第20夜 月美学会
神奈川県警 天海署
「ただいま戻りましたっ!」
逆井が元気よく挨拶した。
「おう戻ったか逆井。
とりあえずこっちに来てくれ!」
反町が自分のデスクから手招きする。
「逆井、これが血液検査の結果だ。」
報告書を手渡す。
「これは…!?」
「ああ、白石明里の衣服に付着していた血液は人間の血じゃなかった。
科捜によると"獣の血液に近い"らしい。
わけがわからねーぜ今回の事件。
安元彩香と松永笑実は熊にでも喰われちまったのか?」
顔をしかめる反町。
「ところで、白石明里の動向はどうだ?」
「はい、今のところ不審な動きは無いですが、今日は学校を早退して恋人の家に行きました。
その彼についての調査も三者くんが引き続き行っています。
唯一の肉親を亡くして、心休まるのは恋人と居る時だけなのでしょうね。」
逆井は前髪を整えながら神妙な面持ちをしている。
「そうか…
しかし白石明里の2度の入院中、異性が見舞いに来た様子は無かった。
普通恋人なら1度ぐらい見舞いに来てもいいもんだと思うが…
仮に恋人だとしても事件以前からの関係ではなく、最近始まった関係と見ていいだろうな。
…
そういや逆井、ちょっとこっちへ来い。」
反町は突然声のトーンを落とし、逆井を個室へと誘導した。
「どうしたんすか反町さん?」
電子タバコを加える反町。
「フーッ…
ああ、月美商会の件だよ。
パーキングでの事はお前が悪いとは思わねえ。
だが月美商会、というより月美学会とはトラブルを起こさねえこった。
お前も知っての通り月美学会は世界でも有数の宗教団体だ。
特に日本の政財界には強い影響力を持っている。
もちろん政府に従属している俺達にもな。
しかしその成り立ちや活動については黒い噂が絶えない…にも関わらず、今まで奴等が起こしたであろう事件は証拠不十分でうやむやになっちまってる。
つまり揉み消せるだけの力があるってこった。
逆井、お前も警察組織に身を置く以上こうゆう事も知っておくんだな。」
反町は電子タバコを吹かしている。
「何すかそれ…
月美学会について詳しくは知らなかったですけどそんなやばい組織が…
でもこれじゃあ警察の意味が無いじゃないですか!
つまり仮に奴らが犯罪を犯していてもなるべく見逃せって事ですよね?」
逆井の両手の拳は力強く震えている。
「そうゆう事だ。
お前にも人生がある。
上司としては若いお前にこんな事を教えたくなかったが、遅かれ早かれこういった事実は知っていく事になる。
お前にも人生があるんだ。
自分やご両親を大切にしろ。」
電子タバコのランプが点滅し、カートリッジの交換時期を知らせた。
「…わかりました。
反町さん、こんな若造に色々教えていただいてありがとうございます。
俺は俺のやるべき事をやります。」
俯きながら話す逆井。
「ああ、それが賢明だ。
よし、それじゃあ天海ヶ丘行方不明事件の捜査に戻るぞ。
俺達は白石明里の周辺を徹底的に捜査だ。」
反町はデスクへと戻った。
……………
1人になった個室には俯いたままの逆井。
しかしその瞳の奥は真夏の太陽のようにギラギラと燃え盛っていた。




