われた私のものとは違う。やはり魔物は魔物。到底、人間とは違うのだ。倒す事を厭わない。私の目的は両親を探すこと。目的が増えたとしてもそれだけは変わらない。
「最後の一瞬まで私は────あっ。」
一瞬の出来事であった。残りが数十体という所でミシェルは意識を失った。しかし、正確には違う。意識を失いそうになったのだ。意識を失う寸前。何かはミシェルに語り掛けた。
『────愚かな者よ。そこまでするか。』
その声にミシェルは踏み止まった。そして反論する。
「私の目的は強くなって……救うこと!」
『その者達をですか?』
「二人だけじゃない!私と────お父さんとお母さん。私の大切な家族を守る為に強くなりたいの!」
『やはり貴女は愚者です。ですが────とても美しい。貴女に水の女神の力を授けましょう。貴女なら使えるでしょう。』
水の女神────?突然の言葉に頭が混乱したが、すぐに気付いた。ここは水の女神の遺跡。そして、ここには女神の残した財産があると言っていた。ここは最も水の女神に近い場所なのかもしれない。
そして、自然と浮かんできた魔法を唱える。
「【治癒の祝福を】【キュアブレッシング】。」
途端に魔力が回復する。身体の傷も癒えた。この世界とは異なる世界の魔法はここに顕現した。〈水の女神の祝福〉が一つ【治癒】の祝福。魔法とは異なる祝福は、似ていて異なる存在。互いに干渉できない。魔物は完全に潰えた。同時に【防御】の最後の一枚が破壊される。残ったのは三人だけだった。
「うっ……。」
「ルカさん、大丈夫ですか!?」
ミシェルはルカの元に駆け寄ると祝福を発動する。【治癒】の祝福だ。すぐにルカの魔力は回復した。
ルカは聞き取れるギリギリの声で「ありがとう」と呟いた。喉の機能が殆ど使えなくなったらしい。ルカの喉を治すために祝福をしようとしたが、できなかった。発動条件が分からないのは大きなデメリットだろう。
『翠竜は……?』
突如、脳内に響いた声に驚く。ルカの声だ。念話をしているらしい。
『ミシェルは普通に話して良いよ。』
「ありがとうございます。翠竜は逃げたと思います。この魔物騒動の理由は分かりませんが、もうここに用はありません。アデルさんを連れて、一旦泉に戻りましょう。」
二人とルカの無詠唱による魔法によって浮かされたアデルは部屋を出た。そして、泉へと戻ったのであった。




