饗宴編 仲間内論争②
「そもそも私がマナーを教えているとはいえ、カイルとセラフィナのふたりだけで王宮に行くなんて危険すぎるわ。私が潜入してサポートをしたほうが良いのよ」
エルはそう意見を述べると隣にいるセラフィナに目線で同意を求める。
「その通りですわ」
「セラフィナもこう言ってるわ、レオンはやさしくて可憐なセラフィナに頼りにならなさそうなカイルだけで王宮を乗り切れって言うつもりなの?」
「おい、誰が頼りにならないだって」
エルの言葉にカイルが反応する。
「いまだにセラフィナの手を取ってまっすぐに顔を見れない奴のどこに頼り甲斐があるのよ」
「うっ……!」
エルの正論パンチに、カイルは言葉を詰まらせてしどろもどろになる。図星を突かれてうまく反論ができない様子だ。
「エル様はセラフィナ嬢を勘違いしておられます、この人は勇猛で強情なシスターです。一人でもおそらくなんとかなります」
この場で唯一、先日セラフィナの起こした騎士団乱闘事件を知るレオンはそう述べた。
この女なら絶対に拳一つで切り抜けるだろうと言う確信があった。
鉄拳に加えて、治癒術に毒・薬物無効に超自然回復とセラフィナというシスターはいろいろと規格外なのである。どこの建国の聖女様だとレオンは内心ツッコミたい。
「セラフィナになんてこと言うのよ!審議!」
「あー、審議の結果レオンの意見を採択」
煙管の煙を吐きながら、『勇猛で強情』に心当たりのあるオズが答えた。
彼もまた、セラフィナの清廉さに隠れた強かな顔を知っているのだ。
「エル様、もう少し真実を見る目を養ってください。あなたの隣にいるシスターはあなたが思うほどお淑やかではないです」
「ちょっと!セラフィナになんでそんな当たりがきついの!オズもレオンもひどいわ!」
「良いのですエル様、わたくしは強くなりたいのですからそのように言っていただけるのなら、わたくしも本望ですわ」
「……セラフィナ!!」
エルは清廉な面持ちで謙虚な発言をするセラフィナをいじらしく感じて思わず抱きしめる。
彼女の暖かくて柔らかい身体のどこに勇猛さがあるのだと憤った。(強情に関しては否定はしない)
「はい」
そのやりとりを見ていたミルリーゼが挙手をした。
「なんですかミルリーゼ嬢」
「僕もエルの仲間になりたい」
「は?」
「なんて言うか、こっちよりあっちの方がメンツがいいというか?」
ソワソワしながらミルリーゼは羨ましそうに抱擁するエルを見ている。視線に気づいたエルは、セラフィナとの間にスペースを作った。
「勿論いいわよミルリーゼ、歓迎するわ!だってミルリーゼは私の“親友”ですもの」
「はい、ミルリーゼ様もこちらにどうぞ」
にっこりと微笑んで抱擁をしていた女性二人がミルリーゼの参加希望を受け入れた。
「やったー!!!なので、ごめんねお兄ちゃん、時給は85枚のままでいいよ」
「おいふざけるな!おまえちゃっかり5枚下げるんじゃない!!」
エルたちの胸に飛び込みながら、ミルリーゼは離脱した。当初銅貨90枚のレオンの時給がなぜか5枚下がった。
「えー、オジさんもお嬢様につこうかな」
「もう満員なのでオズは結構よ」
左手でミルリーゼ、右手でセラフィナを抱きしめながらエルは首を横に振るった。
先ほど、セラフィナを酷く言ったことを根に持っているようだ。
「なぁ、母さんが昼飯食うかってー」
いつのまにかエルのカウンター正論パンチのショックを立ち直り部屋を抜け出していたカイルが戻ってくる。母親のガラハッド夫人から言伝を預かってきたようだ。
「カイル!今それどころじゃないだろう!!」
レオンは律儀に突っ込む。彼は根っからの真面目な青年なのだ。
「はい!僕ケーキ食べたい」
「ミルリーゼ、それはお昼ごはんじゃないでしょう。奥様に野菜たくさんのメニューリクエストしておいてくれるかしらカイル」
「ひどいやエル!!やっぱエル陣営離脱する!!お兄ちゃんたすけて!!」
「だめよ逃さないわ、私の陣営は永久離脱不可能よ」
腕を抜けようとするミルリーゼを抱きしめて補足するエル、その様子をセラフィナは微笑ましく見守った。
「うーわお嬢様、その悪質な陣営運営は、なんかの法律違反じゃない?」
「お兄ちゃんー!たすけてよー!!野菜やだ!!」
「申し訳ないミルリーゼ嬢、俺の陣営は裏切り者は二度と加えん」
助けを求めるミルリーゼをレオンはそっぽを向いた。
彼も、裏切り行為をしたミルリーゼを根を持っていたようだ。
「なぁセラフィナ、母さんが手伝ってほしいってー!」
「かしこまりました、エル様、行ってまいりますね」
夫人からお手伝いの指名をされたセラフィナが一礼をして部屋を出ていく。カイルもそれについていった。
もう全員が当初に行われていた討論についてはどうでも良さそうな雰囲気が部屋全体に漂っていた。




