スライムと……?
「この四匹をもらうよ」
「わかりました、どうぞお持ちください」
村長に許可をもらい、そのままもらう事になった。
「ところで村長さん、もしかして最近、警戒するような事があったんです?」
「!」
あ、眉をしかめた。
これはまずい質問だったかな?
「もしかして聞いちゃいけない話でしたか?だったら──」
「ああいえ、いいのです。
すみません、お気を使わせてしまいましたか。
実は危険人物を警戒していたのです。
皆さんには関係のない事であり、何も言わずにすませようとしていたのですが」
あー、気を使ってくれていたのか。
「それはありがとう、気遣いを無にしてしまってすみません。
しかし危険人物とは穏やかじゃありませんね、大丈夫なんですか?」
「……『勇者』が現れたのです。
しかも獣人奴隷を探しているとか」
「勇者!?」
なんだって!?
詳しく聞いてみると、つまりこういう話だった。
俺たちがやってくるより少し前、峠を通過したひとつの隊商がいたらしい。
その隊商は普通の隊商と空気が違っていて、周囲もただの隊商とはみてなかったらしいが。
「どういうこと?」
「我々はよくしりませんが、地位のある者を護衛しつつ旅する時、隊商に見せかけるのはよくある事だそうです」
ああなるほど。
「そういう事か……で、その勇者とやらはどこの何者なんだ?」
「詳しい事はわかりませんが、少し前に中央大陸のどこかの国が召喚したようですな」
「しょうかん……異世界召喚を?」
「はい」
おいおい、なんてこった!
あれ?
でもちょっとまてよ?
「村長さん、その情報はどちらから?」
マザーからもサイカ商会からも、そんな話は全く来ていない。
なのに彼らはなぜ知っている?
「……我々カジヤンにはですな、実は特別な能力があるのです。
その能力をもって知ったのですよ」
「能力?」
「風の精霊の声を聞く能力、といえばわかりますかな?」
「え?」
風の精霊?
なんだそれ?
そもそも精霊って例のエネルギーだろ?
エネルギーに風だのなんだのって、何をファンタジーみたいなことを……いやまてよ?
『ひとは、生まれ育つ過程で触れ合った文化しか身に着けられない生き物なのだよ。
たとえばムギ嬢だ。
彼女は素晴らしい音楽技術を持っているが、それは遠いよその星のものだ。
もし彼女がこの世界に伝わる音楽と触れ合っても、それを極める事はできない』
それはリンの言葉。
謎のエネルギーにファンタジーな『風』。
ファンタジーなんて基礎知識すら怪しい俺には戯言にしか聞こえないが……。
だけどそうだ、リンはこうも言っていた。
『姉さまの記憶によれば、技術もまた文化なのだそうだ』
技術もまた文化。
ならば。
この世界にはびこる謎のエネルギー『精霊』について、マザーや俺の科学的世界観で決めつける事こそが間違いって事か?
では逆に、どうすれば俺は『精霊』を理解できる?
いやまて、たぶんだけど頭で──論理的に考えたらダメだろう。
思い出せ。
アイリスを殺されて激怒した、あの時。
はじめて俺が魔法っぽいものを使ったらしいあの時、俺は論理的にそれを使ったか?
違うだろ。
むしろ完全にブチ切れた感情の波の果て、それにたどり着いてしまったんだ。
リンに盾の訓練をしてもらった時を思い出そう。
瞬時にスパッと展開するのでなく、おだやかに心すませてみる。
──そうしたら。
「──あ」
なんだ?
今なんか、吹き抜けた一陣の風の中に。
頬をなでるそよ風に。
誰かがいるような気がした。
──きみは誰?
──。
何か小さな声が聞こえたような?
──ごめん、もう少し大きく。
──……カゼニアルモノ。
む、『風にあるもの』?
よくよからないけど、今度はちゃんと聞こえた。
──キヲツケテ、ミナミにアクイアル。
──ああ、ありがとう。
これからもよろしくね。
──ヨロシク。
「──長生きはするものですなぁ」
「え?」
ふと気づくと、村長さんが優しい顔で俺を見ていた。
視線を感じて顔をあげると、何人かの村人──カジヤン族の人たちが、じっと俺の方を見ていた。
驚き。
笑顔。
不思議。
いろいろな──だけど悪意や害意のない顔で。
「あなた様は今、精霊様とつながったのですよ」
「つながった?」
「あなた様は今この瞬間、我らのご同輩になられたのですよ。
しかし生まれた瞬間というのは初めて見ましたな。
いやはや、ほんに長生きはするものです」
「……」
返す言葉もなかった。
「で、なんと言われましたかな?」
「気をつけて、南に悪意あるって」
ここから南というとクリネルだよな?
ていうか、ミナミという表現がそのままクリネルのイメージと重なってた。
論理的にはめちゃくちゃなんだけど、きっとそういう事だよな。
「クリネルに何かいるみたいですね」
「おそらくクリネルの市街に入ったんでしょうな。
おまえたち、どうやら今のところ安泰のようだぞ」
「!」
わらわらと村人たちが建物から出てきた。
「さて、ここでの用事はもう終わりですかな?
しかし今からだとクリネルは遠いでしょう、泊まっていかれますかな?」
「いいんですか?」
「もちろん、よろしいですとも──生まれたばかりの若き同胞よ」
そういって村長さんは──そのカピバラ顔でにっこりと笑った。




