朝
「おはよう、パパ」
「おう……おはよう」
美女、美少女、どっちでもいいか……とにかく一緒の朝。
だけど不思議なほど、透明感のある爽やかな朝だった。
ただし全身がごわごわした感はあった。
これはシャワー浴びたほうがいいだろう。
「あー……管理棟にシャワーあったよな?」
「シャワー?アイリスも」
「ん?一緒にか?」
「うん」
「それは……まぁいっか」
ここは俺たちしかいない。
つまり、別に誰かに叱られる事もない。
「よし、とりあえず起きよう」
「うん」
もともとテントは俺ひとりが使うためのものだった。
ただしバイクでキャンプする人ならわかると思うが、ライダーはテントの中に各種バイク用品も入れたいもんで、他のキャンパーより大きめなテントや、前室のきちんとしたテントを欲しがる人が多い。
俺も例にもれず、かなり大きめのテントを所有していた。
え?前室はいらないのかって?
前室あると便利だけど、荷物置き場としては信用してないからなぁ。
だって前室だと、動物にもっていかれる事があるからね。ブーツとか。
「よし、たたむぞ」
「はーい」
今朝はテントもさっさと解体し、そして干す。
休憩したいだけなら管理棟にもベンチがあるし、今日はひとつやりたい事があった。
それは。
「寝袋を洗濯するの?」
「ああ、今日はした方がいいと思うぞ」
「そうなの?」
「おう」
いっぱい汗かいたからな。
俺たちの寝袋は化繊なので、洗うは洗濯機で洗ってしまえばいいんだが。
「アイリス、この寝袋は乾燥機が使えないんだ。
干し場が使えるか確認してくれ」
寝袋はタイプによるが、基本的に乾燥機は使えないものの方が多いと思った方がいい。
ちなみに俺たちのは化繊タイプなので、乾燥機を使うとたぶん中綿が影響を受ける。
「ちょっとまってて」
アイリスは洗濯場に見に行って、そして戻ってきた。
「大丈夫、干せるよー」
「おけ、じゃあ洗っちまうわ。
アイリス、おまえは朝食何か作ってくれ。軽くでいいぞ?」
「わかった」
アイリスに食卓を任せて、俺は二人分の寝袋と下着を洗う。
そこで不思議な事に気づいた。
「下着が汚れてないな」
当たり前だけど、下着は体に直接つくものだから汚れて当然だ。
だけど、そういう生物的な汚れが見当たらない。
これはアレか、俺たちの体が人間じゃないからか?
「けど、汗のニオイらしきものはある……けど臭さを感じない?」
なんだこれ?
首をかしげていたら、ふと、昔きいた話を思い出した。
実は、僕ら人間が「汗のニオイ」と感じている臭気は一種類ではないんだという。
汗そのもののニオイだけでなく、
むしろ同時に排出された老廃物が酸化して発する臭気だったり、
汗に混じっているフェロモン物質によるものだったり、色々なんだと。
だから汗のニオイは流した当人の性別や年代、体調、食べたものなど色々な要素で変わるんだって。
その説の科学的根拠は知らない。
だけどその通りなら、衣類や寝袋のニオイに生物っぽさを感じないのはむしろ当然なのかも。
ま、どちらにしろ無臭ではないんだ。
とにかく洗って干そう。
乾燥機が使えない以上、さっさと洗って干さないとまずいしな。
洗濯機を回して戻ると、アイリスはもう朝食を仕上げかけていた。
「はやいな!手際がいいな!」
「うふふ」
さすがに飯は炊けてないが、なんて速さだ。
「お魚焼くから、もう少し待っててね」
「おう、テント干してるわ」
テントはフライシートを外し、本体と別々に干している。
これを裏返したり、固定ペグ類を並べたりしている。
「ねえパパ」
「ん?」
作業していたら、アイリスが質問しにきた。
「どうした?」
「なんで毎朝サイト撤収するの?めんどくさくない?」
この森林公園は、俺たちの車の中にある。
つまり張りっぱなしでもよいし撤収の必要もない。それは事実だ。
だけど俺は言う。
「俺、掃除が下手くそなんだよ」
「……それと、どう関係があるの?」
「長く張りっぱなしにすると、なんか小屋みたいになってくるんだよな。
それで昔、旅先のキャンプ場からバイトに通っていたら、地元の農家の人にお小言もらっちゃってなぁ」
「汚いって?」
「うん、そう。
それに芝生の上にテント張ってるだろ?
これ毎日場所を変えないと、下の芝生が痛むんだよな。
撤収したらテントの形の痕跡が残るのって、なんか悪いことをしたみたいな気持ちになるし」
「へー」
どちらの失敗も俺の実体験。
だから悪天候時を除けば、連泊だとしてもテントの移動や張り直しはよく行う。
で、掃除も兼ねているわけだ。
「そっちはどうだ?」
「あとは、ごはんが炊けたら完成だよ」
「おう」
ごはんが炊けて食事になった。
「いただきますー」
「いただきます」
管理棟の冷蔵庫で作った一夜干したちが、よい焼き魚になっていた。
焼き魚に、おいしいごはん。
「この米はマザーのか?」
なんともうまいな。
「ちがうよ、タシューナンで買ったのを研いだの」
あれか!
「いいね、うまいなぁ」
「けど汁物が欲しかったね、ごめんなさい」
「謝る必要はないと思うぞ」
さっきまで俺と寝てたのに、いきなりここまで作ったんだ。
謝るどころか、ドヤ顔で自慢するとこだろ。
「次からもっと早起きするね!」
「まてアイリス」
「?」
俺はアイリスに訂正をかけた。
「あのなアイリス、俺がほしいのは家政婦でも料理人でもないよ。
だから、そこまでしなくていいって」
「けどパパよりわたしの方がお料理できるよ?」
う、それは。
俺が困っていたら、アイリスはにこにこ笑った。
「それぞれ得意分野を手分けすればいいと思う。
もちろん、手が足りない時は手伝ってね」
「お、おう」
俺は思わず、うなずいていた。




