軍手 ‐ショウバイドウグ‐ 弐
「見た目が粗末でも火力の底上げにはなる。無いよりはマシかの」
「まぁ自分の霊力を込めたモンだから幾らかは威力上げにゃあなるが、使ってる理由はどっちかってぇと防具だな」
「防具? 武具ではないのかの?」
「霊や妖怪が相手たぁ言え、直接触れりゃあ当然衝撃が生まれるし、硬けりゃ痛ぇ。だから手を守る為に付けてんだよ」
「ふむ……実体を持たぬ霊や妖怪でも、払い屋からすれば普通の物体と変わらんからの。軍手は反動を減らす為であったか」
「テメェの体が一番の商売道具、ってな。怪我ぁして稼げなくなったら元も子もねぇ」
「成る程、自分の体が一番の商売道具……確かにそうだの。供助にしては納得させられる言葉だのぅ」
「俺のじゃねぇよ。受け入りだ」
「ほう? それは誰からかの?」
供助は鞄を部屋の隅に置いて、弁当が並ぶテーブルの前に座る。
そして、一言で答えた。
「――父親」
今は亡き両親。生きていた時の口癖で、供助は幼い頃からよく聞かされていた。
両親と同じく払い屋として金を稼ぐようになり、今では供助一人となった古々乃木家の家訓として残されている。
とは言え、性格上スマートに物事を解決するのが得意ではない供助は、依頼で魑魅魍魎を祓う際に怪我をするのは珍しく無い。重傷を負う事は今までに一度も無かったが、軽い打ち身や擦り傷等は多々あった。
もっとも、打たれ強さが取り柄の供助にはその程度は平気であるが。
「ってと、弁当食ったら軍手に霊印書いて、今日は早めに寝っかな。面倒臭ぇ事に明日も学校だし」
「うぬ? 明日は土曜日であろう、休みではないのか?」
「あぁ、学校側の予定でな。代わりに今度の月曜と火曜が代休だとよ」
「代休があるとは言え、土日に登校とは大変だの」
供助は適当に誤魔化し、チキンカツ弁当を手にする。
明日、供助が通う高校で文化祭がある事は猫又には秘密にしていた。理由は言わずもがな。文化祭には色んな出店が並ぶ。知れば確実に自分も行きたいと騒ぐのが目に見えているからである。
しかも、供助が拒否しても前みたいに猫の姿で高校に来そう……いや、確実に来るのは簡単に予想出来る。出来てしまう。
よって、供助は猫又に文化祭の事を“教えない”という結論に至った。
「くぁ……」
「顎が外れそうな大きな欠伸だのぅ」
「今日はなんか妙に疲れた」
目尻に涙を浮かばせ、いつもより一層怠そうにする供助。
太一の手伝いをしたのと、明日も学校だという億劫な気持ちが疲れを大きくしていた。
もし今夜、依頼というさらに大きな疲れの種があったら、供助は明日の文化祭は半死状態で過ごす事になっていただろう。
今夜はさっさと寝よう。そう思いながらチキンカツ弁当の蓋を開け――――。
「供助、やっぱり私はチキンカツ弁当がいいのぅ!」
――られなかった。
「……ほらよ」
あとここに疲れの種がもう一つ。
今夜はぐっすり眠りたいと心底思う供助であった。




