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ポイント・ネモの星  作者: 都津 稜太郎
1.ポイント・ネモ
2/13

2.トラピスト1-d①


「だぁっぁぁぁっぁぁぁぁ!!!クソが!!!!」


 視界が真っ暗になった。そして漏れた光から見える、蠢く虫の腹……

 慌ててマスクの上を手で払い除け、地面に叩きつけられた甲虫を素早く愛銃のG36Cで撃ち抜く。ホロサイト越しに粉々になった甲虫を見て、またもや叫びたい気持ちに襲われた。だが、その気持ちとは反対に、飛び散った甲虫の羽に薬きょうが跳ねて綺麗な音がする。


「蠣崎……無駄玉撃つな」


 こればっかりは隊長の命令と言えど聞けない。手のひらより大きいバグズが顔面に飛びついて来たら、マスクをしていると言えど、背筋が粟立ち、全身を悪寒が襲い、体が反射的に撃ち抜いてしまう。


「……無理です」

「手で払い除けるだけにしろ。これは命令だ」

「……はい」


 インカムから聞こえて来る隊長の絶対的命令に、逆らう事は許されない。それが軍人としてそして”レイド”を無事に終える為に必要なことだ。


 既に調査を開始している学者先生の周りは榊原と那須が固めていて、私と隊長は周囲の立哨。里美は高所で一人SR(スナイパーライフル)を握って周辺を警戒している。

 自分の銃声は聞こえていたようだが、各人がインカムから聞こえて来る我々の会話で、心の内で処理したようで、隊長以外の反応は無い。


「ところで隊長、なんで今更トラピストなんですか?」


 インカム越しでは全ての会話が全員に筒抜けなので、大声で会話を始めたが、マスクの中でくぐもった声になってしまっている。


「ん?あぁ、噂では日本が居住可能惑星っぽい星を発見したらしい」


 ネモ条約に参加している国々の取り決めで、各国が最初に発見した星は、その当時国が一番最初に足を踏み入れることが出来るという条項があるのだが、それが今回の調査に関係あるとは思えなかった。

 このトラピスト1-dは既に全世界の国家の共有財産として扱われているので、今更調査する意味がない。


「それなら、その”っぽい星”に行けば良くないですか?折角なら初めて人類未踏の地ってやつを踏んでみたかったです」

「最新環境の比較なんだとさ。ここ7~8年、型どおりの定期環境調査しかしてなかったから詳細なデータが欲しいんだろ」

「はぁ、そうなんですか。自分は”科学”ってあんまり分かんないもんで」

「俺達が考える事でもないさ。そう言えば蠣崎はまだ未踏調査してないのか」


 私が日本国”宇宙作戦軍”に入隊してから、早9年、今年で10年目となるが、この宇宙作戦軍・第1宇宙作戦隊・第1分遣隊・第1小隊・第4分隊に配属されたのは3年前。6年前に日本国”軍”の全ての特殊部隊選抜過程を、一度に行う厳しい試験を乗り越え、そこから3年の訓練を経てやっと配属された。

 体力は自信があり予想通りの最高な結果となったが、一番嫌いな座学に苦戦したのを昨日のことのように思い出す。だが、その努力もあって宇宙への切符を手に入れたのだ。

 それもこれも全て、人類が到達していない場所に一番最初に踏み入れるという、ただの少年の憧れ、夢の為であった。


「自分は最初から一条隊長の隊ですよ?ここ3年無かったじゃないですか」

「う~ん、そうか。山科と同期だから勘違いしてた」

「あの天才と比べないでくださいよ」


 里美は天才だ。

 幼馴染だが自分と正反対の優秀さを持つ里美は、18で大学院を卒業して宇宙作戦軍に入隊。その後は順調にキャリアを歩み、22歳という最年少で前線部隊である”第一分遣隊”に配属となった。


「天才だとか言い訳してるから、お前はまだ中尉でアイツは少佐なんだぞ」

「分かってますよ」


 我々第一分遣隊の最低階級は軍曹だ。だが軍曹は訓練兵の間の階級で、現場に出るには最低曹長の階級が必要になる。新人の那須でさえ20で曹長、衛生兵の榊原は25で少尉だ。まだ中尉になって2ヶ月の自分は追い抜かされそうになっている。

 この状況に不安がないわけではないが、階級が上がらないものはどうしようもない。「42で中佐の一条隊長だって遅いのでは?」と言いたいところだが、言ったらそこらで蠢く虫を投げつけられそうなので、口から出さず、他の話題に向かう事にした。


「それにしても植生が相変わらず濃いっすね」

「あぁ、二酸化炭素が多いらしい、地球の恐竜がいた時よりもだからな」

「草木の天下ですね」

「それを食べるバグズもな」

「嫌な事ですわ」


 観測当初は平均気温が低めだと言われていたこの星も、”ポータル”を使って実際に足を踏み入れてみれば、大気組成が二酸化炭素が多すぎる環境だった。それによって平均気温も高く、植物も虫も大きい。

 そいつらが時々足元から顔に向かって飛び出してくるんだから、虫が苦手な自分としては堪ったものではない。”虫がいない”居住可能惑星があったら、是非とも移住を移住を志願することにしよう。


「調査終了」


 インカムから榊原少尉の声が聞こえて来たので振り返ると、5人の学者とそれを護衛する二人がこちらに手を振っていた。学者たちが持つ大荷物と、台車に乗せられた沢山のコンテナが、彼らの今回の調査の充実について雄弁に語っている。


「了解、帰るぞ」


 一条隊長の一声で、全ての地点からの撤収が決定された。あとは、無事に帰るだけだ。



ーーーーーーーーーーーー


階級:下士官以下もポイント・ネモの基地にいるが、曹長を除き現場に出る事は無い。基地内ではよく見る。

はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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