つき合いたいわけじゃないけどカレシ作らないでください
1つのテーブルにはももしおと友達+ヤロー4名。もう1つのテーブルは少し離れて、女3男3。
ももしおの正面にゼットン。こーゆー時の女同士の協力の仕方は見習うべきところがあるよな。
だが、ももしお、タケちゃんはどーした!
誰が言うでもなく、オレ達は水を打ったように静かになった。
ちょうど仕切りを挟んで、オレのテーブルの隣がももしおとゼットンがいるテーブル。
盗み聞き。
「横浜、今度案内してよー」
「いくいくー」
「いーよ。ね、シオリン」
「うん」
「マジ、かわいー子ばっかじゃん?」
「えー、言い慣れてる感あるー」
「マジでマジで」
こなれてる。両者とも。こいつらの辞書には「人見知り」って言葉ねーんじゃね?
「君ら、カレシとかいないの?」
キタ―――――! テニスもナンパも速攻。
「いなーい」
「いないよ。ね、シオリン」
おい、ももしお、タケちゃんはどーした。
ももしおと一緒にいる女の子は、サッカー部のキーパーのカノジョ。可哀想にキーパーのヤツ。今ごろ埼玉遠征でゴールを守ってるだろーに。カノジョは守れてねーし。
「そんなこと言っちゃって、ホントはテニス部に好きなヤツがいるから応援に来たんじゃない?」
「友達だよ、友達ー」
「ね、友達」
「なんつーか、申し訳ないくらい、友達のしたわー」
くーっ。こいつら、言いたい放題だな。
オレは耐えた。
なのに、その言葉に耐えられなかったのか、アクションを起こしたのは、意外にもジェントルマンのミナトだった。
突然立ち上がったミナトは、仕切りの上に肘をついてアゴを乗せた。
「どーもー。友達でーす」
ミナトはダルそうに宣言した。
「「ミナト君!」」
「わっ」
「いたのかよ」
「悪い。言い過ぎた」
Z高のヤローは、即、失礼発言を取り消した。
「こっちも聞いてて悪かった。オレら、食べたら帰るけど、一応いるんで」
ミナトは謝罪しつつも「聞こえてるから」と釘をさした。耐えられなかったのは、失礼発言じゃなく、盗み聞きだった模様。ジェントルマン過ぎ。
「あ、じゃ、君らの友達と親睦深めさせてもらうんでー」
「うぃぃぃ」
Z高テニス部員の言葉に、片手を軽く挙げて答え、ミナトはすとんとイスに腰を下ろした。
この状態じゃ、親睦なんて深めにくいだろーな。つーかさ、練習試合したなら、本来親睦を深めるべき相手はオレらのはず。
「知らんぷりしとはばいーのに」
オレの言葉が聞こえなかったかのように、ミナトは眉間に微かに皺を寄せながらカルボナーラを黙って口に運んだ。
ちなみに、オレ達に失礼発言をしたのはゼットンじゃない。
仕切りの向こうの会話が聞こえてくる。
「Z高って、いろんな部活があるんでしょ?」
鈴を転がすようなももしおの声。
「あるある。グリークラブとか戦前から」
今、ももしおにロックオンされている声の主はゼットン。
「すごーい」
ももしおはゼットン1人にターゲットを絞り、2人で会話を楽しんでいるっぽい。
オレは心の中でもう一度叫んだ。ももしお、タケちゃんはどーした!
「ラクロス部とかヨット部とか」
「ヨットは公立にはないよー。文化系の部では? 変わったのあるの?」
「あー、数学オリンピック目指す部とかある。投資部とか」
オレが教えたから、ももしおは、投資部の存在は知っていたはず。オレは小田、ミナト、筋トレマニアとふざけ合いながらも、聖徳太子ばりに能力を発揮し、しっかりももしおとゼットンの会話を聞いていた。
「投資部? 投資部があるんだー。投資するの?」
しらじらしい、ももしお。
「してるらしい。オレらの学校、テストが通れば、授業の出欠は取らないからさ。サボってFXとか」
「いいねー。部室とかあるの?」
「あるっしょ。部屋余ってるもん」
「善財君は投資部じゃないの?」
どうもゼットンの苗字は「善財」らしい。
「テニ部だけ。テニ部は兼部禁止だから。
友達に投資部のヤツいるよ。さっきの、授業さぼってFXやってるヤツ」
「すごーい。自由だねー」
お前もな、ももしお。
「なに、投資部の話、グイグイ来るじゃん?」
ももしお、バレバレだぞ。
「えーっとね、地味な公立じゃ考えられないじゃん? ちょっと興味ー」
「はは。見学に来れば? セッティングしよっか?」
「ホント!」
「そしたら、また会える」
「だね♪」
勉強になります。そうやって合コンで距離詰めるんっすね。
オレには、カノジョいるから、もう合コンの予定はないけどさ。初対面でスマートに会話をするスキルは、社会人になったら必要だと思う。だから今後、合コンくらいは、ねぎまに内緒で、さらっと経験しておこうとは思っている。
