認識
寝る前に精霊術についてマザーに確認してみたら、ものすごく初耳との事だった。
『精霊でも驚いたけど、今度は「精霊術」かい……面白いことになってきたねえ』
「面白い?」
面白いのか?
「人工頭脳のマザーとしては、得体のしれないものはイヤなんじゃないか?」
精霊だの魔法だの、非科学的にもほどがあるだろうに。
だけどマザーは苦笑するだけだった。
『そりゃ根拠のない謎の迷信ならその通りさね。
けど精霊と呼ばれる謎のエネルギーは存在し、この世界に現実に影響を与えているわけだね?』
「ああうん、たしかに」
『存在するのに解析できないということは、それは非科学ではないね。
単に未解明の事象さ。違うかい?』
「……違わないな」
なるほど。
つまり間違ってるのは、ヘンに『科学』に固執している俺の方か。
「悪いマザー、変な事きいちまった」
『いいさ、疑問をもつのも無理ないよ。
で、話を戻すけどね。
わしにこのタイミングで報告するということは、アイリスを巻き込むつもりだろ?』
「……さすがに鋭いね」
『あんたはわかりやすいのさ』
笑われた。
『おまえさんとアイリス、ムギにリン……それぞれに立ち位置が少しずつ違うからね。
精霊や精霊獣とやらを認識できるか、対応したり、あまつさえ精霊術だっけ?それが使えるか。
話してみたり検証したりしたいんだろ?』
「さすがご名答」
そうなのだ。
俺とアイリスはマザー寄りだ。
違いがあるとすれば、俺は元地球人の『魂』が組み込まれていて、アイリスはそれを持っていない事。
逆にいうとアイリスは純粋なマザーの創作物とも言えるだろう。
そして逆の立場にいるのがリンとムギ。
リンはこの世界の『魔族』の女性の記憶と人格をまるっとモデルになった経緯がある。
ムギに至ってはそもそもマザーの作品ではないし、生い立ちもこの星とまるっきりの無関係……ようするにアイリスとは対極の立場って事になる。
その四人が精霊や精霊獣に対し、どう反応するかってことをまとめたいんだよね。
……ちなみに、すでに精霊獣は見せてみたんだけどね。
リンとムギは精霊獣を普通に認識できた。
ただし対話はできるものの、精霊術はダメらしい。
『魔族は精霊様より魔法・魔術に傾倒するからねえ』
趣味の問題?
『一応、一時的に対話可能にする仕掛けはあるけどね。
あと精霊様の方から理由があってアクセスしてくる分には別にかまわないさ』
よくわからないけど、魔族と精霊の立ち位置とはそんなものらしい。
ムギの方はというと。
『どこの世界でも変わらない』
『そっか』
故郷にも魔に染まりすぎた生き物がいて、野営すると寄ってきたという。
精霊術のような事はできないが、変なのが来たら教えてくれるという。
なるほど、それなりに共存しているんだな。
問題はアイリス。
アイリスは精霊獣を認識すらできなかった。
けど、アイリスに関してはまだ手がある気がするんだ。
試したい事があって。
そんなわけでマザーの許可をとりつけていたってわけさ。
翌朝。
食事前にアイリスに声をかけた。
ちなみに俺の両肩と頭上には、それぞれ精霊獣が乗っかっている。
子供や小動物タイプが多いのは何か理由があるのかね?
「アイリス、俺のまわりにいるやつ見えないよな?」
「うん、ごめんなさい」
「謝らなくていい、単なる事実確認だよ。
で、だ。
そしたら……こうしたらどうだ?」
「え?接続確認?」
「ああ」
「けどパパの目を通しても見えなかったよ?」
ああ、やっぱりそっちも試したのな。
「違う、俺の目を通すんじゃないよ」
「え?」
「俺の『認識』を通してみるんだ……ほれ接続よろしく」
「あ、うん承認……え?」
俺とアイリスの身体機能は基本同じ。
だけど俺にできてアイリスにできない事、そしてアイリスにできて俺にできない事はある。
それはなぜか?
つまり、今まで生きてきて積み上げた経験の違いなんだと思う。
マザーにより作られ、育まれたアイリスのもつ経験を俺は持たない。
そして人間として日本に生まれ、生きてきた俺の経験をアイリスは持たない。
当たり前だ。
当たり前だけど、その経験差が現実の問題に結びついてるんだと思う。
だったら、その経験差も共有すりゃいいのでは?
人間同士なら無理だけど、俺たちの体は人造人間。
まぁ経験自体を共有するのは簡単じゃないだろうけど、成果の共有ならどうよ?
つまり。
同じ風景を共有しても見えないっていうのなら。
俺がその風景で何を見ているか、その情報も一緒に共有すればいいんじゃねえの?
さてどうなったかな?
「あ……!」
どうやら今度は見えたらしい……アイリスの目が驚きにひらかれた。
そしてアイリスは俺のところに来ると、あきらかに精霊獣たちに目をあわせ、こんにちはと声をかけた。
おー、精霊獣たちも反応した。
どうやら挨拶には成功したかな?
アイリスと精霊獣たちは、しばらく楽しく話していた。
「どうだ?」
「お話はできたよ……けど精霊術はダメだって」
「そっかダメか。理由はきいたか?」
「パパの手を借りてる状態だし、魔力もないからだって。
だけどお友達にはなってくれるって」
「そっか、まぁよかったな」
「……いいの?」
「ああ、だって重要なのは精霊術じゃないからな。
俺もムギもリンも話せる相手をアイリスが認識できない、それが問題だったんだよ」
「!」
あ、とアイリスが驚きの顔になった。
「能力に個体差があるのは当たり前だろ?
アイリスにしかできないこと、ムギにしかできないこと、リンにしかできない事、あって当たり前だ。
だけど仲間はずれはいけない、そうだろ?」
「……うん!!」
お、なんかうれしそうだな。
まぁよかった。




