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      不変 ‐カワラズ‐ 肆

 供助は脱力しながら頭を掻き、体育館を覗くのを止めて足を動かす。自分は演劇で使う小道具関係が担当で、演劇自体に興味も無い。

 それにスーパーで弁当が半額になる時間も迫ってる。こんな所で時間を食うのは本意じゃない。


「おい、置いてくなっての」

「俺等に見られてるのを知ったら集中出来ねぇだろ。邪魔ぁしたら悪ぃ」


 体育館を後にして、帰る為に昇降口を目指す供助。

 ズボンのポケットに手を突っ込み、背中を丸くさせて、お馴染みの姿勢。


「……頑張ってんだな、委員長の奴」

「準備に仕切りに演劇。クラスで一番頑張ってんのは委員長じゃないか? 文化祭を成功させたら打ち上げするって言ってたぜ」

「どうしてあんなにも頑張れるのかねぇ」

「前に思い出を作りたいって言ってただろ。今の思い出は今しか作れないから、ってさ」

「青春してんなぁ。俺には無縁だわ」

「何言ってんだ。委員長はお前にもその青春に入って欲しいって言ってたのを供助も聞いてたろ?」

「さぁな。覚えてねぇ」

「その割に今週は毎日手伝ってくれているよな、文化祭の準備」

「……けっ」


 素直じゃない上に天邪鬼な供助に、太一はからかいを含んだ言い方をする。

 それに気付いていた供助は顎をしゃくれさせ、短い息を捨てるように吐いた。


「打ち上げには出てやれよ。俺も出るし」

「真面目に手伝ってねぇ俺が参加出来る訳ねぇだろ。なにより面倒臭ぇ」

「さっき言ったけど、今週はちゃんと手伝ってたんだから十分参加出来るって。現に今日だって、こんな時間まで付き合ってくれただろ? 供助が思っている以上に助かってるんだぜ?」

「あぁいうのは真面目にやった奴等が達成感あるから盛り上がんだよ。達成感もクソも無ぇ俺なんかが行っても何も面白くねぇ」

「かも知れないけどよ、お前が参加したら委員長が喜ぶと思うぜ」

「なんでだよ。厄介者が居ない方が気兼ね無く楽しめるだろうが」

「委員長はお前にも楽しい思い出を作ってやりたい、って言ってたんだぞ? 打ち上げに参加すれば、供助自身が文化祭を行った一員だって認めた事になる」

「認めたらどうなんだよ?」

「お前の行動一つで、文化祭での委員長の頑張りが実ったっていう証明にもなるんだ。少し位、委員長を喜ばせてやってもバチは当たんないだろ?」


 太一が横目で供助を見ると、一度目が合うが供助は意図的に逸らして鼻息を漏らす。

 世の為人の為、なんてのは供助には似合わないもので、金にならないボランティアは以ての外。

 太一は文化祭準備のリーダー格で周りと盛り上がったり出来るだろうが、対して供助はクラス内でまともに話せる友人は太一しか居ない。そんなので打ち上げに行っても無意味に近い事は考えるに容易い。

 だったら打ち上げに参加しない方がいいと、供助でなくても思うだろう。


「ま、強制は出来ないけどさ」

「……考えといてやるよ」


 しかし、普段なら必ず拒否する筈なのに、供助が太一に返した言葉は曖昧で。

 考えておく、なんて言葉は大概の場合は期待出来ない返事なのに。太一は供助が打ち上げに参加してくれると確信した。

 口が悪く、面倒臭がりで、協調性が無くても。子供の頃から根は変わっていない事を、太一は知っているから。

 二人が会話をしていると、暗い廊下の向こうに昇降口の下駄箱が見えてきた。


「あぁ、そうだ。ほらよ太一、頼まれていた師弟ハンターの続き」

「おー、悪いな。読み終わったら前に借りたのと一緒に返すからよ」

「じゃあ俺は帰る。ドキドキな大イベントとやらを頑張ってくれや」

「面倒だからって明日サボんなよ」

「わぁってるっての」


 思い出した供助は学生鞄から数冊の漫画を取り出して太一に渡す。昨日、メールで持って来て欲しいと頼まれていた物だ。

 供助は外靴に履き替え、太一へ背中越しに軽く手を振って校舎から出ていく。お空は真っ暗、浮かぶは星の海。九月も後一週間程で終わるのに、まだ残暑があって歩けば額に汗が浮かぶ。

 所々の教室の窓から漏れる光に見送られて、供助は学校を後にした。ふと、丸めていた背中を伸ばして空を仰ぎ、静かに溜め息を吐き出して。


「頑張り屋なところも変わってねぇな、あいつは」


 演劇の練習をしていた委員長を思い出しながら、供助はポツリと呟いた。

 昔、まだ幼く小さかった子供の頃。よく一緒に遊び、一緒に登校し、一緒に笑い合っていた時の事。

 委員長――――和歌は、昔っからああだった。面倒な事にも文句一つ言わず、人の役に立てる事が好きで、目標へ直向(ひたむ)きになって頑張る。

 もう何年も前の事。懐かしくなって、ガラにもなくしんみりとしてしまう。


「……いや、俺が変わっただけか」


 性格も、環境も、状況も。

 見上げる夜空はどれだけの年月を積んでも変わらない。星の海が広がって欠けた月が浮かぶ。

 供助は薄く眉間に皺を寄せ、目を細めた。


「いつまでも変わらねぇと、昔は思っていたのにな」


 突然の変化。環境、状況、日常、全部。

 何かの変動は突然起き、唐突に訪れる。何事にも必ず、前兆は姿を現さず。

 別れ、出会い、風景、住処、友人。全てにおいて、例外無く。

 ――――人は、理不尽の中で生きている。


「嫌でも――――変わっちまうか」


 空を仰ぐのを止めて再度丸めた供助の背中は、どこか物哀しげで。とても、寂しそうな後ろ姿だった。


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