シャリアーゼの入り口にて
シャリアーゼ。
中央大陸最南端の都市であり、同時に都市国家でもある。
一応は人間族至上主義の中央大陸国家ではあるが、地理的事情により孤立を避けるため、対岸にあるコルテアという獣人族の国と非戦協定を結んでおり、珍しく民族混在の様相を呈している……という事になっている、らしい。
まぁ、マザーによるとこの評価は偽装の結果であり、実際にはシャリアーゼはコルテアの一部らしい。
ではどうしてそんな偽装をしているかというと、例の、今もリアルタイムで人間族から別の種族に変貌が続いている、という彼らの事情がそこにあるらしい。
ぶっちゃけると『逃がし屋』のシンジケートみたいなものがあるらしいのだ。
車で移動しながら、俺たちはシャリアーゼのデータを読んでいた。
といっても、スマホに届いたデータをアイリスが読んでいるだけだが。
「人間族国家ってね、生まれた子が異種族になれば、その子は身分に関わらず奴隷落ちになるんだって」
「ひでえな」
「そうだね。
でもね、生まれた子供が同族ではないからといって、はいそうですかって奴隷に落とせる人ばかりじゃないんだって」
「ほう……詳しく」
「たとえば、子供をつれて家族で逃げる家もあるって。
それから、せめて亜人の国で幸せになってねって、ツテをたどって逃がすのもよくあるって。
で、それらは皆、シャリアーゼに逃がすんだって」
「ほう……民族問題の受け皿的みたいな状態になってんのか」
俺はパインアメをなめながら、同じくパインアメで頬がふくらんだアイリスの解説を聞いていた。
あ、もちろんハイウェイを飛ばしながらだぞ。
ちなみに、そろそろシャリアーゼが見えてもおかしくないところに来るはずなんだが。
「しかし、そろそろそのシャリアーゼが見えるはずなんだが……見えないな」
「あの山を越えれば見えるんじゃない?」
「あー……やっぱりそういう事だよなぁ」
ハイウェイは、ゆるい山地のような、連なった丘のような山々に向かって伸びている。
おそらく、あの中をゆるやかに突っ切って、その向こうがシャリアーゼなんだろう。
だけど、それはまずい。
「まずいな」
「え?」
「アイリス、悪いけどこの先の道をみてくれ。
もしかして、曲がりくねった峠道になってないか?」
「あ、うん、ちょっとまって」
アイリスがスマホを操作しはじめた。
「どうだ?」
「んー、パパのいうとおり、あと20kmくらいでクネクネ道になるっぽい。なんで?」
「その道のストリートビュー……ああうん、現場の写真があるなら見せてくれ」
「うん、これ」
見せてもらって、俺は確信した。
まずったかな、これは。
「えっと、なに?」
「残りの距離と、この曲がり具合。
たぶん山越えして展望広がったら、その先はすぐシャリアーゼだぞ」
「?」
「アイリス、マザーがいってたろ?
この星には、俺たちを検出する、よくわからない技術があるって」
「あ」
アイリスの顔色が変わった。
「そうなんだよ。
しかもその道見ろよ、どう見てもハイウェイじゃないぞ。
たぶん本来の道は壊れてて、あとで作った山道だ」
つまり、飛ばせないし、何かあったら逃げるのも難しい。
「うわぁ……どうするのパパ?」
「アイリス、脇道を調べてくれ。
ここに来るまでにも分岐があったろ?少し戻るけど、あっちも調べてくれ」
「今調べる、ちょっとまって」
「おう」
おそらくなのだけど、アイリスは本来、俺より高性能のはず。
理由は簡単で、俺という地球人の心を突っ込まれ、地球人としての機能を再生する、なんてアホな真似をしてないからだ。
余計なリソースに力をそがず、そしてその精神も、ボディの機能を損ねない。
こうなれば、性能がよくなるのは当然の結果だよね?
ただし、おそらくだが経験だけは足りない。
それはたしかに問題だが、でも大丈夫。
だってそうだろ?
アイリスが気づけないなら、俺が指摘してやればいいんだから。
さて。
「パパ、脇道あった」
「よし、その道だけど、山越えできるか?で、どこに出る?」
「山越えできるよ、そんでシャリアーゼの東60kmくらいのとこに出るっぽい」
「道の曲がり具合は?」
「んー……こんなの」
ちらっとスマホで見せてくれた。
「このまま行くより、もしかしたらユルいんじゃね?」
「ゆるいと思う。
だけど、そのかわり坂がきついって書いてあるよ。坂道に強い馬車か魔獣車を使えって」
「ふむ……」
少し考えた。
しかし、このままシャリアーゼの鼻先に飛び出るよりこっちがいいと思った。
「よし、そっちにいこう。案内してくれ」
「わかった……パパ、Uターンして。さっきあった分岐を東に入るの」
「オーケー、ちょっとまて」
いくらうちの車が小さくても、そのままポンッとUターンできるほどの広さはない。
少し先に看板があり、その手前に広場があったので、そこに突っ込んで車を転回した。
「この看板、なんだろ?」
「何か文字書いてあるな……読めるかアイリス?」
「んー……シャリアーゼで市民登録しませんか、かな?」
「市民登録?」
「外国人でも納税すると、仮だけど市民登録できるって」
「ほう」
仕事をもって住み着くってんならわかるけど、納税でも認められるのか。
そうこうしているうちに見覚えのある分岐が目に入った。
「あそこ入って」
「おう」
分岐でハイウェイを出ると、あきらかにハイウェイとは違う道に出た。
だけど簡易的ながらもきちんと舗装されていて、道幅も田舎の広域農道くらいはある。
それが山に向かって……ただしさっきまで走っていたハイウェイからは遠ざかるように、まっすぐ伸びていた。
「時々、看板があるな。なんだこれ?」
「お天気情報の看板だと思う」
「そうなの?でも何も写ってないぞ?」
「『魔力』ってやつを当てると情報が出るんだって……あててみる?」
「できるのか?」
「うん」
窓をあけて、アイリスは看板のひとつに向かってパッと手をかざした。
そしたら。
「お、なんか模様みたいなのが……あれ?」
何か見えたかと思うと、見知らぬ文字なのに、その意味が頭の中にスッと入ってきた。
「『通行注意・坂道』って書いてある?」
「うん、ある。お天気は問題ないみたい」
アイリスが、大小いくつかの看板を光らせてくれた。
すると、そこには峠の天気とか、そういう情報があった。
「ずいぶん親切だな」
「坂道がきついからじゃないかな?」
「あー……天候悪いと滑ったりするからか?」
「たぶんそう」
なるほどな。
日本でも、大阪と奈良を結ぶ暗峠みたいに勾配のきついとこは、滑らない舗装にするもんな。
そして俺たちは、いよいよ峠道にさしかかった。




