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つまんない

「あの…そんなに落ち込まなくても…」


体育座りをしながらぶつぶつと文句を垂れ流している紗綾に言った。


「落ち込んでねぇよ!」


いきなり立ち上がり、ズカズカと歩いていってしまう。僕はひとつため息をしたあと、追いかけた。


「なんだかんだ言って変わってないです」


少し笑いも混じった声でカンナが言った。


が、突然カンナは焦った声に変わった。


「奏太様…また人数が減りました」


カンナの声から一人二人の人数じゃなさそうだ。


「残り人数は今…四人です…」


明らかにおかしい、さっき戦った男は組織で動いてるようだった。そして、僕と紗綾を理由はまだよく分からないが殺そうと思っていたはずだ。組織で動いてるなら最低でも確実に殺すために五人はいてもいいはずなのに。


「なにかあったのか?」


立ち止まってる僕に紗綾が気づいて、振り返りながら言った。


「今の残り人数が四人になった」


僕がそう言うと、紗綾は表情を変えずにさっきまで歩いていた道の方を見る。


なにも反応をしない紗綾に少し苛立ちさを持ちながら、紗綾の近くに行く。


「やったぁやったぁ!最後最後!」


どこかで聞き覚えのある声が道の奥から飛び跳ねる影と共に聞こえた。隣にはもう一人の影がある。


「これで、最後というわけか」


紗綾が冷たい表情を変えずに淡々と言った。


少しずつ影が近づき、顔が認識できるようになっていく。


「なんで…」


僕は驚きと、悲しみと、嬉しさと、絶望を一気に味わったような感覚になった。


僕の目の前には昔の親友だった釛と守りきれなかったミントがいた。


次の瞬間、突然頭に針でも刺されたような痛みが走り、視界が歪んだ…?いや、歪んだのはこの世界の方だ。周りが湾曲し、テレビの砂嵐のような音が数秒続いたあと、突然声が聞こえた。


「最後までご苦労だった。しかし、私の実験はすでに終わっている」


この声は聞き覚えがあり、忘れることができない声だった。そう、昔僕の親友である釛を軟禁した先生だ。


「おい!どこにいる!?」


僕は頭の痛みに顔を歪ませながら、大声で叫ぶ。


「私は……まぁ安全なところだ」


僕の質問に答えるのがめんどくさかったのか、間抜けな声で返答が返ってきた。


そのことで余計に僕は腹が立った。


「ふざけんなっ!こんな糞ゲーム作ったのお前なんだろ!」

「その通り。正確に言えばゲームのルールを作ったのは私だ」


ルール?つまり、この糞ゲームの基礎はまた他の人によって作られたということか?


「そんなことより、お前が主催者ならこの質問に答えられるはずだ。本当に死人を生き返らせることはできるのか?」


紗綾は少し痛みに顔を歪ませつつも、ハッキリとした声で言った。


「答えてもいいが少し質問文がおかしい。死人ではない、電子になった人間だ。私の唯一無二の慕っている男が作り出した技術だ。すでに死んではいるがな。質問に答えていなかったな、戻す事はできる」


僕は胸を撫で下ろし、安堵をした。


「そいつらを殺せたらな」


そう先生が言った。生き返らせれるなら全力で倒すのに躊躇はしない。


しかし、次の先生の言葉によって絶望へと叩き下ろされた。


「そいつらはもう戻らないけどな。そいつらはすでに体との連結は断ち切り、記憶すらない。元からそう作られるようにした。つまり、お前は親友を殺し、守ってやりたかった人を殺し、皆を助けるんだ」

「ふざんなよっ!」

「うるさい。この実験はすでに成功している。無駄な時間は使いたくないんだ」


またテレビの砂嵐のような音が鳴り出すと、世界の歪みは消えて、いつもの光景になった。


「さて、殺しにいくぞ」


紗綾が無表情でミントの方へと歩いていく。その時の横顔は今までの氷の冷たい表情を越えてドライアイスとでも形容した方が正しいような表情だった。なにか残酷な決断をしたような気がした。


