市場へいこう
翌朝。
テント類を収納した俺たちの元に、護衛をつれたアムダル・プリニダク兄妹がやってきた。
「これが名誉市民証、これが信任状とお手紙です。
届け先は、エマーン国首都クリネル、サイカ商会の本店です。
窓口で信任状と共に手渡せば、当人の在、不在に関わらず対応してもらえるはずです」
「ありがとうございます……でも、いいんですか?」
「何がです?」
いや、だってさ。
「俺たち、なんの書類も書いてないですよね?
なのに名誉市民登録されてるのは?」
「ああ、それは勘違いなさってますね」
「え?」
問い返したら、苦笑されてしまった。
「いいかいハチ君、名誉市民の手続きは、こちら側が勝手にやるものなんだ。
当人から得るのは、受け取るかどうかの確認だけさ」
あ、そういうこと。
納得していたら、今度は妹さんの方が。
「本来は式典をやるのですけど、まだ情勢が落ち着きませんから。
いずれ、次にいらした時にでも、ゆっくりやりましょう」
「いや、別に式典とかはいりませんが「いいえぜひ」あ、はい」
なんか押し切られた。
「王都の町にマーケットがあるけど、寄っていくかい?」
「そうですね、ちょっと覗いていきたいです」
「そうか……ちなみにお金は持っているかい?」
「いや、ないですね。
そもそも路銀を稼ぐという行為をしてないんで」
「あー……だったら、冷やかして雰囲気を見たい?」
「はい、そんな感じです」
「なるほど……だったら、これを持っていくがいい」
アムダルは部下に命じて、何か出させた。
「これは?」
「少しばかりの金貨、銀貨、それに銅貨だ。
銅貨10枚で銀貨一枚になり、銀貨20枚で金貨になるが……一般人は金貨の取引はまずしない。
つまり、これは本当に冷やかし程度のお金だよ」
にっこりとアムダルは笑った。
「お兄様、せめてもう少し……」
「プリン、しっかり出せば、それは貸しになる。
この程度のお金で貸しを押し付けるのは、ちょっとどうかと思うよ」
そういって、アムダルは妹さんににっこりと微笑んだ。
「ハチ君、お金を稼ぐ予定はあるのかい?」
「そっちは、まったくの暗中模索ですね」
俺は肩をすくめた。
「ただ、幸いな事に今すぐ路銀を稼ぐ必要性がないんです。
俺の仕事は旅をして、どんな旅をしているのかを報告することなんですから」
「へえ、気楽な商売だね」
「まったくです……まぁ、あくまで旅人のスタンスでいなくちゃいけない問題はありますけど」
「ああ、社会に入り込めないってことかな?」
「いずれ、この世界での旅が終わればそれも提案してみますけどね」
今はマザーも情報収集がメインの状態なわけで、俺も探査機のひとつと言える。
でも、いつまでもこの状況が続くわけじゃないだろう。
だから、こうして見て歩いた事から何か提案できたら、とは思ってる。
「まぁいい。
ハチ君、きみは我が国の名誉市民とはいえ、ひとりの国民となった。
だから、いつだって気が向いたら帰ってきてくれ。遠慮はいらないからね?」
「はい、ありがとうございます殿下!」
俺は笑顔のアムダル……いや、アムダル殿下に頭をさげ、別れを告げた。
そうして俺たちは再び、車上のひとに戻った。
「よし、これでようやくドライブを再開できるってもんだ」
「……」
「なんだ?アイリス?」
「パパ、ちょっと寂しそう?」
「ん?……あー、そりゃ別れの直後だからさ」
そうか、アイリスはそれも知らないわけか。
俺は、きょとんとしているアイリスに告げた。
「誰かと別れるっていうのは、いくらかの寂しさを伴うもんなんだよ」
「そうなの?」
「ああ……アイリスは感じないか?」
「……すこしだけ」
「ほほう、ちなみに誰と別れたことがさびしい?」
「お野菜のことを教えてくれたメイドさん。これくれた」
「お」
そういえば、髪に見覚えのない髪留めが。
「いい人だな」
「うん、いいひと──たぶん」
「たぶん?」
「これ、何かエネルギー反応ある」
ほう?
「今、お館様に分析してもらってる」
「つまり、何かの『魔法』ってやつがかかってるのか?」
「『ふよ』っていってた」
「ふよ……付与か」
昔やったゲームに、体力回復の指輪ってのがあったな。
その名の通り装備していると、じわじわ体力が回復するやつだ。
だけど。
「なるほど、その人は厚意でくれたと思うけどってことか?」
「……変なこと考えた人が託した可能性がある」
「だな」
その人の善意を信じたいが、警戒しないわけにはいかない。
なるほど、それは俺でも悩ましい限りだ。
「アイリス、結果が出たら教えてくれ……いい結果でも悪い結果でも」
「うん、わかった」
なんか、しょんぼり顔のアイリス。
俺は思わず、苦笑いしてしまった。
「なあに?」
「おまえはいい子だよ、ほんと……そう言いたかったんだよ」
マザーともども、ほんと、俺は心底いいやつに恵まれてる。
「む、子供扱い」
「実際に生まれたばかりなのに、何いってんだ」
俺は思わず笑った。




