第65話うさぎはキラキラに慄いた
他の店員に肩を貸されながら、先程の女性店員はスタッフルームへと運ばれていった。
店員A「しっかりしろミリア!」
店員B「また正式名称全部言ったのか!?」
店員C「だから復唱は三行以内にしろって……!」
うさぎ「業務マニュアルどうなってんだこの国」
入れ替わるように今度は爽やかな笑顔の男性店員がやってくる。
男性店員「ではご注文を復唱させていただきます――」
うさぎ、マシロ、マオ「やめろ!!」
食堂中に声が響いた。
男性店員「えっ」
うさぎ「復唱禁止!」
マシロ「死ぬわよ!」
マオ「店員の肺が!」
周囲の客達も頷いている。
客A「賢明な判断だ……」
客B「先月は二人倒れたからな……」
うさぎ「なんだその犠牲者システム」
男性店員は困惑しながらもメモを閉じた。
男性店員「で、では省略版で……」
うさぎ「最初からそうしろ」
ようやく注文が終わり、三人は一息ついた。
食堂の窓からは夕焼けが差し込み、外では花びらが舞っている。
マシロは先に来た琥珀色の飲み物を豪快に飲み干した。
マシロ「ぷはぁぁ……やっぱこれよねぇ……」
うさぎ「完全にオッサンだな」
マシロ「失礼ね、社畜の味よ」
うさぎ「余計悪いわ、怒られろ」
マシロは笑いながらジョッキを置いた。
うさぎはふと気になっていた事を聞く。
うさぎ「なぁマシロ」
マシロ「ん?何ようさぎ」
うさぎ「マシロって金持ってんのか?」
マシロ「何言ってんのよ、社会人舐めんな」
ドヤ顔でポケットを探るマシロ。
ガサゴソ。
ガサゴソ。
マシロ「あ、あれ?」
沈黙。
マオ「あんた今、魂だけでこっち来てるの忘れたの?」
マシロ「あ……」
うさぎ「そういや肉体無いんだったなお前」
マシロ「財布ぅぅぅぅ……」
頭を抱えるマシロ。
マオは呆れたようにため息を吐いた。
マオ「まったく……ここは私が出しとくから後で返しなさいよ?」
うさぎ「いいよ」
マオ「え?」
うさぎ「二人分、俺が出すよ」
マシロ「へへへ……だんなぁ感謝しやすぜぇ……」
うさぎ「次は兵士に突き出す」
マシロ「酷くない!?」
マオ「……え? 私までいいの?」
うさぎ「なんだかんだマオには助けられてるしな」
うさぎ「これくらい普通だろ?」
マオ「……」
固まるマオ。
耳まで赤い。
マシロ「おやおやぁ?」
うさぎ「――なぁ、マオからも言ってくれ」
マオ「……へ?」
うさぎ「だからマシロに――」
マオ「ご、ごめん、聞いてなかったわ!」
マオ(今……私、何考えてた!?)
顔を押さえるマオ。
マシロとうさぎは不思議そうな顔をした。
うさぎ「……?」
マシロ「……?」
そこへ料理が運ばれてくる。
うさぎ「おっ!」
目の前に置かれたのは湯気立つカレーだった。
白米まで付いている。
うさぎ「うおぉ……!」
マシロ「なんでカレーなのよ……」
うさぎ「なんとなく」
マオ「……私もちょっと飲むわ」
マシロ「お、珍しい」
マオはどこか落ち着かない様子で店員を呼んだ。
その横で、うさぎは夢中でカレーを食べ始める。
うさぎ「うんまぁ……!」
スプーンが止まらない。
転生してから久しぶりの普通の白米だった。
うさぎ「やっぱカレーは米だな……!」
夢中で食べているせいで、口元に白米粒が付いている。
マオ「あ……」
うさぎ「?」
マオ「付いてるわよ」
自然な動きだった。
本当に、何気なく。
マオは指を伸ばし、うさぎの口元に付いた白米を取る。
そして。
ぱくっ。
食べた。
沈黙。
うさぎ「ん……わりぃな…………は?」
マシロ「……へ?」
マオ「……あれ?」
ふわぁ……。
周囲がキラキラした空気に包まれ始める。
花びらが舞う。
どこからともなく謎の光。
背景が少女漫画みたいになっていた。
マオ「い、今……私……」
マオ「お米……うさぎの口から……」
真っ赤。
耳まで真っ赤。
頭から湯気まで出始める。
マオ「うわああああああああああ!!」
食堂中に絶叫が響いた。
客達がざわつく。
客A「おお……イベント発生だ……」
客B「尊い……」
客C「これはメインヒロイン……!」
うさぎ「なんだこの空気ぃ!?」
うさぎは周囲のキラキラを見回す。
マシロ「また来たわね」
マシロは席から飛び上がった。
そしてブンブン手を振り回し始める。
マシロ「どっか行けぇぇぇ!」
キラキラ空間を物理的に払っていた。
花びらが散る。
マオ「な、何してんのよマシロ!」
マシロ「害虫駆除!」
うさぎ「害虫扱いなんだコレ」
マシロは真顔になった。
さっきまでのニヤニヤが消えている。
マシロ「うさぎ」
うさぎ「ん?」
マシロ「コレがこの国の……女神の力よ」
うさぎ「……」
マシロ「感情を誘導して、空気を作る」
マシロ「恋愛イベントみたいな流れを、無理やり周囲に押し付けてくるの」
マオも少し顔を青くしていた。
うさぎ「俺は……平気みたいだけど」
マシロ「だから厄介なのよ」
マシロの目は、いつにも増して澱んでいた。
マシロ「気をつけなさいよ」
「この国、油断すると……頭の中まで“物語”にされるわよ」
―――続く




