嫌役 ‐ゴメンナサイ‐ 参
「お札みてぇな強い効力は無ぇが、虫除け程度にはなるだろうよ」
「虫除け?」
「弱っちい雑魚妖怪なら嫌がって家に入って来ねぇって事だ」
「いいのっ!?」
「また騒がれて飯を食い損なっちゃあ堪んねぇからな」
本物のお札と比べれば、遥かに見栄えも悪ければ効果も薄い。
しかし、供助は腐っても払い屋。頭が悪くて不器用でも、霊力や霊能に関しては文句無く才能があると言える。
悪霊や妖怪を一切近付けさせない、入れさせないとまではいかなくとも、蚊取り線香くらいの払いよけ程度は機能する。
今回の原因であった子泣き爺や真っ暗返しのような低級妖怪ならば、供助が作ったお札もどきを嫌がって家に入るのを避けるだろう。
「そろそろ家に戻れ。カレー食うんだろ」
「あ、そうだった。内緒で出てきたから早く戻らないと!」
友恵は両親に黙って出て来た事を思い出し、慌てて玄関へと走っていく。
そして、ドアを開ける直前で一度振り返って。
「供助お兄ちゃん、猫又お姉ちゃんっ! お父さんとお母さんを助けてくれて、本当にありがとうございましたっ!」
頭を下げて、お礼を言った。これで何度目のありがとうか。でも、友恵は何度でも言う。
回数を重ねて言葉の有り難みが減っていったとしても、何度言っても言い足りない位に感謝していたから。
「うむ! これからも家族仲良くするんだの!」
「いいからさっさと帰れって」
猫又は腕を組み、友恵に満足気な笑みをさせて。供助は気怠そうに頭をかく。
各々が性格を現した態度と言葉で、友恵が家に入るのを見送った。
「ってと、帰るか」
「うむ。私は私の家にの」
「お前の家じゃなくて俺の家だろうが」
供助と猫又は回れ右をし、自分達の住まいである家へと続く道を歩き始める。
家を出た時はまだ空は明るかったが、今はもう陽が落ちて真っ暗。どれだけ時間が経ったのかと気になり、供助はズボンの右ポケットから携帯電話を取り出す。
「うわ、もう九時過ぎてら。ついでにスーパーで飯でも買って帰るか」
「うーむ……さっきまではバタバタしていて何とも思わんかったが、落ち着いたら腹が減ってきたの。今夜は何を食べようか迷うのぅ」
「昼に俺の分の弁当まで食った奴が、何を当たり前のように晩飯を食う気満々でいんだ?」
「あ、あれは報酬の件で苛立っておったし、起きてこんかった供助にも問題があったと思うんだがの……? つまり、お互い悪かったという事でイーブンに……」
「なる訳ねぇだろ。俺の飯を食った事には変わりねぇよな?」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
自分に原因があるとは言え、ご飯抜きだけは避けたい猫又。
妖怪の臭いを追って街中を駆け回り、友恵を逃す為にも一走りして腹も減っている。このまま本当に晩飯を食べれなかったら、自分の腹の音で今夜は眠れないだろう。
なので、猫又は強攻策に出る。
「供助、お前に昔から言われている言葉を教えてやろうかの!」
「あ? なんだよ?」
「それはそれ、これはこれ!」
供助の冷ややかな目が、猫又へと向けられた。




