第10話 魔法実習
大変お待たせしました。
第10話になります。
今回も主人公が魅せます(たぶんですが)
突然だが、今俺は少々面倒くさい状況にある。
「へへへ、覚悟しろよ! 出来損ない」
そう言うのは、クラスで同じやつの男子学生だ。
「それでは、これより魔法模擬戦を開始します。始めッ!」
審判役の先生のその一言で、俺の戦いは幕を開けた。
矛盾の魔法使い 第10話「魔法実習」
そもそもどうしてこうなったのか。
それは今から少し前にさかのぼる。
魔法実習の授業は、割と簡単で、課せられた課題をこなしていくというものだった。
実習用の場所である『実習室』は、普通の体育館並みの広さがあった。
「全員集合!」
その号令と共に、俺達は先生の周りに集められた。
「今日の課題は思ったよりも早く終わった。早めに終わるという手もあるが、せっかくの魔法実習だ。これから簡単な模擬戦を行う!」
先生のその一言に、クラスの連中は一気にざわつく。
それほど、この模擬戦と言うのは抵抗があるのだ。
何せ、カッコ悪いところを見せれば、馬鹿にされることは確実。
誰が喜んで自ら恥をかきに行くというのだろうか。
おそらくは、誰もいない。
一部の魔法使いを除けば、だが。
「しかし、今回は一組だけだ。誰かやりたい奴はいないか」
「はい! 俺やりたいです!」
先生の言葉と同時に素早く手が上がったのは金髪のきざっぽい顔をした男子学生だった。
魔法服には鎖のようなものがいくつもついていて、その性格がよくうかがえた。
「では、もう一人はいないか?」
当然、誰も立候補をしようとする人はいない
「では、誰か希望するものを選びなさい」
その状況に業を煮やした先生は、男子学生にそう告げた。
すると男子学生は、一瞬ニヤリと笑みを浮かべると俺の方に指差した。
「そこの出来損ない! お前だ!!」
男子学生の言葉と同時に、クラス中の視線が俺に注がれる。
そして、再びざわめきが起こった。
”あいつ、転校生だろ?”
”勝てるわけがない”
などなど、様々だ。
「では尾崎。お前はどうする?」
「ご心配なく。相手になりましょう」
やるかやらないかを聞いてきた先生に、俺はそう告げると男子学生の横まで歩み寄る。
「それでは、フィールドを形成する。離れるように」
先生がそう告げると、俺達を覆うように半径2,30mの膜状の者が現れた。
そして、俺達は向かい合うように立った。
「へへへ、覚悟しろよ! 出来損ない」
「それでは、これより魔法模擬戦を開始します。始めッ!」
俺への挑発をよそに、模擬戦は始まった。
この模擬戦でのルールは簡単だ。
まず、マジックセーブが0%になるか降参すれば相手の勝ちとなる。
試合中マジックセーブは常に見えるようにしなければいけない。
この二点が主なルールだ。
後は使う魔法の種類に制限はない。
「ディ・レイテ・メレーナ!!」
男子学生から放たれたのは、轟々と燃えたぎる炎だった。
俺はそれを横に避けることで躱した。
「ルミエラティエーナ!」
すると、今度は複数の炎を放ってきた。
それを俺は、屈んだり横に転がりながら避けた。
「おいおい。逃げてばかりじゃ詰まらねえぜ? 攻撃して来いよ」
「はぁ……はぁ……」
息を切らしている俺に男子学生は、あからさまな挑発をする。
だが、俺はそれに乗らないようにする。
魔法が使えない俺には、命取りだからだ。
(勝負の鍵は、どのタイミングで跳ね返すか……か)
「考え事してるとは、ずいぶん余裕そうだなぁ!! リテア・ライム!!」
「っちぃ!」
考え事をしていたために、周りへの注意が散漫になっていたため、俺は男子学生の攻撃を食らってしまった。
衝撃はそれほど来なかったが、これ以上やっていてもじり貧になりそうだ。
「だったら、お望み通りやってやろうじゃないか!」
「あっははははは!! 啖呵切ったかと思えば取り出したのはただの剣じゃねえか! さすがは出来損ないの魔法使いだ!」
俺が持つ剣を見た男子学生が、腹を抱えて笑い始めた。
「どっちでもいいだろ? どうせ負けるのはお前だ」
「何だと?」
俺の言葉に、今まで笑いこけていた男子学生は、目を細めた。
「聞こえなかったか? お前は負けると言ったんだ」
「言いやがったな! この出来損ないの分際で!!」
俺のあからさまな挑発に乗った男子学生は、呪文の詠唱を始めた。
「ディスペル・ライデン・アミティオ!!」
そして、男子学生から放たれたのは赤い魔法弾だった。
どうやら、この男子学生は火属性のようだ。
それは置いといて、俺はそれをじっくりと見据える。
射程範囲内に入るのを待つ。
「そこ! ディスペル・ライデン・アミティオ」
「何!? がッ!!」
剣を横に振りきった瞬間、魔法弾は放った男子学生の方へと向かって行き、命中した。
「何なんだよ! 今のは!!」
「お前に答える義務はない」
男子学生の言葉に、俺はそう突っぱねた。
男子学生は明らかに動揺していた。
「ならば、俺の最高の技で葬ってやるッ!! ルティエ・オルゼム・マルセイユ・ミレノイア!!」
「あれって、無限連環魔法かよ!?」
男子学生が展開した魔法陣を見て、誰かがそう叫んだ。
――――無限連環魔法。
それは、読んで字のごとく魔力が尽きるまで攻撃や、相殺をすることが出来る万能な魔法だ。
勿論難易度もかなり高く、出来る者は少ないと言われている。
それをやってしまうのだから、目の前の男子学生の腕は確かのようだ。
まあ、人格の方がめちゃくちゃだから台無しだが。
(俺のマジックセーブは深緑………対するあいつのは緑色。ならば、あれで落とすか)
俺はそう考えると、すぐに行動に移す。
「潰れろぉ!!!」
一気に放たれる赤い魔力の刃。
「インベルノ・イレイズ」
俺はそれらを無効化しながら、前方に駆ける。
「なッ!?」
そして、あまりの事態に固まっていた男子学生にめがけ俺は、
「尾崎流武術、”閃”!!」
白銀の魔力を纏った剣を一気に振りかざした。
「そこまでッ!! マジックセーブの停止を確認。よって、今回の模擬戦は尾崎君の勝利とする!!」
その先生の言葉で、実習室はこれまでにないほどどよめきが湧き上がった。
”嘘だろ?”といった声が多く聞こえた。
「よし、それでは授業は終わりだ。号令!」
呆然としている男子学生をしり目に、俺達は号令をすると、実習室を後にしたのであった。




