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 目を覚ました珊瑚にも他の人々にも、自分が魔術師の人質にされていたという記憶は残っていなかった。


 思ったよりも夜遅くまで続いたカーニバルをいぶかしみ、しかしなんとなく楽しかったような浮かれた気分に包まれ、誰もかれもが上機嫌で広場を後にした。


 ただ、花火だけが。


 すべての人々の脳裏に焼き付いていた。


 誰もがその花火を眺め、美しさに歓声をあげたと覚えている。

 実際には、その花火を見たのは和彦とフォウだけだったはずなのに。

 何日たっても、あの花火はきれいだったねえ、すごかったねえと町の人は、よるとさわるとその話題に花を咲かせるのだった。。


 そして、その花火は。

 市議会のほうでは学生たちによるサプライズだと思いこみ、学生たちや市民は主催者側のしゃれたプレゼントだと、今でも誤解したままである。


「きれいな花火だったわねえ」


 それを知ったとき和彦は胸を痛めるとともに、なぜか少しだけほっとしたのだった。


 あの男が生きた証を、皆が記憶の片隅に残している。


 それが救いだ、などというほど楽天的な気持ちにはなれないが。


「でもさあ、和彦さん」


 フォウが小さく首をかしげて言う。


「アイザス陣営の連中はみんな、永遠の命をもらってるんだろう? だったら、爆弾で細切れになったあいつは今、どうなったんだろうな。まさか、細切れになったままで生きてるとか?」


「さあねえ」


 たとえそうだとしても、小さな肉片になった彼には、もはや自分の意思もなければ意識もあるまい。

 その状態を生きていると呼んでいいかどうかも、和彦にはわからない。


 しかし、無数の欠片となってこの町へ降り注いだレオンが、そういう状態のままで永遠に生き続けるのだとしたら。


 それは、この星の草や木や水が生きている、というのと同じではないのかと和彦は思う。


 生物は土に還り、次の生命を生み出す。

 レオンもまた、地球のそういったサイクルの仲間入りをし、地球の一員になったのだ。


 それならば。


「僕等が地球を守り、地球の自然が繁栄し続ければ……それが、レオンの勝利になると言ってもいいんじゃないだろうか」


「違うよ、和彦さん」


「え、何が?」


「レオンじゃない。自分で言ってたじゃねえか。あいつは大魔術師、アブドラだ。俺たちは、その名前であいつのことを覚えていてやらなきゃあ」


「……ああ」


 和彦は大きく息を吸い込んだ。


「ああ、そうだね」


「あいつの最後の大魔術を成功させるためにも、俺たちは、何がなんでも地球を守り抜かなきゃいけねえんだぜ」


「そうだ。そのとおりだ」


 和彦はフォウと肩を並べて、丘の上を仰ぎ見た。


 魔神アブドラは今日も、陽光を受けてキラキラと美しく輝いていた。


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