嫌役 ‐ゴメンナサイ‐ 弐
「……供助」
「文句なら家に帰ってから聞く」
「いや、すまんの」
「友恵にも言ったろ、謝る必要は無ぇ。誰も迷惑だなんて思っちゃいねぇんだ」
子供がこっくりさんをやっても殆どがただの遊びで終わる。だが、今回は違った。偶然ではあるが、友恵がやったこっくりさんが間接的な理由で今回の件は起きた。
なら、友恵がやったこっくりさんにも原因があった以上、誰かがそれを咎めなければならない。
また同じ事を起こさないよう、反省させ、学ばさせ、成長させなければ。幽霊や妖怪の危険さを知っているからこそ、知っている者から教えてやらなければ。
だから、供助が買って出た。誰かがやらなければならない事をやれる人が、今回は居なかったから。
それに嫌われるのは慣れている。今も昔も、周りに八方美人な生き方は好きじゃない。その結果、友達と呼べる者は二人しか居ない訳だが。
そして、猫又が供助に謝ったのも……供助が自ら嫌われ役を買って出た事へ対してだった。
「いいから気にすんな」
まだ少し気にしている猫又を横目で見やり、髪を掻き上げて言う供助。
供助の両親は、もういない。いくら願い望んでも、二度と会う事も話す事も叶わない。もうどこにも……居ない。
故に供助は理解している。両親の有り難みも、温かさも、優しさも。そして、失う事の悲しみ、寂しさをも。
だからこそ、今回のような事は二度と起きてはならない。起こしてはならないと。
自分と同じ悲しみ辛さを、友恵には知って欲しくないから。供助は叱った。怒ったのではなく、叱ったのだ。
「……もういいのかの?」
「うん。ありがとう、猫又お姉ちゃん」
友恵は猫又から離れて、ぐすりと鼻を鳴らす。
目が赤くなっているが、涙はもう止まったようだ。
「頬はまだ痛むかの?」
「ううん、大丈夫。もう痛くないよ」
「悪かったのぅ、叩いたりして」
「んーん。いけない事をやった私が悪いんだもん」
供助に代わり猫又が謝ると、友恵は赤くなった目と左頬の顔で笑って見せた。
ここでいじけたり逆ギレせず、ちゃんと反省して自分が悪い事をしたんだと理解したあたり、本当に良い子なんだと猫又は思う。
「おい、友恵」
「な、なに? 供助お兄ちゃん」
供助が名前を呼ぶと、少しおどついて返事する友恵。
反省させる為とは言えさっき叩かれたのもあって、まだ何か叱られるんじゃないかと怯えた様子を見せる。
「ほらよ。玄関の目立たねぇ所にでも貼っとけ」
供助がズボンのポケットから取り出したのは一枚の紙。
友恵が受け取って見てみると、紙は長方形で何か黒い模様が描かれた。
「これって……お札?」
「んな大層なのを俺が作れる訳ねぇだろ。半紙に適当な霊印を書いたもんだ」
半紙と言うのはよく習字に使う紙の事で、供助はそれに筆ペンで霊印を記した。
紙に書いてある霊印は適当で、文字でも特別な印でも無い。ただ供助の霊力を込めただけの物。
供助は不器用だからという理由で武器や道具を使わず、頭が悪く覚えるのが面倒だとお経の類も一切使用しない。
それにお札に書く漢字は難しかったり旧文字だったりと、書くのが難しい字な事が多い。
そんなのを頭が悪い供助が間違えずに書き、不器用なのに作る事が出来るかとかと聞かれたらならば……即答で『No』だ。




