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手を伸ばせばそこに君がいる的空間

タケちゃんの部屋に泊まってたって?!


タケちゃんは急いで立ち上がって、後ろからももしおの口をばっと塞いだ。もう遅いって。


口を塞がれたももしおは、背中のタケちゃんを見ようとしている。が、タケちゃんはももしおが振り返ることができないように羽交い絞め。それって、抱きしめるって言わね?

タケちゃんは真っ赤になった顔をももしおに見られたくないんだろう。サッカーで日焼けしていても分かる。顔も耳も気の毒なくらい赤い。


じたばたじたばた


ももしおは暴れてる。


「シオリン」


おおっと。ねぎまが立ち上がった。


「……」


ももしおは、蛇に睨まれたカエルのように大人しくなった。


「いけないことしたって、分かってるんだ?」


ねぎまが、口を塞がれたままのももしおに顔をずいっと近づける。


こくこくこくこく


ももしおは首を縦に振った。

タケちゃんがももしおを解放すると、ももしおは鼻水をずびーっとすすり上げた。鼻かめよ。


「ごめんなさい、ごめんなさい。マイマイの名前使ってた。母には『勉強が分からないからマイマイに特訓してもらってる』って嘘ついてたの。西武君に迷惑だったよね。2日に1度は泊ってたもん。西武君は半分しかベッド使えなかったし、ご飯も作らせて、スイカの世話も手伝ってもらって、図々しすぎるよね」


はい⤴

なんか、ツッコミどころが満載過ぎるんだけど。

まずさ、ねぎまを初め、ここにいる人間が「いけない」と思っていることがももしおには分かってねーじゃん。

ねぎまは、タケちゃんの心を弄ぶなって意味で言ったんだよ。一人暮らしの男の部屋に泊まるなんてって。

だいたいさ、ももしお、お前はゼットンを好きなんだろ?


でだ。飯とペンギンの世話は置いといて。


「2日に1度ぉ?」


とオレ。


「ベッドを半分って?」


とミナト。


タケちゃんは、顔を隠してうずくまった。


「オレは、ものごっつう被害者や。オレはちゃんと寝んとサッカー部の朝練と部活に耐えれぇへん。授業も。で、交代にベッド使おうってことになったんや。なのに、百田は寝ぼけてオレの布団に入ってくるんや」


気の毒でならない。タケちゃんを思って、心の中で涙を流すオレ。


想像してみる。手を伸ばせばそこに君がいる的空間で、更に、好きだったとか今も好きかもって女の子がベッドで隣に身を寄せてくる。

タケちゃん、確か、シングルベッドだったよな。しかもタケちゃんは身長180越え。足が出るから、同じ高さの足置き場つなげてあったくらい。ほぼ密着だよな。

タケちゃんを思ったオレは、心の中で号泣。


はーっとねぎまは大きな溜息を吐いたのだった。



びーむびーむと、ももしおは盛大に鼻をかんで言った。


「でも、もう、ここに来たから。

 ちょっとシャワーが水しか出ないのは嫌だけど、教室からは西武君とこより近いし」

「……シャワー」


聞こえるかどうかってくらいの声で呟いたのはミナト。

つまりだ。ももしおはタケちゃんの部屋にいるときは、普通にシャワーを借りて、湯上り姿をタケちゃんに晒してたってわけか。

益々。もうオレ、心の中で慟哭してる。辛かったな。耐えたな、タケちゃん。



「シオリン、今、水でシャワー浴びてるの? もう寒いよ?! 風邪ひいちゃうよ?」


ねぎまの思考回路って、今一つももしお寄りかも。



ぽん


ミナトはタケちゃんの肩に手を置いて、無言で労っていた。



「で、とにかく、親にはバレたくないと?」


オレは再確認した。


「うん」


まー、分かるよなー。親に白状するって、この歳になったら、すっげー嫌。小学校のときだって嫌だったけどさ、だんだんキツくなってくるよな。


「ペンギンがいる動物園ってどこなんだろな」


オレの一言に、ももしおは「ヤッタ―」と両手を上げた。




いろいろと難しい問題がてんこ盛り。


ペンギンがいるところってのは結構ありそう。


が、ペンギンをこっそり紛れ込ませられるかっていうと、なかなか簡単にはいかない。大抵は温度管理されている室内飼育で、観覧客とは分厚いガラスで仕切られている。


「なあ、何年か前にペンギンが逃げたことあったじゃん。その水族館に海から宗哲の船で近づいて紛れ込ませるのは?」


ミナトが屋外飼育の水族館を挙げた。東京湾のほぼ千葉って場所。


「自信ない。そんな遠くまで運転したことねーし。結構、船って燃費悪いんだよなー。行けたとして海から入れると思えねーし。こっそり船を係留できる場所があるか確認できないって」