「始まる始まる!楽しそう!」


前のミントの性格では考えられないようなほどの嬉々とした声で僕は我にかえり、紗綾の目の前に立ちはだかる。


「邪魔だ、どけ」


紗綾が睨んでくる。


「どかない。こんなところで殺し合いはせずに、主催者である先生を探そうよ。親友と戦いたくない」

「お前は馬鹿か?エリア指定されたら一定の距離でしか行動ができない。しかも前の二人はあの主催者の持ち駒だ。自分は安全なところでこのゲームを見てるに違いない。もちろんあいつらとは友達登録なんてできるはずがねぇ」


そう言いながら紗綾は僕の肩に手をかけて横に押す。僕は動こうとしない。


「戦わなくてもいいじゃないか」


少しずつ声が小さくなっていくのが分かった。


紗綾は乱暴に僕の胸ぐらを掴む。


「ふざんなよ、今までお前は何人と戦い、殺してきた?」

「殺してはいない、生き返るから」

「それじゃあ、何故本当に生き返ると思った!?お前の心のどこかには生き返るという願いは実は嘘じゃないかと思っていたはずだ!」


あぁ、そうだ。今まで殺してきて後悔はあった、しかし生き返ると信じて戦ってきた。つまりそれは自分で自分に、殺しても大丈夫だと嘘を吐いていたのだ。


「僕は…死ぬのが怖かったんだ……」


死にたくないから、相手を殺した。死にたくないから皆を生き返らせると嘘を吐いて、生き抜いてきたんだ。


「大丈夫だ。お前は間違った事をしていない」


紗綾は僕の胸ぐらを離し、まるでお母さんが子供をなだめるかのように、僕の頭を胸へと運んだ。


「親友なら今自分の意思で動けないのがとても辛いだろう、しかも親友を傷つけようとしている。守りたかったやつならその辛さから守ってやれ」


頭を優しく撫でてくれた。涙が溢れてきた。恥ずかしくて声に出さないようにしているが、紗綾はとっくに気づいているはずだろう。


「そう…だよな。釛、ミントを殺すのではなく、辛い思いをさせたくないから戦うんだ」


僕は袖で目元を拭い、しっかりとミントと釛を見た。


「終わった?終わった?そんじゃあ戦おう戦おう!」


ミントは小学生とは思えないほどの脚力で地面を蹴りぐんぐんと僕との間をつめる。


「武器【蒼の短剣】」



奏太

【残容量:10000MB】-【蒼の短剣:800MB】=【残容量:9200MB】



右手の中に【蒼の短剣】がダウンロード完了したときには、ミントが僕の一メートル前で前屈みに跳びながら体勢を立て直して、蹴りを頭に向けて蹴りを入れようとしてくる。


僕はのけ反りながらミントの蹴りを避けて、そのまま僕の頭があったところに右から左に【蒼の短剣】を振る。


「あれあれ?そんなもん?」


急に右側から声がした。


さっきまで僕の頭があったところにいたはずのミントはすでに僕の隣で笑っている。


突然ミントが爆発した。


僕は爆風で横に転がる。なんとかブレーキを掛けて上半身を浮かしてみる。


「危ない危ない、もう少しでミントは死んでたね!」


ミントは動かない釛の隣にいた。


「くそっ」と紗綾が唇を噛み締めていた。


この状況から考えてみると、紗綾は爆弾のようなものをダウンロードしてミントに投げたのか。タイムラグが無いのだから突然爆発するように思えたはずだ。


「でもさ、そういうのって卑怯だよ卑怯!」


ぴょんぴょんと跳びながらミントは言った。


「真剣に戦ってんだ卑怯も糞もあるかよ」


紗綾がいい放つ。


「つまんない」


刹那、隣にいた紗綾の体が空を舞った。


「ねぇ、お兄ちゃんもつまらない人?」


ミントは僕の目の前で笑いながら言ってくる。冷たくて暗くて残酷な笑顔で。

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