第十二話 幸せのかたち~The form of happiness~
また読んで頂きありがとうございます。
第三章はかなり緩いですね。
楽園の中にいる人間と勇樹達とのギャップを感じて貰えたらと思ってます。
作者本人も話が緩くて、書くペースもスローダウンしてしまったというか。話の展開が進まない。
それでは、第十二話スタートです。
第十二話の主な登場人物
生田勇樹:主人公『死神』
生田ウェン(フィリピン人):妻『聖鬼母』
生田星来:息子『ヒーロー』
ジーン(フィリピン人):家族的存在『アイドル』
田中晴喜:ヤクザ
清原平八:ヤクザ(親分)
二階堂渉:ヤクザ(田中の子分)
グウェン(ベトナム人):グウェンズ
第十二話 幸せのかたち~The form of happiness~
四月四日午前六時
それぞれが当番を決められている為、皆が同じ時間に起床をする。
テント前に田中がやってきた。
「おはようございます!昨日はありがとうございました。今日から皆さんにやって頂きたい事があるので、食事後に校舎前に来てください。」
田中は言い終え、門の方に向かった。
門番も交代制になっており、状況報告をすることになっていた。
田中が交代した後の門番に聞いた。
その後、焦りを見せ見張り台に登った。
そこには、田中の子分である二階堂がいた。
「あ!兄貴!おはようございます!あの人いいんすか?」
二階堂は外を指さした。
「さっき報告を受けた。暫く見てみるか。」
外には勇樹がいた。
朝の五時半には外に出ていたらしく、田園を歩いている。
「あの人何やってんすかね?」
勇樹は、ちらほらといるゾンビを、田んぼから遠ざけては止めをさしていた。
預かっていた刀も持ち出していた。
それを、かれこれ三十分ほどやっているらしい。
勇樹が戻ってきた。
見張り台にいる田中に気づき、マスクを外して、挨拶をした。
「おはようございます田中さん。」
門が開き勇樹が入ってきた。
「勇樹さん!何やってたんすか?」
田中が慌てて下に降りてきた。
「田んぼが見たくて。あそこに苗を植えて、秋には収穫ができる。これだけ広いんですから、繰り返しやって行けば、食料に困る事はないんじゃないかと思いまして。邪魔なゾンビを排除していました。」
田中が理解できずに聞いた。
「どういうことですか?」
「田んぼ全部を壁で囲む。私たちがいるからそれは可能になるはずです。」
私は、ここに来る途中の車内から、外を見ていた時に思っていた。
田中が笑顔を見せた。
「やってもらいたい事が増えました!ありがとうございます!」
私は刀を渡した。
握手をして、田中は自分の持ち場に戻り、私はテントに戻った。
3 人とも既に起きていて、着替えもすんでいた。
「ミテクヤ!コノマエ、sports shop デゲトシタピンクノウェア!カワイイ?」
ジーンの顔はとても嬉しそうだった。
「かわいいよ。」
ウェンも白のウェアを着ていた。星来は田中から支給された洋服を着ていた。
普通の洋服を着れるという事が、こんなにも嬉しい事とは思ってもいなかった。
私たちは、ずっとゾンビの目を気にしながら生き抜いてきていた。
私は、オレンジの作業着を選んだ。
「エ!?パパ!?ソレキルノ!?」
テント内に笑いが起きた。
「いいじゃん!さんざん黒ばっかりだったんだから、こんな派手な色着たって!」
下は水色のズボンを履いた。
「パパ!それダサすぎ!あはは!」
「クヤ!カッコワルイ!アハハ!」
しかし、人気がないからこういう服が残っているんだろうな。
私たちは、ひとまず食事をする為に外に出た。
そこには田中が立っていた。
「皆さん着替えましたね!お!勇樹さんカッコいいっすね!」
(お前の洋服の趣味か!)と心の中で叫んでいた。
3 人は笑いが止まっていない。
このまま食卓についた。
昨日の夜に食べた所と同じ場所だった。
皆で挨拶を終え食事にありつく。
「パパ見て!パンだよ!」
星来がかぶりついた。
「凄い!パンまでつくれるんですか!?」
私は田中に聞いた。
「小麦粉とかも取りに行きました、まだまだ蓄えてあるんですよ。それでかまどを作ったから、パンも焼けるんですよね。うちの者ですが、料理が得意な奴がいまして。」
何から何まで想像を超えていた。
ジーンとウェンは夢中で食べていた。
食事を終え、校舎前に移動した。
そこには田中と二階堂が待っていた。
「これから役割分担をしたいのですが、いいですか?」
田中がメモを見ながら言ってきた。
「まずは、星来君。星来君にはここで、勉強をする事ができます。」
二階堂が星来に教科書とノートを渡した。
星来は喜びすぐに受け取った。
今までなら星来はもう 6 年生になっている。
教科書を開きまじまじと見ていた。
「次にジーンちゃん。ジーンちゃんには洗濯や掃除をやってもらいます。」
