タシューナン地域道
国道や県道など、国内の路上を旅する人ならわかると思うが、国道イコール立派、県道は少し落ちる、みたいな法的なグレードの概念が実際の道路にあてはまらないのはご存知だろう。
最近はネットで調べられるから興味があれば是非みてほしいが、軽自動車すら通れないような異様な『国道』もあれば、逆にまるで高速道路のような地域道もある──これが現実の道路というものだ。
何が言いたいかって?
「はー……これ、なかなか立派じゃないか?」
離宮からタシューナン王都に向かう道なんだが、予想よりもはるかに立派だったのだ。
しかも、激突防止なのかセンターラインっぽいものまで引かれている。
これ、もしかしなくても……。
「えらいガチで開発された道だなぁ。ツルッツルじゃねーか」
ハイウェイとは違うけど、これもいい道だ。
あっちをアスファルトにたとえるなら、こっちはコンクリートか?
「けど、この白い舗装は何だ?」
「お館様情報がある」
「お、髪留めの件か?」
「それはまだ」
「そうか、じゃあ道のデータからくれ」
「わかった」
アイリスは大きくうなずくと、説明にうつった。
「この白い道はね、砂の白さなんだって」
「砂?ああ、砂の素材なのか?」
「そうだよ」
俺は昔、沖縄で見た白い建物を思い出していた。
「しかし、だったら道が滑るんじゃないか?それにしては」
「滑らないように工夫してるんだって」
ほうほう。
「たしかに、滑る感じはしないが……」
この世界の乗り物の速度がどの程度か知らないけど、時速60kmで走りはしないし、ゴムタイヤもサスペンションも、さすがに地球製ほど凝ったものではないだろう。
となると、今の俺たちはこの道、本来の設計以上の走りをしている事になるが……?
「アイリス、ちょっと急制動かけるから気をつけろ」
「え、あ、うん」
アイリスの返事を待ってから、思いっきり急制動をかけてみた。
「っ!?」
「──よし!」
そして、ウンと納得したところで再び加速した。
急で乱暴な操作を気にする事なく、車は胴震いすらさせずに再び加速開始した。
「えっと、なに?」
「ごめんよ。
ブレーキングしてみて、滑るかどうか試したんだ。
たいしたもんだ、ほとんど滑らないぞ」
同じ道を走っていても、タイヤの太さや空気圧、重量、速度などなど、条件が変われば道はその性格をがらりと変える。
なんだかんだで1トンを越える車体がこれだけ飛ばし、そして急制動したのに、ちっとも変わらない。
これは、正直にいってすごい。
日本の自動車専用道なみに、よくできた道だと言えるだろう。
「ところでアイリス、王都への道はそのままでいいのか?」
「いいよ」
「わかった、それで市への道も同じでいいのか?」
「いいよ……?」
「ん、どした?」
「お館様が通信」
「おう、つないでくれ」
「はい」
アイリスがナビを操作すると、マザーの顔が映った。
『おつかれさん、王都に向かってるんだって?』
「おつかれさまです。ああそうだよ、市に向かってる」
『市か……念の為だが、忘れずに対処はしときな?』
対処?
「お館様、パパの方も対策済みだよ?」
え?
『そうかい、それはよかった』
え?
えっと、何を対策なさったんで?
「ああ了解、それで車はどこに置こうかな、悩んでるんだが?」
『そういう事なら、商業ギルドで相談してごらん』
「商業ギルドに?俺、登録とか何もしてないんだぜ?」
『甘いねえ』
なんか、にやにやと楽しげにマザーが笑ってる。
『たしかに未登録者だろうけど、身元の証明はできるだろ?』
「え?どうやって?」
首をかしげていたら、アイリスに突っ込まれた。
「パパ、名誉市民証!」
「あっそうか!」
名誉市民証は、他ならぬタシューナン王家が発行したものだ。
これが身分証明にならないわけがない。
「それ持って、この車で乗り付ける人なんて、それこそパパ以外誰もいないよう」
「たしかに!」
『わかったかい?』
「ああ、わかったわかった、やってみるよ!」
王都の中心にも駒止め広場、つまり道の駅があるらしいんだけど、そちらに停めたら車から離れる事になってしまう
ソレは良いんだけど、問題は警備だ。
マザーに頼めば警備ロボットを回してくれるだろうけど、今後の事を考えれば警備は第三者に頼むべきだろう。
「あとで謝礼金を考えないとなぁ」
「え?」
「なんでもないよ。
アイリス、商業ギルドに誘導してくれる?」
「わかった」
タシューナン王都の商業ギルドは、中央の道の駅のすぐそばにあった。
「アイリス、念の為にここにいてくれるか?」
「大丈夫?」
「まだ中には入らない、すぐ戻る」
車を商業ギルドの真正面の位置に停めると、アイリスにあとを頼み、道を渡って商業ギルド入り口に向かった。
入り口には警備員がいて、俺と車を交互に見ていた。
「異世界人のハチです。これはタシューナン王家にいただいた身分証です」
「!」
名誉市民証を見た警備員が、すぐ反応した。
「こちらのギルドに用があるのだけど──すまない、なんせあんな目立つ車だからさ。
留守の間、誰かに警備を頼めないかな?」
「少々お待ちください!」
警備員はすぐに引っ込み、そして上司らしき人を連れてきた。
そして上司は驚いた顔をして引っ込み……そして出てきたのは、今度は羊人族、つまりバラサの彼と同じ羊の人だった。
「なるほど、たしかに異世界人のハチ様ですね、商業ギルドタシューナン支部にようこそ。
あの車を護衛すればよろしいのですね?」
「はい、そうです」
「おい!」
数名の警備員が、入り口から出て走っていった。
そして俺はアイリスに呼びかけた。
「アイリス、その人たちに任せておいで!鍵はかけて!」
「わかったー!」
アイリスはうなずくと、鍵をかけてこっちに渡ってきた。
それを確認すると、羊の人はにっこり笑うと言った。
「車はお預かりしますが、先にすます用があるのでは?」
「あ……実は市場に行きたくて」
「でしょうね、上陸すぐに殿下につかまったと伺っておりますから」
クスクスと羊の人は笑いだした。
「どうぞお先にいってください。
そして戻れば中に入り、わたくしを──ポワンと申しますが、わたくしをお尋ねください」
「ポワンさんですか?」
「バラサのルワンをご存知ですね?」
「はい」
「わたくし、あの愚弟の姉ですの。どうかよろしくお願いします」
そういって、ポワンさんは頭を軽く下げた。




