表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/33

社会の理不尽

男テニ処刑の日は、雲一つない秋晴れだった。

ももしおが、いつも一緒にいる友達と7、8人で、テニスコート横に現れた。


「宗哲君、ミナト君、応援に来たの。がんばれー」


調子のいい。

あれ? ねぎまの姿がない。


「ねぎまは?」

「マイマイはバド部」


そーいえば、練習試合があるって言ってたよな。


「「「「「「こんにちは。今日は頑張ってね。ミナトくーん♡ あ、宗哲君も」」」」」」


金網越しにミナトを応援するみなさん。どうも、このメンバーにとって、オレはミナトのおまけらしい。


「マイマイはね、副部長なの。だからバド部をさぼれないの。ごめんね、宗哲君」


ももしおの友達の1人が教えてくれた。


「え、副部長? 部長は?」

「私」


普通に答えるももしお。


「おいー」


やりたい放題だな。部長のくせに部活サボってんのか。

ももしおは確かに運動神経抜群。バド部で1番強いのは容易に想像がつく。でもさ、部長を任せていい人間かどーかは見極めろよ、バド部。


「ホントはね、マイマイも誘ったんだけど」

「ムリだよー」

「マイマイ、真面目だもん」

「ごめんごめんー、宗哲君」

「もともと、シオリンがこんなだから、マイマイが副部長にされたんだしねー」

「部長の仕事、ほぼほぼ、マイマイがやってない?」


ももしおの友達が口々に暴露する。


Z高が来るという噂は女子の間に拡散されていたらしく、テニスコートの周りに女子がいっぱい。

観覧スペースなんてもちろんない。金網の向こうにずらーっと立ち見。

男テニ始まって以来のギャラリー。



でもって、いたよ。

髭のヤロー。

投資部じゃなくて硬式テニス部だったのかよ。

タケちゃんの件ですっかり忘れかけてた。


ももしおの目は髭のヤローにロックオン。ゼットン、ビンゴか。

竹野内豊にマジ似。

おい、ももしお、タケちゃんはどーなった。



練習試合開始。

なんか、モテ高、ナンパ軍団のくせに巧いんっすけどー。わりとコテンパンっすけどー。


顧問曰く、半分は、幼少のころからきっちりテニスをしてきた人間なのだとか。フォーム、めちゃ綺麗。逆になんで練習試合にオレらの高校OKした? コートだって凸凹で整備行き届いてないのに。


女の子達の黄色い声は、テニスコートに立つ相手選手のイケメン度で変わる。

竹内涼真風、キャ―――――――がんばって―――――♡

柳楽優弥もどき、キャ―――――――がんばって―――――♡

なんちゃって菅田将暉、キャ―――――――がんばって―――――♡

EXILEがんちゃんっぽい、キャ―――――――がんばって―――――♡

普通男子、声援なし。

どーなの、これ。

男見ないで試合見ろよ。あ、やっぱ試合は見るな。



オレら、女子の前で公開処刑されるって何?

運悪く、超強いヤツに当たると瞬殺。



ダブルスで髭のヤローと当たった。オレは小田とペア。

試合前に小田の目は闘争心よりも、嫉妬心に燃えていた。


「宗哲、漢には絶対に負けられない闘いがある」

「やー、でも、フツーに強くね?」

「諦めんのか? イケメンで脚長くてモテ校でいいテニスコート使ってるヤツに負けられるかよっ。

 こっちだって、漢のプライドってもんがあるだろ。髭なんか生やしやがって」


既に心が負け犬の小田。


「ま、とりあえず、頑張ろーか」


強ぇ。球避けたい。走らされて遊ばれてる。

とりあえず、負け。


顧問はご機嫌。教え子がこんな情けない状態なのに、どーなの?


