ほわっつ!?
いいかげんに宴会を切り上げ、野営に移る事になった。
なったんだけど問題が発生した。
「ああ、こりゃ無理だわ」
「そう?」
「ああ」
人だらけの環境なので森林公園を使わず、普通に車中泊するつもりだったが……大人ふたりプラス子供ひとりはさすがに多すぎた。
無理無理、狭すぎる。
前に見たネット動画ではエブリイに家族で乗ってる図とか見たけど、それはものすごく創意工夫しまくった結果であって、ただ荷物を積んでるだけのウチの車じゃ無理。
ただし。
幸いにもエブリイの荷室は軽自動車最強クラスの広さではある。
だから荷物さえ何とかすれば寝れない事もないんだけどね。
んー、じゃあ荷台の荷物を森林公園側に入れるか?
いやまて。
誰が見てるともわからないから森林公園を隠すんだろ?
なのに、森林公園の扉をあけちゃったらそもそも意味がないんじゃないか?
それにだ。
荷物いれたって「寝られる」だけで快適な広さとは言い難いだろ。
安眠は何より重要だ。
「うーん……ん、まてよ?」
ああうん、そうだよな。
どうせ荷物の退避をする気なら、いつもどおり森林公園を使えばいいんじゃね?
な、そうだよな?
となると問題は……。
「パパ?」
「アイリス、ちょっとスマホ」
「あ、うん」
スマホを受け取ると、俺はマザーを呼び出した。
『なんだい?』
「えっとね──」
俺はマザーに簡単な状況説明をして、ひとつ相談をした。
「で、その結果がこれ?」
「おう」
車の側に、車中泊用の目隠しをして中が見えないようにする。
ただしこれはあくまでスタイル上のもので、仕掛けの本体はマザーにやってもらう。
つまりガラス自体に認識撹乱をかけてもらい、中が見えないようにする。
そしてさらに車の周囲に3箇所、呼び出しボタンと張り紙をつけてもらった。
ちなみに張り紙の内容は。
『子供を寝かせるために防御&静音処理をしています。
お手数ですみませんが、呼び出しが必要な時はこのボタンを押してください』
で、押せばスマホと森林公園側でピンポン鳴ると。
うん、これでいいだろ。
アイリスは呼び出しボタンが気になるようで、じっと見ていた。
「これ、パパの記憶にある『バス』の降車ボタンじゃない?」
「お、よくわかるなぁ」
「なんでこのボタン?」
「趣味だ」
わざわざパスの降車ボタンにする合理的理由?
ンなもんあるかい、趣味に決まってる。
「そういう意味じゃなくて、そもそもこのボタンってどうしたの?」
「そりゃマザーに改造してもらったさ」
「改造?」
「元々俺の荷物にあったんだよ」
俺の荷物はすべてマザーが再現してくれたもんだしな。
財布の千円札のシワまでいちいち全部。
「バスのボタンを持ってたの?なんで?」
「ジョークグッズでそういうのがあってさ、どこかで買ったんだよ。
それっきり忘れてたんだけどね」
この手のジョークグッズは、家族や友人たちとドライブするような車によくつけられる。
特に日本じゃ近年、ミニバンみたいに車内の大きい車が流行だろ?
広いがゆえに、この手のネタグッズも売れてるときいたことがあるぞ。
車のフロントガラスにも目隠ししていたら、隣の隊商の人に質問された。
「それはなんだい?」
「車中泊用の目隠しですね、中で明かりをつけると外から丸見えになるんですよ」
「へぇ、そうなの?」
「ガラス面が多いとこういう時に不便なんですよね~」
説明するのだけど、そしたら一人が不思議そうに問いかけてきた。
「ずいぶんガラスが大きいし広いよね。
こんな高価なものを堂々とつけてて盗まれないの?」
「向こうじゃ、ガラスはそこまで高価じゃないんですよ。
しかも見た目ほど簡単に外せないし、傷でもつけたら価値が激減する。
おまけに警察が優秀で、大きなウインドウガラスを盗むようなバカはあっというまに捕まります。
そして、それだけ苦労して盗んでも同じ車にしか使えない問題もある。
売れない、金にならない、そしてリスクしかない。
意味がないから誰もやらないんですよ」
「ほう……」
まぁ車のガラスについては俺も言いたい事がある。
けど日本にいた頃ならともかく、今の俺が言っても仕方ないよな……。
え、何を主張したかったんだって?
ハイブリッドを導入して回生充電もするなら、どうせなら太陽電池も作ってくれってとこかな?
