饗宴編 仲間内論争①
「絶対に譲らないと仰るのですね」
「絶対に譲らないわ」
「「…………」」
カイルとセラフィナが見守る中、ダンスの練習場に借りているガラハッド家の一室でエルとレオンは向き合っていた。
「どうしても王宮に行くと仰るのですね」
「どうしても王宮に行くわ」
レオンは、王宮のパーティに使用人の服まで用意して乗り込むと言うエルを止める為に説得中だが、肝心のエルは一歩も譲らなかった。
「………はぁぁぁぁ」
レオンはひどく疲れた様子で頭を抱えながらため息をついている。
何をそんなに疲れているんだとエルは眉を寄せてその様子を眺めた。
「ねぇ、セラフィナ。あなたも私がそばにいた方が安心よね」
「そ……そうですね。エル様がいらっしゃると安心いたしますわ」
最初に動いたのはエルである、彼女は迅速に仲間を作った。
現在エルの一番の守護者で忠臣が反発しているので、レオンと同じくらい献身的で全肯定のセラフィナを仲間に引き入れる。
「セラフィナ嬢はエル様の肯定しかしないので、その意見に正当性はありません」
「ちょっと!?セラフィナに失礼よ!いまのレオンの発言について異議を申し立てるわ!カイル弁護して!!」
「お、オレ!?」
そばにいたカイルを指名する。彼もパーティーに行くのだから強制的にエルの仲間にする。
セラフィナは弁護してくれたエルに嬉しそう身を寄せて、エルはそんな彼女の腰を抱き庇うようにレオンを睨みつけた。
「これで3対1よ。多数決で私の王宮行きは可決ね」
「……………わかりました」
勝利を確信したエルが誇ったようにレオンに勝利宣言をすると、その様子を冷めた目で見ていたレオンは一旦部屋を退室した。
少しして、エルたちがダンスのレッスンを再開している部屋にレオンが戻ってくる。
その傍にはオズとミルリーゼの姿があった。
「レオン……まだ討論を続けるの?」
「こちらも味方を用意しました。この二人は私と同じ意見です」
にっこりと微笑んでレオンはエルの挑戦的な視線と対峙する。
「まぁ王宮は危ないからお嬢様は行かない方がいいんじゃない程度の意見ね、オジさんは。レオンみたいに何がなんでも絶対反対ってわけじゃないよ……ところでここ喫煙可?」
オズは煙管を咥えながら、家主の息子のカイルに質問した。
「なぁお兄ちゃん、討論に勝てたら時給銅貨75枚でいいって本当か???勝つぞ、勝ちに行くぞ!!まかせろ!僕こういうのすっごく得意!」
明らかに買収されたミルリーゼが興奮した面持ちでレオンに問いかけている。
あからさまな賄賂が贈られている様子にエルは不満を唱えた。
「ちょっと!お金を絡ませるなんて卑怯だわ!異議を申し立てます」
「承認します」
エルの異議申し立てに同陣営のセラフィナが答えた。
「ちょっと!そこの二人で認可しあったら永久機関じゃないですか、そもそもあなたは王宮の危険性がまるで分かっていない!やすやすと敵地に飛び込むみたいな感じですよ!」
「あなたより分かっているわよ!敵地に飛び込む味方がいるのに私だけ安全圏で待機なんてしないわ。この話は終わりよ」
「終わりません。終わらせません。多数決は3対3です。これではどちらの意見も可決になりません」
エルとレオンはお互い一歩も譲らなかった。
もはやムキになっている。
「おじさーん、僕タバコ苦手なんだよー!吸うなら窓のとこにしてよー!」
「あぁ、ごめんごめん。ミルリーゼちゃんお店で吸わせてくれないから今ヤニが切れてて倒れそうなんだよね」
「オズ、あんまり吸うなよな。タバコ臭くしたら親父に怒られる」
「オズ様の喫煙が終わったら浄化の魔法をかけますか?多少は空気が綺麗になると思いますわ」
他の仲間たちはエルとレオンの討論の隣で和気藹々としている。皆、そこまで興味がない様子である。
「(まずいわ……)」
エルは内心焦っていた。
レオン側に仲間内でも口がうまいオズと頭の回転の速いミルリーゼがついてしまったからだ。
レオンも元家庭教師なだけあって、知識も冷静さもエルを上回るのだ。
冷静に諭されたら言い返し続けられる自信は正直ない。
「(カイルは頭数と割り切る程度、セラフィナは基本的にはやさしくて控えめだから討論では不利だわ)」
ちらりと赤い髪の同級生の少年と浄化魔法を唱えているシスターを見た。
二人とも誠実で信頼のおける仲間だが、こう言うことばの力を使う場面ではあまり戦力にならないことも知っている。
「(私が頑張らなきゃ……)」
エルはレオンから目を逸らさずに意気込んだ。
「(まずいな……)」
レオンも内心焦っていた。
レオン側についたオズとミルリーゼは、冷静に考えたらレオンにとって鬼門の二人なのだ。
自分の援護射撃を頼むにあたり、めちゃくちゃ信用ができない。
オズはマイペースに煙管を蒸してるし、ミルリーゼはやりたくもないバイトの雇用契約書をあからさまにレオンに見せつけてくる。
きっとさらにひどい労働条件を課してくるつもりだ。ミルリーゼ・ブランはそう言う女だ。
「(しかもエル様側に言葉の通じない化け物がついてしまった)」
ちらりと横目でセラフィナを見る。
彼女は一見は清楚で可憐なシスターだが、仲間の中で誰よりも頑固で絶対に意思は曲げない。
ムキになっているエルと同じ意見なら、エルにとって最強の援護者となるだろう。
「(それでも危険な場所にエル様を向かわせるわけにはいかない。たとえ嫌われてでも阻止させてもらう……)」
レオンは再び向き合うと、エルから視線を逸らさずに絶対に譲らない意思を示した。
カイルは目にもくれていなかった。
エル陣営【エル・カイル・セラフィナ】
VS
レオン陣営【レオン・オズ・ミルリーゼ】
(主にリーダーが)絶対に負けられない論争が始まる!