ジーンは得意気に、私に任せろといった表情を見せた。
「ワタシナンデモアラウネ!」
もちろん洗濯機等はない。全て手洗いになるわけだが、フィリピンでは今でも手洗いはよくあるそうだ。
「次に、ウェンさん。ウェンさんには、グウェンズの通訳と指示をお願いします。」
あぁという表情を浮かべて、眉を少し動かし任せてという表情を見せた。
「最後に勇樹さん。勇樹さんには、俺たちと一緒に行動をしてもらいます。」
具体的な事を言わなかったが、だいたいの察しはした。
時間がまだ早いので一度テントに戻る事にした。
「星来良かったな!」
私は星来の肩に手を置き言った。
「うん!楽しみだよ!でも、やっぱりなな達も連れて来たかった。」
私は昨晩の風呂場で田中にお願いをしていた。
銭湯コミュニティにいる生存者達を、ここに連れてくる事はできないか聞いてみた。
答えは NO だった。
人が増える事により、食料が不足する。
食料が不足した場合は、恐らく争いが起きて収集がつかなくなり、コミュニティは崩壊すると言っていた。
ななと藤沢さんだけでもと考えたが、それはあの2人が逆に嫌がるだろう。
同じ死地を乗り越えた、銭湯コミュニティの結束力は強い。
私も同じ立場なら、答えは同じだったと考えた。
午前八時
それぞれが、仕事に就く時間になった。
当番制だが、昼休憩を挟み、五時までが活動時間だと決められていた。
まるで会社のようだ。
外に出て、中央の開けた場所に皆が集まっていた。
星来たち子供組は、そのまま集まった後に校舎に向かった。
皆が担当するところに一列に並んでいた。
「ジーンはあっち、たぶんママはここかな。私は、ここだな。」
それぞれの列の最後尾に並び、田中が一日やる事を話し始めた。
私の今日の仕事は、水汲みと狩りをするらしい。
「じゃあ、また後でね。」
私はウェンとジーンに手を振り持ち場に移動した。
皆が水汲み用の桶と天秤棒を持ち、山の中に移動した。
既に、川までは道が出来ており、歩きづらさもあったが、私自身がパンデミックになって以降はずっと歩いて移動していたせいか、足腰が強くなっていたことに自分でも驚いた。
生活区から川までは、20 分程歩いた。
その為か、人数も一番多くて 30 人で行動をしていた。
桶に水を汲み、天秤棒で担いで移動をする。
1 つの重さが 5 ㎏あり、両方で 10 ㎏ある。いつも、それぐらいの荷物の重さも担いで移動していたので、私にとっては、苦にならなかった。
「勇樹さん、凄いですね!」
田中が話しかけてきた。
「えぇ。これぐらいなら、毎日の事でしたから。」
私は笑顔で答えた。
汲んできた水は、一つは生活水用として、もう一つは飲料用として分けていた。
2 つの大きな樽に流し込み、そこには蛇口があり、捻ればバルブが開いて水が流れてくる仕組みだ。
しかし、汲んできた水も毎回階段を昇って入れていては効率が悪い。
工場をやっていた私にとって、動線や効率の良さは常に考えていた。
田中に提案をしてみる。
「田中さん。下にもう一つ大きな桶を作って、両サイドからチェーンブロックの様に、引っ張って引き上げるシステムというのはどうでしょうか?」
田中は驚き、その案に賛成してくれた。
「設計図は私が描きますので、任せて下さい。 」
何も原始の世界に戻った訳ではない。
外に出れば、役に立つものは沢山ある。
ジーンが水を貰いにきた。ジーンも楽しそうだった。
ウェンもしっかりとグウェンズや生活者の人達とコミュニケーションを取れていた。
私たちは再び、水を汲みに山に入った。
午前中だけでも 3 往復が限度だ。
午後十二時
休憩時間になり、皆で食事をとるため大テーブルのある方に移動した。
特に決められている訳ではないが、皆も席は大体同じ所に座っている。
私が行った時には星来が座っていた。
「授業はどうだ?」
「うん!新しく覚える事も多いし、楽しいよ!」
私は星来の頭を撫でた。
ジーンとウェンもやってきて、席に着いた。
2人とも楽しそうに会話をしていた。
忘れていた日常が今ここにある、不思議な感覚だった。
食事を終えて午後からは狩りに行くという。
弓を使った狩りを行うそうだ。
狩りは主にグウェンズがやっているらしい。
銃を使うと、その音に動物が逃げてしまうため、場所によっては壁を越えられるところもあるそうだ。
大人数では移動せずに、5 人で一組の 6 チームが山を散策する。
グウェンを先頭に草をかき分け進んでいく。
餌場を作りそこに鹿がいれば矢を放つ。
簡単な罠を仕掛けても、まさに根こそぎ取られたらしい。
グウェンが手で私たちを制止した。
餌場までは行けていないが、鹿がいたようだ。
ゾンビとは違う緊張感が張りつめた。
グウェンが何か言っているが、理解は出来なかった。