うちなんか結局、屋根のある駐車場を最後まで借りられなかったもんな。
無駄に灼熱の世界にさらされてるくらいなら、補充電に使えばいいじゃんってね。
そのうち人が減ってきた。
夜もふけて見回りの人以外は寝付きはじめたんだろう。
明かりを使うという事は物資の消費だし、その意味でも寝付きが早いのは自然のことだ。
うんうん。
俺たちも森林公園に引っ込もう。
「わああ!」
問題の猫っ子は、森林公園がいたくお気に召したようだった。
俺たちがテントを設営する間も元気に駆け回っていた。
とはいえ姿が見えなくなった時には焦ったが。
だけど二分としないうちに、なんか体に巻きつけて戻ってきた。
「おいおい」
なんとヘビだった。
「こんなのまで放してたんだ……まさか毒蛇じゃないよな」
ここはマザーが作り、管理している閉じた空間だ。
当然、マザーが把握してない種はいないだろう……微生物ならどうか知らないけど。
「アイリス、マザーの情報は?」
「基本、人畜無害だって」
「基本?」
「小鳥や小動物を飼うなら気をつけてって」
「そらそうだ」
ごはんにされちまうもんな。
「パパ食べる?」
「よせよせ、この子が食いたがったら別だけど」
別に食料に困ってるわけじゃない。
わざわざ子供の遊び相手を料理する事はないだろ。
子供を遊ばせておき、俺たちは寝る準備をすすめる。
やがてテントや寝袋の配置が終わり、俺たちは近くの木製キャンプテーブルに陣取った。
その頃には猫っ子も一段落ついたらしく、ヘビを森に逃がすと笑顏で戻ってきた。
「面白かったか?」
「うん!湖!あっタ!」
「あるある、なんだ泳いだのか?」
それにしては汚れてないが。
「まだ!」
遊ぶ気まんまんだな、まぁ子供らしいが。
そういやまた釣りもいきたいな。
「明日には俺たちもいくか。
おっと、そういやまだ名前も名乗ってなかったな」
「ナマエ?」
「おう、名前だ。
俺はハチ、こいつはアイリスだ。
なまえはなんていうんだ?」
「ン?」
「名前だよ名前、おまえの……君の名前だ」
これくらい会話できれば、名前の意味も知らないなんて事はないだろ。
だけど。
「ナマエ、ナイ」
「ないのか?」
「ウン。ナマエ、ナイ」
忘れているだけかもしれないけど……とりあえずウソではなさそうだな。
「そうか、じゃあ名前をつけてやろう」
「!?」
ん?なんだ?
なんか猫っ子が「えっ!?」って顔でびっくらこいてますが?
「ああ、もしかして名前に特別な意味があるのかな?
だったら気にするな。
これは俺たちと一緒にいる間だけの名前だよ。
無事に仲間たちのところにたどり着いたら、その時にちゃんとした本当の名前をもらうがいい」
「……」
あっけにとられた顔で俺を見る猫っ子に、俺は名を告げた。
「君の名は……そうだムギにしよう」
「……むぎ?」
「ああ、ムギだ。
怖い目にあって、それでも生き延びたんだろ?
ムギってのは植物の名前でな。
踏まれても強くのびる、そんな強い植物なんだ」
いや、実はそれだけじゃないんだけどな。
昔読んだ物語に出てきた、黒豹に似たモンスター……実はそれが理由なのだけど。
そんなことを考えていたら。
「──ムギ」
「え?」
猫っ子がポツンとつぶやいた途端、それは起こった。
なんと、猫っ子の足元に大きな光の魔法陣が広がったんだ。
「え、ちょ、ええええっ!?」
「……」
魔法陣はしばらく光っていたけど、やがて消えてしまった。
そして猫っ子は俺の方を向いて、そして不思議なポーズをとった。
これは……もしかして異国流の敬礼か何かかな?
「──契約ニ関スル規約ニヨリ、おーなーノ母国語で申シ上ゲル。
不慣レナ言語デアルタメ、稚拙ナ表現ヲオ許シ願イタイ」
「日本語!?」
たしかに発音ちょっと怪しいけど、まぎれもなく日本語だ!
「我ガ名ハむぎ。
かるーな・ぼすがぼるだ生体兵器工廠・あまりりん型製造番号002269、呼称むぎ。
所有権オヨビ利用権ヲ、はち様ニ設定。
ワタシハ、むぎ。
コンゴトモヨロシク」
「うえ!?」
も、もももももしかしてこの子!?
いや、いやいやいやそんな馬鹿な!!
だけどアイリスの方を見た俺は、その希望が砕かれたことを知った。
「パパごめん、バイタルデータが偽装されてた」
「偽装!?」
なんだってえ!?
「うん──ごめん、やられた。
この子ドロイドだよ。
お館様のとは違うみたいだけど」
「別に謝る必要ねえよ……けどマジか」
「うんマジ」
ははは……マジかよ。




