報酬 ‐ニマンエン‐ 肆
つい先程まで怒りを露にしていた猫又が、一転してご機嫌になっていた。
理由は言うまでもなく、供助が報酬である二万円の受け取りを拒否した事。だが、理由はそれだけでは無かった。
供助の言葉に友恵が初めて出会った時の事を思い出していた間に、猫又も思い出していた。友恵と出会い、依頼を受け、妖怪と対峙し、今この時までの事を。
そして、気付いた。ある事に。猫又はようやく今、気付いた。
「本当に素直じゃないのぅ、供助は!」
言っていない。言っていなかったのだ、一度も。
公園で友恵と再会し、悩みを聞き、妖怪の話をして、除霊を頼まれ、依頼を受けた時も。
供助は一度も、一言も――――『報酬に二万円を貰う』とは、言っていなかった。
怠惰な性格。面倒臭そうな態度。人道が薄い言動。そうだ、そうなのだ。供助はそういう人間だった。
底にある本当の感情を、本音を出す事は殆んど無い……捻くれた人間。それが供助なのだ。
猫又がこの街に住み始めて数週間。期間は長くなくても、払い屋の相棒として一緒に仕事もしてきて、供助がどういう人間かは知ったつもりだった。
しかし、やはり“つもり”だったようで、供助の意図に気付かず腹を立たせ、ヘソを曲げ、苛立っていた。
供助は供助なりに、供助は供助のやり方で。友恵を助けようとしていた。
『今回の件、最後まで見てから決めても遅くないと思うけどね』
猫又の頭に強く蘇る、横田の言葉。友恵からの依頼を終えたら、供助の相棒を辞めると電話した時に言われた言葉。
猫又よりも遥かに、供助と横田は付き合いが長い。あの時から横田は、こうなる事を予想していたのかも知れない。
「いい加減、に……離れろってんだ!」
「んのっ!?」
供助は一度頭を前に倒してから、一気に振り上げる。
すると、背中に抱き付く猫又の顔に、供助の後頭部による頭突きが炸裂する。
「~~~~ッ!」
「~~~~ッ!」
ようやく背中から猫又が離れるも、二人は声にならない声をあげる。
供助は頭に傷があったのを忘れて頭突きした痛みに。猫又は鼻を強打された痛みに。
二人揃ってしゃがみ込み、互いが互いの被害箇所を手で押さえて悶絶していた。
「供助お兄ちゃんと猫又お姉ちゃん、本当に仲がいいね」
「どこがだ!」
「どこがだの!」
友恵に返す言葉もタイミングもぴったり。
仲が良いと言うよりも、似た者同士なのかも知れない。