海はどこまでも繋がっている。とはいえ、近場でちょろっとしか舟遊びをしたことしかないオレにとって、遠出は難しい。友達を乗船させるとなると尚更。


「じゃ、神奈川の水族館は? カッケー島シーパラとか?」


タケちゃんが名デートスポットを挙げた。ねぎまがスマホで即行調べる。


「いるのは、オウサマペンギン、イワトビペンギン、マカロニペンギン、ジェンツーペンギン、マゼランペンギン、ケープペンギン、アデリーペンギンって。フンボルトペンギンがいないみたい」


「じゃ、テブラ壺マリンパーク」


今度はミナトが名デートスポットを。すかさずねぎまがスマホでググる。

どーでもいいけど、水族館ってデートスポットだよな。デートのステップって、映画、水族館、TDL、海、旅行ってステップだよな。


「イワトビペンギンだけみたい」


ひょいっとねぎまのスマホを覗いたももしおが首を傾げる。


「あれ?」

「どーしたんや、百田」

「イワトビペンギンの赤ちゃんもスイカっぽい」

「イワトビペンギンは、派手な眉毛ついとんのと違うか?」

「この写真だと、赤ちゃんのときは、ぴろんぴろんした眉毛ついてないみたい」


難しい問題、増えた。


みんなで検索タイム。スマホでいろんなペンギンの画像をそれぞれ表示させる。必死にスイカとスマホの画像を見比べた。


結論。恐らくは、スイカはフンボルトペンギン。

まず、卵の大きさ。ももしおの記憶でしかないが、鶏の卵より大きいという程度だったこと。

他には、温度。日本の秋、スイカは生きてすくすくと育っている。南極の極寒地域に住む種類じゃないということ。

そして、外見。チャコールグレーで腹の辺りがちょっと白っぽい。

イワトビペンギンは、フンボルトペンギンよりも白い部分がはっきりしているし多く見えた。


というわけで、元に戻る。



「アノ島水族館はどーや?」

「あ、フンボルトペンギン! あー。ダメだ。水槽の中にいるみたい」


しばし沈黙。神奈川の水族館が出尽くした。



「オレ、モケ山でペンギン見たことある気がする。めちゃ近くで見たような」


モケ山というのは、横浜の街中にある動物園。小さなころ、祖母がときどき連れて行ってくれた。

そのころの休日、父や祖父は仕事か接待ゴルフ。兄に習い事やら友達との集まりやらがあると、母は祖母に妹とオレを預けて参加していた。そんなとき、入場無料のモケ山動物園はよく行く場所だった。

祖母は、車の運転もするし、年の割には体力があって行動的なタイプ。


最近、モケ山に行ってねーから、今もペンギンいるか分かんねー。

ペンギンの種類なんて、そのころは気にしてなかった。だけど、記憶にあるペンギンの胸の模様がフンボルトペンギンっぽい。


「「モケ山」」「「すぐそばじゃん」」


みんなモケ山動物園を知っている。当然。ご近所。

隣接する公園は桜の名所。花見シーズンはモケ山動物園の動物たちが不眠症になる。


ねぎまがすぐに調べると、モケ山動物園にはフンボルトペンギンがいた。屋外プール。


入場は4時半まで。

今は5時ごろ。さすがに今日下見をするのはムリ。

オレ達は、別の日に下見に行くことにした。


ももしおはスイカの世話のために下見には行かないと言う。それを聞いたタケちゃんは、動物園に行くのを渋った。


「百田、スイカんとこにおるのか。もうすぐ別れるとなると、なんや、スイカとおりたいな」


そんなタケちゃんの言葉に、


「情移るよなー」


とオレは頷いた。なんたって、タケちゃんの部屋で飼ってたんだもんな。

ん? ミナトがタケちゃんに何か耳うちしてるし。何?


「やっぱ、オレ、行って見て来る」


あれ? タケちゃんが行くことにしたし。


こそこそとミナトに聞いた。


「タケちゃんに何喋ったわけ?」

「Z高のヤツは、土日はびっしりテニス部で、ここには来ないって」


ほー。

タケちゃんがモケ山に行きたくなかったのは、ももしおがゼットンと2人で会う可能性を考えたってことか。なんか、必死じゃん。


てかさ、ねぎまとオレがデートを装って行くのが自然じゃね?


「オレ、ねぎまと2人で見てこよっか?」


オレが提案したのに。


「宗哲クン、私行けない」


拒否られた。


バド部があるとのこと。

土曜の午後、どっかの体育館で他校と合同練習。日曜は都内で練習試合。バド部がこんなにも忙しくなったのは、ももしおが強いせいだってのに、当の本人は、練習サボってるし。


一方、ゆるゆるのサッカー部と男テニは午前練習のみ。


「不本意だけど、男3人で行くか」

「せやな」

「ももしおちゃんもねぎまちゃんも行けないなら、しょうがない」


何が悲しくて、休日に男3人で動物園。


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