ホルダーから矢を取り、弓を引く。放った矢は、見事に頭に突き刺さった。
「凄いじゃないか!」
私は興奮して、グウェンの背中を叩いていた。
「アニィンガント、ゴゼイマース。」
拙い日本語と両手を合わせて笑顔で答えていた。
射止めた鹿の元に行き、グウェンは両手を合わせて鹿の目を閉じた。
かなり大きいので 2 人がかりで持ち運び生活区に移動をした。
午後二時―星来サイド―
体育の授業になった。
グラウンドと呼べる広さはなく、中央広場で体力測定が行われた。
「じゃぁ次は生田星来君。あそこまでが、50 メートルだから、走ってタイムを測ろう。」
星来は位置に着き、走った。
「えぇ~星来君めっちゃ遅い!」
「おーい!そんなんじゃゾンビに喰われてしまうぞ!」
星来を馬鹿にする笑いが起きた。
必死に走り、なんとか完走する事はできたが、左足が痛くて抑えていた。
星来の銃創痕は、ももの筋肉を破壊していたため、歩く事は出来ても走る事はできなかった。
「あはは!え~遅すぎ!よくそんなので生き残れたな!?」
それを聞いていたジーンが激昂し、子供たちに向かおうとしていた。
だが、ウェンがジーンを抑止した。
大丈夫だから、見ていてと伝え子供たちの様子を遠くから見ていた。
星来は他の子供達に何も言わなかった。
我慢している訳じゃない。
ゾンビから生き残る術も、銃で撃たれたことも、ここの子供達は知らない。
星来にとってそれは、知ってもらう必要がないからだと感じていたからだ。
「僕は運動苦手なんだよね。」
苦笑いをして答えた。
しかし、ジーンは納得していなかった。
「Ate, I’m frustrated.」(私は悔しい)
ウェンは、ジーンを抱きしめて頭を撫でた。
午後三時四十一分
そこから程なくして、山に行った狩り部隊が帰って来た。
どのチームも獲物を仕留めてきたようだ。
鹿や猪、川魚といった、まさにジビエ料理が作れそうだった。
獲物は、調理場の横にある小さな小屋の中に運び込まれ、処理をされる。
ここでもまた、グウェン達が活躍していた。
私はそれを見ながら言った。
「なんでもできてしまうんだな。以前に、妻の故郷のフィリピンに行った時に、豚の丸焼きを食べた事があるんです。でも、その処理をしていたのは、料理人じゃなくて、ごく一般の家庭でした。逞しいというか。 」
田中も驚きを見せて、笑っていた。
捌いた肉は、全て料理にするわけではなく、燻製にしたりして日持ちが出来る様にしている。
余すことなく全て食すように、命に感謝をして頂く。
私は、少し時間が余ったので、水を入れている樽の寸法を測る事にした。
午後八時
私たちは、テントに戻り寝る支度をしていた。
ジーンがついに我慢できなくなったのか、今日の星来の事を言った。
「クヤ。ワタシワ、4 ニンガイイ。マエノホウガイイ。ココワイイバショ。デモ、ヒトガヨクナイ。」
言いたいことは分かる。
今までが、生き抜いていく事に必死だった私たちだ。それが、ここ楽園は生活や安全が保障されている。
中にいる人間の殆どは、ぬるま湯に浸かっている状態だろう。故に性格がでてしまっているのだ。目つき事態が、今までの生存者達とまるっきり違った。
「ひとまず、まだ一日目だ。星来、お前はヒーローだろ?力を誇示する必要はない。いつか、皆が見直すさ!ジーン、君はアイドルだ。今までだって、皆の心に輝いている。」
ひとまずは納得してくれたようだった。
「パパ?明日の朝も外に行く?」
星来が聞いてきた。
「そのつもりだけど、どうした?」
「僕も行きたい!」「ワタシモ!」
明日の朝は、3 人で外にいく事にした。洗濯も終わって、私たちの黒い服も綺麗になっている。時間が余ってたのか、ジーンが私たちのマスクも綺麗に拭いてくれてたようだ。
「ママは?どうする?」
ウェンは首を横に振った。
実はウェンには、もう一つ仕事を自分からやっている事がある。
それが、親分のお世話だ。
通訳の合間に、親分の所に行き、食事や下の世話、会話の相手をしていたらしい。
優しい妻だ、亡くなった自身の父と重なる事もあったのだろう。この中の人達はやりたが
らなかった事を、自ら進んで実行していた。
「オヤブンゲンキナイ。デモ、ダレカイッショ、タノシイナルヨ。」
妻は笑顔で答えた。
「The form of happiness」
第十二話 終わり
ここまで読んで頂きありがとうございます。
何というか今までの放浪は一度休憩という形で、楽園で過ごす4人なのですが、上手く馴染めていけるかはまた次の時に。
次回予告
パンデミックから初の夏到来。梅雨や台風、野菜の収穫など、天候に対応するにはどうするか?
第十三話 夏
次回も読んで頂けたら嬉しいです。
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