報酬 ‐ニマンエン‐ 伍
「ってて……あ、そうだ」
頭突きによる衝撃か、はたまた痛みでか。
供助はふと、ある事を思い出した。
「友恵、やっぱ報酬の金……半分だけ貰っていいか?」
「え? うん、いいよ!」
早すぎる前言撤回。
報酬の金は要らないと言い切ってから五分も経たないで、供助は半額と言えど受け取りを求めた。
元々は全て渡す気だった友恵は、二つ返事でポチ袋を差し出す。
「なっ……供助、どういう事かの!? さっきは要らんと言ったではないか!」
「さっきはな。今は要るんだよ」
「供助、貴様……ッ!」
つい先程、感心したのも、見直したのも。全てを無駄にする言動。
供助は友恵が差し出すポチ袋を見て、指を差す。
「じゃ友恵、半分の一万は猫又にやってくれ」
「……ぬ?」
供助が指差した先は猫又。
てっきり供助が受け取るとばかり思っていた猫又は意表を突かれ、間の抜けた一言が漏れた。
「だってよ、前に報酬の半分は貰うって言ってただろ、お前」
「なん……だと……?」
「だから、半分の一万。俺は要らねぇけど、お前は欲しいんだろ?」
にやりと、供助は意地悪な笑いを見せる。
確かに猫又は言っていた。供助の家で横田との電話を終えた後、供助にはっきりと言った。報酬の半分は貰う、と。
報酬に金は要らないと言ったのは、あくまで供助の意思。二万円の内、供助の分だけは要らないという事だ。
つまり、あとの半分は当然、猫又が受け取る権利がある訳で。
「はい、猫又お姉ちゃん! 報酬の一万円!」
「ちょ、違うんだの、友恵! 私はお金が欲しかったのではなくて……」
「おーい、どうしたよ猫又ぁ? きっちり半分貰うんだろー?」
「供助、お前わざとやっておるだろう!?」
その通り、供助はわざと猫又を煽っていた。供助は猫又が報酬の半分を貰うと言った理由は聞いてなかったが、予想は出来ていた。
恐らく、供助から報酬の半分を受け取ったら、それを友恵に返すつもりたったのだろう。そして、その予想は当たっていた。
だから供助は煽る。金を受け取ると思われていた猫又に、色々と言われてきた仕返しとばかりに。
「そいや猫又、前に俺の事を意地汚ぇ人間だっつったよな?」
「う、うむ? 言ったような、言わないような、言ったような……」
「なぁ、猫又」
「な、なんだの?」
ひと呼吸置いて、ゆっくり息を吸い。猫又にその言葉を言われた時と逆転した状況で。
供助は言い返してやる。言われた言葉をそのままにして。
「お前、意地汚ぇ妖怪だな」
「のぉぉぉぉ!?」




