やっぱり、シスコン
僕は足に力を込めて、一気に地面を蹴って走りだす。
【オーバーヒートライフ】を使っているから聴覚もよくなり、撃ってきた場所が手に取るように分かる。
少しずつだが自分の体力も減ってくるので急いで、走りながら、銃弾を避けつつツインテールの言っていた言葉を思い出す。
「運命の選択を間違えないでね」か。よく分からない。なんの話すらも分からない。しかし、この言葉を言っていたときのツインテールの表情はとても不気味だったな。笑っているのか、泣いてるのか、面白がってるのか、哀れんでいるのか、どれも合わさっていた気がする。
「…なんですね!知らなかっ…あれ、聞こえてます?奏太様、考え事ですか?」
カンナがなにか話していたようだ。
「ごめん、聞いてなかった」
「分かりました」
カンナは気遣ってくれたのか、この後はなにも喋らなかった。
しかし、その後僕はツインテールの言葉について理解した。
∇▲∇▲∇
発砲音を基本とし、銃弾の跳んでくる角度、方向全てを総合的に見解してある一つのところについた。工事中のボロボロの廃ビルだが、支柱のおかげでなんとか形を保っているようだ。
この十五階建てほどのビルの屋上に銃弾を跳ばしてきた敵がいる。
僕は一つ深呼吸をしたあと、一気にビルのなかに入り、階段を三段とばしでかけ上がっていく。
屋上へ入るための少し重たい扉を開ける。
「やっぱり、来ちゃったか…」
聞き覚えの声がすると思った瞬間、ライフルを持った妹である花梨が寂しげな表情で立っていた。
「なんかの間違いだよな」
僕が震える声で言った。
本当は解っている、認識している、理解している。でも、信じたくないのだ。
「間違いなんかじゃないよ。正真正銘兄さんの妹だよ」
思わず、持っていた携帯を地面に落としてしまう。そのまま、僕はゆっくりと花梨の方へ歩く。
花梨の前に立つと、僕は両手で両肩を掴み涙を流してしまう。幻覚ではなく、ここに実在しているということが分かってしまったからだ。
「気持ち悪いんだけど」
花梨は僕の胸の辺りにライフルの銃口をあてて、引き金を躊躇なく引いた。
ゼロ距離なので衝撃が強く、体が少し浮かび上がりながら後方に飛んでいってしまい、背中に扉がぶつかって座り込んでしまう。
奏太
【体力:6500/10000】-(銃弾:1000)
花梨がため息をして、ライフルの銃口を僕の頭に向ける。
「本当にこんな奴が兄さんって信じられない」
冷たく言い放つと、花梨は僕の頭に向かって銃弾をあてる。
奏太
【体力:5500/10000】-(銃弾:1000)
僕は足に力を込めて、ゆっくりと立ち上がる。
「この戦いはやめよう、頼む。花梨を傷つけたくない」
「兄さんが私に勝つつもり?」
花梨は鼻で笑い、「なめないでよ」と続けた。
花梨はライフルの銃口をまた、僕の額に向ける。
パァン!
僕は額に向かってきた銃弾を掴み、投げ捨てる。
「こんな近くでも取っちゃうんだ」
少し笑みをこぼしながら花梨は言った。
「やめよう」
僕はもう一回言ってみる。
「嫌だ、絶対嫌だ」
花梨はかたくなに拒否する。
「奏太様、これ以上無理だと思います」
地面に落としてしまった携帯からカンナが言った。
「分からないじゃないか」
僕がカンナに言うと、携帯の画面から見えたカンナはとても苦しそうな表情だった。
「奏太様、家族がいなくなるのは拒みたいと思うのは分かりますが、花梨さんはきっとグループ登録をしています」
グループ登録、ただ戦うときのみ協定を結ぶもので、エリア内でしか登録、離脱はできない。しかしグループ登録には一つ決まりがあり、それはグループを作った長が離脱や登録を認めなければ実行されないというものである。そして、グループ長が死んでしまってもその権利はかわらないのだ。
「つまり…」
「どちらかが死なない限りエリアからは出られません」
絶望。文字の通り希望が絶えた。
「奏太様、もう少し早く気づくべきでした。すみません」
カンナが僕に謝ってくる。
「なにをだよ」
「最初からおかしいと思っていたんです。エリア内で携帯を壊すのは無力化と言っても過言ではありません。最初の銃弾は戦っている時、寸分もくるわずに、奏太様の手にあててきました。ということは命中力が非常に高いということになります。それなのになぜ最初から奏太様の携帯を壊しにいかないのか」
花梨は「遅かったね」と言って、なにかを決意するかのように「考えなくても答えは決まってるよ」と言った。
そう言いながら花梨はライフルを地面に置いた。
「武器【黒銀拳銃】」
花梨の手に銀色と黒色をモチーフにした拳銃がでてくる。そして、その拳銃の銃口を花梨は自分のこめかみにあてる。
「なにしてんだよ」
「だって、兄さんは私のこと殺せないでしょ?シスコンだから。それと私より兄さんの方が強いしね」
「他に方法あるかもしれない」
「そんなの無いよ。兄さんが戦ってる時、ずっと探してた。兄さんより私の方が頭良いんだから」
花梨は弱々しく笑う。
「それじゃあね優勝してね、奏太兄ちゃん」
最後の最後に花梨は昔みたいに、僕のことを言ってくれた。
「スキル【一球入魂】」
パァン!
花梨
【体力:7500/10000】-(黒銀銃弾+一球入魂:2500)
パァン!
花梨
【体力:5000/10000】-(黒銀銃弾+一球入魂:2500)
パァン!
花梨
【体力:2500/10000】-(黒銀銃弾+一球入魂:2500)
「やめろおぉぉっ!」
僕は手を花梨に伸ばしながら、走った。
「やっぱり、シスコン」
パァン!
花梨
【体力:0/10000】-(黒銀銃弾+一球入魂:2500)
花梨は消えていく間際に僕に泣きながら笑顔で「頑張れよ」と言った。