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陰to陽  作者: 黒川一
ー黄昏編ー
31/82

第25夜 奇襲






日曜日 陽神神社






「ねえ、無有ちゃんっていくつなの?」

居間でお茶を嗜む明里が、寝転がっている子犬に聞く。


「年齢か…あまり数えとらんが、500年は経っておるだろうな…。」

無有は後ろ脚で腹を掻いている。


「500歳って事!?

はははー……い、いくら何でもそれはねぇ。」


「ふっ…年齢など、どうでもよい。

黙ってても歳は取っていくもの。

しかし取る事と得る事は違う。」


「どうゆう事?」


「何もしなくても歳は取るが、何もしなければ得るものは無い。

500年生きようが、ただ生きてきただけならば産まれたばかりの赤子とさほど変わらんよ。

大切なのは何年生きたか、ではなく生きている間に何をしたかだ。」


「た、確かに…っ!」

何気ない問いかけが何倍にもなって返ってきた事に驚きつつも、その意味を考えた。


無有の高説を聞いている間に辺りはすっかり暗くなってしまった。

明里は半開きにしていた窓を閉めようとする。



!?



鳥居の向こう側に人が立っている。

否、"人"ではない。

遠目にもわかるその肌は全身がドス黒く、右手には大きな刃物を持っている。

…黒い少女だ。

しかし動く気配は無く、こちら側をじっと見つめている様子。


「明里口を閉じろ。」

異変に気付いた無有が注意した次の瞬間には窓のすぐ外に黒い少女が移動していた。


「〜〜〜っ!!!」

驚きと恐怖で絶叫しそうになる口を両手で塞ぐ明里。


黒い少女は家の中の様子を窺うように窓の前を左右に行ったり来たりしている。

窓を一枚隔てたすぐ目の前に明里が居るが、気付いていない様子。


「ゆっくりこちらに来い。」

明里と入れ替わるように無有が窓の前へと立つ。


バッ!!


その瞬間黒い少女は膝立ちになり、窓にへばり付いて無有を見つめる。


「これは…!

初めて見たが、ここまでこじらせた奴は見た事が無い。

それに…、間違い無い。

それは鬼の刃だな。」

黒い少女の持つ刃物を見て呟く。


「おい、お前の目的の者はここには居らん。

消えろ。」


黒い少女は相変わらず窓にへばりついてこちらを見ている。

明里を探しているのか、その眼球はギョロギョロと動いている。


「話も通じん…となると、もう元には戻れんな。

哀れな人間よ…。」

無有も窓越しに黒い少女を見つめる。



バンッバンッバンッバンッ



黒い少女は両手を付けたまま、おでこを窓にぶつけ始めた。



バンッバンッバンッバンッ



その様子は窓を開けろと言わんばかり…


その時、明里のスマホが鳴り、画面には漆原の名前が表示された。


緊張状態の明里は電話をかけてきた相手の名を見るなり、すぐさま応答する。


「出るな!!!!!」

無有が怒鳴る。


時すでに遅し。

スマホは通話画面へと切り替わっていた。



[もしもーし、白石さん?

もしもし?]


明里はいつもの漆原の声を聞いて、返事をしようとするが、「応えるな。」と、無有の短く素早い言葉がそれを遮った。


明里は軽いパニックに陥っているが、無有の再三の注意により、ようやく指示に従う。


[もしもーし、白石さん?もしもし?]


スマホから漆原が繰り返す。


[ヤツの気配を感じて、急いで君ん家の前まで来たんだ。

玄関の前に居るんだけど開けてくれないかな?

早く開けてくれないと取り返しの付かない事になってしまう。

特に君の犬が危険だ。]


君の犬…?


その言い方に電話の相手が漆原では無い事に気付いた明里はスマホを床に投げ付けた。


[白石さん!君の犬が死んでしまうよ。

早くここを開けてくれ。]


投げ付けた拍子でスピーカーになったスマホから漆原の声が聞こえる。



[ねえ、聞いてる?白石さーん?

もしもーし?早く開けて?ねえ早く。

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く]



「明里!心を乱すなよ!」


無有は窓から目を逸らさない。


[明里っ助けて…]


彩香の声だ。


明里は涙を流しながら叫び出したいのを堪えている。


[苦しいよ…明里…]


次は笑実。


久しぶりに聞く幼馴染み達の声にとうとう限界へと達した明里はスマホを手に取り、返事をする。


「さやっー

星陰破(せいいんは)っ!》


明里が口を開くと同時に外から詠唱が聞こえた。


窓の外で先の尖った黒く太い5角錐が伸びていく。


窓にへばりついていた黒い少女は消え、その後ろには息を切らした漆原が居た。


陽神神社全体が激しく揺れる。


地震!?


「明里、机の下へ!

