エピローグ…初めての
カナンの兄が来た数ヶ月後、ノエルから手紙が来た。
フェルナー家から謝罪と慰謝料が送られてきたという内容だった。
フェルナー家が政略結婚を繰り返そうとする限り、また何か事件があるかもしれない。
でも、問題はそこじゃない。
先日のことで、カナンがものすごく寂しい時間を長い間過ごしていたと分かったことだ!
でも、それならそうと寂しいと一言言ってくれればいいのに。
――いや、違う。
ヒナミは今まで15年の間、社交界でカナンに言われた言葉を思い出す。
『どうして会いに来ないの』『王都に行くなんて嘘。カナン以外に好きな人でも出来たんでしょ!』『気を遣わなくても、声を掛けてきた令嬢と踊ってくれば!?』
あれは全部、気の強いカナンなりの寂しいっていう言葉だった。
ヒナミは最初、フェルナー家の話をそこまでひどいとは思ってもみなかった。
噂に尾ひれがつき、実情よりもひどく伝播されるのはよくある。
でもおそらく、カナンのつらさの半分もまだ理解してないと思う。
「……」
ヒナミは頭を抱える。
どうしたら、カナンのことを寂しくさせずにすむんだろう。
どうしたら、もっとカナンが素直になるんだろう。
どうしたら――。
そう考えていると、ヒナミの中で1つの答えに辿り着いた。
ドアが3回ノックされる。
ヒナミは返事をすると、現れたのはカナンだった。
「ヒナミ。昼食の時間だよって呼びに来たんだけど、お仕事の都合悪い?手伝おうか?」
カナンが仕事部屋まで呼びに来てくれた。
時計を見れば、昼食の時間を5分過ぎていた。
「……」
「ヒナミ?」
首を傾げ、近くに寄ってくるカナンの手を、ヒナミはぎゅっと握る。
「えっ……?何……?」
「カナン、好きだよ」
「……、えっ!?」
カナンの顔が一瞬で赤くなる。
カナンと握った手を引き寄せて、ヒナミはカナンを抱き締める。
「……っ!」
ぷるぷるとカナンは小さく震えている。
構わずヒナミは強く抱き締める。
「震えて可愛い。俺のこと、好き過ぎるでしょ」
「ひ、ヒナミ……」
「何?ねぇ、カナンはぎゅーって抱き締め返してくれないの?」
「っ……」
カナンはおそるおそるヒナミの背中に手を回す。
そして遠慮がちにヒナミの服をきゅっと握る。
「もう、いつものカナンはどこに行ったの?カナンなら喜んでぎゅーってしてくれると思ったんだけど」
「む、無理……」
以前までのヒナミとカナンで逆転してしまった立場に、ヒナミはおかしくなってしまう。
扉からノックが3回聞こえたと思えば、返事をする前に扉が開く。
「失礼します。ヒナミ様、カナン様。お食事の準備が……」
ヒナミとカナン、呼びに来た使用人との間に沈黙が流れる。
そして――。
「しっ、失礼致しました!どうぞごゆっくりなさってくださいませ!!」
そう言って使用人は、バァンッと慌てて扉を閉めて走り去ってしまった。
「も、申し訳ない……」
「カナンもそう思うんだ。うん、今のは悪かったね」
顔を両手で覆い隠すカナンの手を掴む。
カナンが上目遣いでヒナミを見る。
「……カナン、ついでで悪いんだけど、結婚式の予行演習してもいい?」
「えっ?予行演習……?」
カナンが言い終わるより先に、ヒナミはカナンと唇を合わせた。
「……っ」
カナンを見ると、可愛く耳まで真っ赤になっていた。
「……カナン。ずっと好きだよ。結婚式、いつにする?」
「……っ、あの、っ、半年後まで……、待ってくれる?」
ヒナミはカナンの目がぱちぱちと彷徨っているのを見ると、ぎゅーっとカナンを抱き締めた。
「いいよ。今度は俺が待つね」




