28.魔物は騒ぐ
ルカは懸命に攻撃を続けるが、翠竜は少しずつだが上へ進んでいた。翠竜は全く止まらない。ルカの竜魔法は竜魔法で効果を塗り替えられている。竜魔法のメリットであり、デメリットの点。それは、竜魔法同士に優劣がない事だ。いくら才能があっても、竜魔法は強くならない。術者の使い方次第で変わる、と言ったこともない。ただ、どちらが竜魔法を知り、効果を打ち消し、相手を制するか。それが竜魔法同士で勝敗がつく理由だ。
竜魔法をよく知らないものが使っても、効果を打ち消され、すぐに敗北する。またにわか知識でも同じだ。幾つかしか竜魔法の魔法を知らなければ、多くの竜魔法を知っている者に負ける。言うなれば、知識が勝敗を決めると言ったところか。もう一つ、勝敗がつく理由があるとすれば、魔力の多さだが。
それでもルカは竜神だ。竜魔法を作り出した始祖。相手が聖竜であれ、ルカに対して発動された竜魔法は全て効果を無効化できる。ルカのみが知る竜魔法も多く存在するのである。しかし、それは相手が竜魔法を使った時に限られる。相手に攻撃の意思が無ければ、無効化も意味を成さない。翠竜もそのパターンだった。
ルカには竜魔法で翠竜をいなかったことにする事も可能ではあるが、それをしてしまうとこの世界にいかなる影響を与えるかが予想できない。竜種は思っている以上にこの世界に干渉しすぎている。
翠竜は苦しげな声を上げつつも、上へ上へと逃げていた。ルカは当初、アデルと翠竜自体が何かしらの糸で繋がっている、と考えていた。だからこそ、翠竜が弱まれば弱まるほどにアデルは意識を取り戻すのではないかと、翠竜に攻撃したがそれは意味が無いことに気付いた。
ルカやミシェルはアデルが己で施した〈能力封印プログラム〉の存在を知らない。二人はアデルが意識を失った理由を知らないでいた。
「……ふっ!」
底無しの魔力を誇るルカであっても竜種との……それも聖竜との長期戦であれば、魔力にも限界がある。段々と疲れが溜まっていた。普段であれば、ここでアデルが助けてくれるが、今はアデルが動ける状態ではない。
「ルカさん……。」
ミシェルは何も出来ないという焦燥感に駆られつつも、ルカの戦闘からは目が離せないでいた。この異次元級の戦闘はなかなか見られるものでもないから仕方が無いと言えば、それまでだが。
疲労が溜まり始めたルカとルカの戦闘を見ていたミシェル。それぞれが意識を離せない状況になっているからこそ、近付く影には気付かなかった。
「ぐふっ!」
突然の容赦無い攻撃にミシェルは殴り飛ばされた。ルカは突然、飛んできたミシェルを見て、驚き攻撃の手を緩める。
「ミシェル……!!」
ルカは急いで駆け寄って【回復】の魔法を発動させる。ミシェルはすぐに回復した。そして、二人は攻撃源を探る。それはすぐに見つかった。────魔物だ。それも数万体の。
「……魔物騒動。」
ルカは呟いた。ミシェルは目を見開いてルカを見る。ミシェルもその言葉の意味は知っていたようだ。魔物が大量発生する現象を表す、この言葉。理不尽は重ねて、起こるのであった。
「アデルが……!」
ルカは人間には到底出せない速度でアデルの元へ駆け寄る。魔物はアデルに相当近付いていたが、どうにか竜の身体能力で魔物の攻撃は当たらずに済んだ。
「……」
ルカは息が上がっていた。先程の戦闘からの続けてだ。翠竜はこの際、無視だ。それよりもこちらが重要である。魔物達のそれぞれの雄叫びが耳に響く。何十体かは超音波を発しているようだ。それが意識を刈り取ろうとするが、その発生源を見つけ出すと、ルカは【高速詠唱】の魔法を発動していない状態での高速詠唱を実行し、叩き潰した。潰れる音が雄叫びに混じる。ミシェルは若干嫌な顔をしたが、最も高速な対処法であった。
ミシェルも超音波が止むと、魔法を発動させた。
「【突き刺せ】【ファイアーアロー】ッ!!!!!!!」
一度に二十の詠唱。魔物達の弱点を確実に狙った高精度の魔法だ。アデルに教わってからは何度も何度も練習していた。練習の成果はしっかりと現れている。だが、それでも二十。数万体だった魔物はさらに増えている。
「ルカさん!これでは攻撃の手が追いつかないです!」
「……分かってる!【固く守れ、守護せよ】【プロテクション】」
ルカ、ミシェル、アデルの三人を囲うように発動した【防御】の魔法。数千体の魔物が同時に攻撃をする。ルカの【防御】には大量の魔力を使用して、耐久性を高めているが、それでも数が数だ。百層重ねた【防御】も少しずつ数を減らしていた。
だからと言って攻撃を受け続ける訳でもない。ルカとミシェルは懸命に攻撃を続けた。ミシェルは大量の魔法で。ルカは超広範囲の魔法で。確実に数は減っているが、それよりも増える魔物は多い。全く終わりが見えない戦いだった。まさに背水の陣という状況だった。この【防御】が完全に破壊された瞬間。三人は死ぬ。生きるか死ぬかの瀬戸際である。