《開っ!》」

無有の周囲の空間が歪んでいく。


空間が歪み始めたのと呼応するかのように、震度7とも8とも感じ取れるほどの強い揺れがゆっくり収まっていった。



ドンッ!!!!!



そして本殿の方から大きな破裂音が鳴り響き、揺れは完全に止まった。



呆然とする明里。


漆原が血相を変えて居間に入ってくる。


無有は息を切らし、床に倒れた。



「間一髪。あぶねー…」


漆原が無有と明里を見ながら呟くと緊張の糸が切れた明里は泣き崩れてしまった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「はい、お待たせ…って俺のじゃないけど。」

漆原が台所からチョコレートと、1人と1匹分のホットミルクを持ってきた。


先程より落ち着いた明里はそれを受け取る。


「染一、よく気付いたな。」

無有はホットミルクを舐めている。


「俺ん所にも来たからね。

だけどすぐ消えたからピンと来た。

白石さんを探してるってね。

それで急いでここに来たってわけ。」


漆原は腕を組んでいる。


「彩香と笑実の声が聞こえた。」

ホットミルクを持つ明里の右手は震えている。


「君に扉を開けさせる為の手口だ。

気にするな…という方が無理かもしれないけどあまり考えないように。

いずれにせよ俺達はもうすぐあの団地へ行く。」


「早く2人を救わなきゃ!今すぐ行こう。」


明里はホットミルクをテーブルに置いた。


「白石さん落ち着いて。

それができるならとっくにそうしてるよ。

悪霊にはタイプがあって、あいつはいわゆる地縛霊なんだ。

地縛霊は基本的にその土地からは離れられないんだけど、その土地に入った瞬間に呪いがかかる発動タイプだと対処方法を知らない限り、まず間違い無く取り込まれる。

更に厄介な事にあいつは陰素…つまり悪霊としての力が強過ぎて、呪いを発動させた者の周りへと感染させる効果も伴っている。

要は何も準備無しに行ったら死ぬし、生きて帰ってこれたとしても外で呪いを撒き散らす事になる。

坂元玄海が良い例だ。」


漆原は続ける。


「ちなみにあいつが外に出現できるのは白石さんに呪いがかかっていて、尚且つ力が強過ぎるから。

しかしそれでも外でのヤツは本来の力の1/10程度しか出せていないはずだ。

だから俺の陰力でも追い払える。だけど…」


無有が代わる。


「そろそろ限界だろう。

明里とヤツのリンクが日増しに強くなっていっている。

その証拠に…」

腹の下に隠し持っていた真っ二つに割れた太陽の依代を明里に差し出した。


「さっきの破裂音の後、本殿からの陽力の護りが無くなった。

実は余と染一は陰素の割合が大きくてな、この神社の陽神の結界が身体に堪えていたんだ。

特に染一は未熟な為、この居間に居られないほどに。

しかしその強い護りすら黒い少女は解除してしまった。

これは明里とのリンクが強くなり、黒い少女の力が影響力を増している証拠だ。」


無有が漆原に向き直る。


「染一、どうする?

お前もわかっている通り余は闘えん…

先程のもおそらくギリギリのラインだろう。」


「ちっ…

予想では団地へ着くまではセーフだったが…

黒い少女の力がここまでとは…。」

漆原は右手の親指を噛んでいる。


「明里、色々と事情が変わってきた。

余だけではお前を護りきれない。

そこでだ、染一もここに住む事はできるか?」

無有が唐突に提案する。


「私は大丈夫だけど漆原くんはお家の事とか大丈夫なの?」

明里は漆原が共に住んでいるという叔母一家の事を思い出す。


「ああ、それなら心配には及ばん。

叔母一家というのは余の部下達の事だからな。

それよりこいつはこれまでの人生で女子(おなご)と接する機会が皆無だったから、そっちの方が心配だがな。」


「無有、余計な事を言うな!

俺だって女子と付き合った事ぐらいあるわ!

なめんなよ。」


無有は哀れみの目で漆原を一瞥した後、再度明里に確認を取る。


「明里、こんな奴でも力は確かだ。

お前を護る為、しばらく生活を共にさせてくれ。」


「ううん、こんな私の為にありがとう。

こちらこそお願いします。」

明里は頭を深く下げた。


「あ、ありが…じゃなくて仕方ない。

それじゃあ俺もしばらく住まわせてもらうよ。

年頃の女子と一つ屋根の下…

あんな事やこんな事が起き…ぐふふふ。」



先程までの緊迫した様子はどこへやら。

漆原の頭の中は思春期の少年の妄想で埋め尽くされていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] のめり込む展開ですね。 毎回ですが次回の更新が楽しみになります。 [一言] あのポメラニアン500歳ですか(笑) それも推定でしょうから実際に無限の刻を 生きるものの貫禄が出てくるのでしょ…
2020/02/29 07:57 退会済み
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