「連絡先聞いていい? 百田さん」
素晴らしい流れ。自然っす。
目の前では小田がおもしろくなさそうな顔。
「どーした、小田」
「同じガッコなのにさ。オレだってももしおと連絡先交換してねーのに。なんだよ、あの髭。数分で。
イケメンでテニス強くてモテ校でいいテニスコート使ってるからって」
ぶーたれる小田。聞くに堪えない負け犬ゼリフ。ところで、こっちでふざけ合いながら、小田もちゃんと聖徳太子能力を発揮してたのか。
「ま、しゃーない」
ミナトは笑った。ミナトも聖徳太子だった。
「余裕だよなー、ミナト。ももしおはオレらのガッコのアイドルだぞ。
宗哲がねぎまを持ってったから、もう1人しかいねーのに」
筋トレマニアまで。つまり、こっちのテーブルで真剣にじゃれあってふざけてた人間はいなかったってことか。でも残念だな、筋トレマニア。ももしおは、実はもうタケちゃんのものかも。
「なんだよそれ。恋愛禁止アイドルかよ」
一応オレは突っ込んでおいた。
だいたい小田にも筋トレマニアにもカノジョがいる。それでも、自分の高校のアイドルが他校生と仲良くなるのはよろしくないらしい。
あれだあれ、「つき合いたいわけじゃないけどカレシ作らないでください」って。
合コンが気にならないと言えばウソになるが、会話が聞こえている自然盗み聞き状態ってのも不名誉な気がして、早々にファミレスから脱出した。一応、Z高のテニス部には挨拶した。卑屈でも礼儀正しいオレ達。
Z高のテニス部のヤツらは、顧問の合コンのついでの練習試合だったことを知っていたんだろうか。
激しくどーでもいい。
店の前からぞろぞろ歩き始めた。その横を、ももしおがたたたっと走ってオレ達を追い抜こうとする。
「ももしお、どーした?」
オレが呼び止めると、
「みんな、今日はお疲れ様ーっ」
一瞬立ち止まってこっちを向き、ぶんぶんと大きく手を振った。そしてくるっと進行方向に向きを変え、横浜駅方面に走って行ってしまった。
「やっぱ、ももしお、いい! 疲れふっとんだ」
「ももしお、合コン、捨てたんだなー。えー子や」
小田と筋トレマニアがほくほくとした顔でももしおの後ろ姿を見送っていた。
いやいやいや。しっかり連絡先交換してたから。そもそも、バド部の練習試合さぼっての応援&合コンだから。
それは練習試合から2日後の月曜日のことだった。
「ちょっとちょっとちょっと、校門とこに芸能人みたいなイケメンがいる―――――」
ばたばたと教室に走り込んできた女子が、他の女子の手首を掴んで廊下に出て行った。
昼休み、オレは提出用のノートを写しているところ。自分のノートってない。だってさ、授業終了時、黒板を写真に撮ってA4サイズにしてファイルしてあるから。
板書なしで授業に集中できていいんだけどさ、ノート提出のときが困る。知ってたら、その教科だけでもとりあえず自分で書いておくのに。3限目の最後にいきなり言われたんだよなー。
優しい小田は、自分のノート提出が遅れるかもしれないのに、オレに見せてくれている。
「あ"ー。もう、写真に撮ってるって言おうかなー。オレ」
「そーする? 別にオレはどーでもいいけど。宗哲、どうせこんなん、大学受験に関係ねーじゃん。それとも推薦?」
話しながらも、オレの手は高速で字を書き続ける。
「ちげー」
「だったらいーんじゃね?」
「あー。腕、だるくなってきた。やめる!」
オレは「教師にぶっちゃける」を選んで顔を上げた。
ん?
「小田ぁ、女子は?」
教室に女の子が1人もいない。
「さっき、イケメンがどーたらこーたらって出てった」
「イケメン?」
「校門とこにいるらしい」
小田はあくびをしながら教えてくれた。
と、突然、眼鏡をかけたいつもは大きな声なんて出さないヤツが、緊急発令を出した。
「やべぇ、ももしおがモテ校に奪われる! 誰か止めろっ」
ガタッ ガタッ ガタッ
一斉に教室に残っていた男子がイスから立ち上がった。つられてオレまで。別にももしおファンじゃないのに。「どこだ」とか「どいつだ」とか口々に言いながら、男子ばっかのむさくるしい集団で廊下を歩いて行く。
「なあ、土曜日の髭のヤローじゃね?」
小田がオレに話しかけた言葉に、周りのももしおファンが敏感に反応する。
「なんだよ、髭って」
小田が速足で歩きながら、土曜日の合コンのことを話した。
「ぬあんだってぇぇぇ!」
ももしおファン達はぐぐっと拳を握りしめた。
「ももしおが合コン?!」
「おのれ、Z高」




