其の二
ー20年前 地獄 獄炎層ー
赤い肌をした筋肉質で細身の鬼が人間の死体を積み重ねた山の上に座っている。
その様相は言い伝えられている鬼のそれとは異なり、なんというか…人間で言ういわゆる美青年のよう。
「はあ〜無有様は今日も美しい…。
罪人の山に坐すそのお姿、しかと目に焼き付けます。」
無有の様子を見上げる女性の鬼。
肌が赤いのは変わらないが、妖艶な雰囲気漂う抜群のプロポーションに美しい顔、こちらも人間で言ういわゆる美女のよう。
「獄炎層を管理して500年…ただ、ただ、正界で殺人以上の罪を犯したクズ共を締め上げる日々。
こんな事にいかような意味があるのか。」
無有は美しい溜息を吐く。
「恐れながら無有様。
あなた様は次期閻魔大王になられる御方。
今は人間社会で言う中間管理職のようなものでございます。
現大王様もこのような業務を経て今の地位にお着きになられました。
どのようなことでも小さな積み重ねの上に」
巨大な筋肉の鎧を纏った大柄な鬼が説明のような説教をしていると、楽しそうに人間の頭を蹴り転がしている鬼が割って入る。
「刃鬼は本当頭かったいねえー!
無有様はそんな事を聞きたいんじゃないんだよ。
ねえ、無有様?」
問い掛けをした少年のような鬼が楽しそうに刃鬼を諫めている。
「こら楽鬼、大人の話に入ってくるな。
お前は向こうで蹴鞠でもしていろ。」
刃鬼は羽虫を振り払うかのようなジェスチャーをする。
「ふぅ…」
無有は2人の様子を眺めながら再び溜息を吐く。
突如、死体の山の一体が素早く起き上がり、無有へと襲いかかる。
「殺ったぁぁああ!」
『!?』
無有以外の3人の鬼がすかさず無有の下へ駆け上がるが、コンマ5秒遅い。
襲いかかる右手は鉤爪のように尖っており、その筋骨隆々の上腕からは確かな殺傷能力を感じさせる。
鉤爪が無有の首に到達する寸前、襲撃者の右手が空間の歪みに吸い込まれていく。
「ぐぁぁああああ!」
襲撃者は叫びを上げ、素早く無有から離れる。
それを追随するように遅れて来た3人がピッタリと張り付く。
『グサッ』
3人は図ったかのようなタイミングで一斉に攻撃し、あっという間に襲撃者を絶命させる。
そしてその死体の全身の肌は、やがて青色に変化し、夜鬼の姿になった。
「はぁ…お前達、そうすぐに殺すな。
過剰な攻撃は弱さの裏返しぞ。」
先ほどまで命を狙われていた無有は終始1mmも動く事なく、3人に言い放つ。
『申し訳ございません、無有様。』
3人はすぐさま跪き、頭を垂れる。
「まあ良い。
おそらくは鉄砲玉覚悟の襲撃。
生かしていても何も答えなかっただろう。
しかし、弱過ぎるな…夜鬼の連中はこんな餓鬼を仕向けて本気で余を殺せると思っていたのか?」
夜鬼の死体からはどこからともなく黒い炎が燃え上がり、数秒で灰となって跡形もなく消え去った。
その様子を見下ろす無有。
「………」
しばらくして3度目の溜息を吐きながらゆっくりと立ち上がった。




