傭兵とスープ
今日は雨であった。
決して豪雨ではなく、普通の雨量の日。
宿に来た客は古びた外套に少し錆びた鎧を身に着けていた。
剣の鞘も著名な冒険者のようにピカピカではなく、少しくすんでいる木の鞘だ。
客ことジョンは傭兵であった。
レレイの宿に傭兵が来るのは珍しくなかった。
冒険者やカロルのような客も来るのだから。
だが、客の様子がどこかおかしい、
目が笑ってない上に笑みが疲れ切っているのだ。
そして、決定的な事がある。
ジョンが注文したのは黒パンと肉と豆煮込みのスープであったが、ジョンがパンを懐に隠したのだ。
まるで、誰にもとられないようにするかのように。
レレイがえっ?となっていると、母であるマリーが
「ちょっと、誰も取りやしないよ」
ジョンに言う。
ジョンははっとし、照れくさそうに笑う。
「すまない。癖になっているようだ」
「あんた、傭兵なんだろ?‥‥まさか、南からの戻りかい?」
「あぁ」
「だったら、なおさらここじゃ誰も取らないよ。金さえ払えばおかわりもある」
「そうだったな。ここは宿だったな」
「南てそんなに戦争が激しいんですか?」
「レレイ」
レレイの言葉にマリーはたしなめるような声を上げる。
「激しいか‥あんまり口を開きたくないな」
「‥‥ごめんなさい」
「嬢ちゃんが謝る事じゃないさ」
ジョンはへらりと困ったように笑う。
「あんた、お代わりいるかい?」
「あぁ。いただくよ」
「レレイ。スープを持ってきな」
「はーい」
レレイは厨房に向かい、マリーはジョンを見る。
「あんた、なにをしに南に行ったんだい?」
「簡単だよ。金さ。傭兵は金目当てに戦場に行く」
ジョンがぽつぽつりと語りはず
「俺は元々農家の三男坊でね家も畑も継げられないから傭兵として身を立てることにしたんだ。農家の三男坊なんて道が限られているからね」
だが、傭兵とは決して甘くはない職業だ。
戦場では誰かが倒れ、誰かが飢えているような場所である。
ジョンは何度もそんな現場で生きてきたのだ。
そして、ジョンがレレイに言えなかった南の大陸は今各地で戦争状態だ。
南には特殊な資源がある。
それは生活を豊かにするために使われることとなり、南の発展に寄与している。
だが、その資源は人外であっても影響を及ぼす。
身体か精神か。影響があるようだ。
だが、人々は資源を巡りあって争う。
南の大陸全土が現在戦争中という状態になっているらしい。
南の戦場は傭兵であっても食べ物を奪いあう。いや、傭兵だからこそ食べ物を奪い合いをしただろう。
戦場で食事は生命線の一つだから。
東の戦場がぬるま湯のような場所に感じる。
ジョンはそんな激戦区から帰ってきたのだ。
だから、パンを隠してマリーにたしなめられた。
ここは南ではなく東なのに。
「あんたも苦労しているわね」
「あぁ」
こつこつと指で机をたたいて待っていると
「お待たせしました」
レレイがスープを持ってくる。
肉と豆のスープ。
南の戦場ではこういった料理で十分に贅沢になってしまった料理。
パンの一つだけでも血が飛ぶようになってしまったのが南だ。
「今日は雨か」
窓の外は雨の粒がぶつかっている。
南の戦場だと、誰かが血を流したり、食事に混ざる。
「スープにはいりゃしないよ。雨漏りの点検はちゃんとしているんだから」
「そうか」
ジョンはスープをすする。
「南にはなにがあるんですか?」
「‥‥」
マリーは今度は何も言わなかった。
多分ジョンに話をさせた方がいいと判断したのだろう。
「南には東にはない花や植物もあったよ‥‥金になる石もな」
「花は見てみたいですね」
「あぁ。花ならいい。食えやしないが、血を流さない」
「そんなに南の石が珍しいですか?」
「あぁ。珍しい。珍しければ金になるからな」
「その石は綺麗なんですか?」
「綺麗だけど、お嬢ちゃんなら花を見ろ。東の大陸よりずっとでかい花を見れる」
「わぁ、見てみたいです」
ふと、スープの器を見てみると、既に空だった。
どうやら、無意識に食べながら喋っていたらしい。
だが、口の感触は残っている。
歯で豆を砕いた感触にスープの後味。
「嬢ちゃん。お代わりをくれないか?」
「はい」
レレイが再び厨房に行く。
「まぁ。なにかあったら呼ぶんだよ」
マリーもその場を離れる。
しばらくして、スープが運ばれてきた。
ジョンは口にスープを匙で運ぶ。
スープの塩っけ
柔らかくなった豆の感触。
血が混じらない味。
ジョンは今度はパンを隠さなかった。