「はははは。お前ら、こんなに走ったことないだろ。いつもちんたら部活してるもんなー。走っとけ走っとけー」


顧問、Sだな。


練習試合後、オレ達はよれよれ。Z高のヤツらは爽やかなまま。

だろーよ。走ってねーもん。余裕で試合してやがった。



ももしおと7、8人いる友達は華やかで綺麗な子ばっか。しっかりナンパされていた。

ねぎま、来なくて正解。



試合が終わると、我が校の顧問とZ高の顧問がジャージからお洒落な私服に着替えていた。いつの間に。


「先生、髪まで遊ばせちゃってますけど、どーしたんっすか?」


聞いてみた。


「いや、この後ちょっと」


20代後半の顧問は毛先を気にしている。いつも耳クソ飛ばしてんのにさ。

そこへZ高の顧問がスマホを見ながらやってきた。


「おい、横浜の女の子、レベル高ぇ」


と、Z高の顧問は嬉しそうに我が校の顧問の首にがしっと腕を回し、スマホ画面を見せた。

すかさずオレは、スマホと顧問の間で鑑賞。画面には20代の女性が4人。笑顔。


「綺麗な方々ですね」

「どけ、宗哲」

「先生、ひょっとして、合コンついでの練習試合だったんですか?」


オレは核心を衝いたようだった。


「なんだよ、宗哲」

「別に」


ムカツク。今日の惨憺たる試合は、たかが合コンのせいだったなんて。


「宗哲、大目に見ろって」

「そうだよ。君」


なんだかZ高の顧問までオレに話しかけてくる。


「なぁ宗哲。教師って職業は、圧倒的に出会いがないんだ。どんなに可愛い好みの女子生徒がいたって、禁断の果実。うっかり手を伸ばそうもんなら、淫行で社会から抹殺される。いや世論による撲殺だ。教育実習に綺麗な子が来たからって、飲みに誘えば、パワハラ&セクハラ。

 職場に、フリーで適齢で自分の好みの女が赴任する可能性なんて奇跡に近い。

 日本の少子化に歯止めをかけるためにも、オレ達は頑張らなきゃいけないんだ」


けっ。長い言い訳しやがって。


「私立男子校の現状はもっと悲惨だよ、君。

 教育実習は卒業生。つまり、全員男。公立と違って、教職員のメンバーが入れ替わることは極めて少ない。男子校ということもあって、女性の教師はほぼいない。いたとしても、すっげーババア、ん、っと、熟女だったりする」


Z高の顧問は、うっかり「ババア」発言。


「あれ? この間お前、派遣の23歳の事務の子とやっちゃったとか言ってなかったっけ?」


と顧問。


「うるせーよ。お前こそ、前任のとこの卒業生に手ぇ出したんだろ?」


とZ高の顧問。


2人はお互いに弱味を握り合っているようだ。

あほくさ。

帰ろ。



こんな風にぼろっぼろに負けた日は、騒ぐしかねーじゃん。


「カラオケ、予約したぞー」


さすが部長。部長らしい仕事ぶり。


「「「「「「おおおおーーーーー」」」」」


どっかで食って、7時半カラオケ集合。男テニ2年は総勢40名ほど。幽霊部員も多い。

本日の参加者は20名以上。全員が同じ場所で夕食を食べるのは、土曜日ということもあって難しいから、カラオケ店現地集合。


オレ達は8人でぶらぶらと横浜駅方面へ向かった。

そして、駅から少し離れた場所にあるファミレスに入った。

一目見て隔離したいと思われたのか、案内されたのは、仕切りの向こうの1番奥の席。どさっどさっとラケットバッグを隅に積み上げ、4人ずつに分かれて座った。


「疲れたー」

「オレ、たぶん明日筋肉痛」


口々に本日の感想やら感情やらが出てくる。一応オレは、顧問の合コンについて黙っておいた。今ゲロったら火に油。来週月曜くらいに顧問が闇討ちに会いかねない。


「オレも筋肉痛」


あらら、男テニの筋トレマニアすらこの調子。


「いつも筋トレあんなにしてんのに? プロテイン飲んでさ」


突っ込むオレ。


「あかん。女にモテる胸筋と上腕二頭筋しか鍛えてねーし」


だらーっと寛ぐと、1日の体の疲れた和らいでいく。

練習試合だからとか、そーゆーことじゃなくて、負けて悔しいとかは全く無い。そこまで真剣にテニスをやってるヤツがいないから。大学生になってから、女の子とテニスしたときに、教えてあげられる程度でOK―――そんなスタンス。


炭水化物をひたすら補給。


「モテ校で強いとか、ねーし」


悔しくなくても、こてんぱんに負ければ凹む。しかも大勢の女子ギャラリーの前で。


「反則だよな」


負け犬小田もオレに同意した。


「社会の理不尽っつーの?」


おおっと、ミナトまでカルボナーラを食べながらぼやく。確かに理不尽。合コンついでの練習試合なんて。

筋トレマニアはプロテイン入りの容器をテーブルに出していた。


「お前、まさかのここでプロテイン?」

「動いた後が効果的なんだって。宗哲も飲む?」

「や、今度にしとく」



テニスの話なんて秒で終わり。オレ達はお笑いの話なんかをして盛り上がっていた。

そんなとき、少し高い声が耳にい入ってきた。ももしお達、女子集団の声。


「12名様ですね。お席が2つに分かれてしまいますがよろしいですか?」


社員教育が行き届いた店員は、よく通る聞き取り易い声で案内する。てくてくと歩き、オレ達のいる席の、仕切りを挟んで隣の席にももしお達を案内した。

仕切りの高さは約140センチ。上の方はすりガラスで店名が模様になっている。店名の模様部分は透明なガラス。低い壁状のしきりとガラス部分との間にわずかな隙間があり、不自然な姿勢になれば、そこから隣のテーブル席を覗くことができる。

もちろん覗いた。小田とオレ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