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のじゃのじゃ転生譚 ~のじゃ語尾チート少女のあんまり冒険しない冒険者生活  作者: 七井
物件を見に行ったりカレースープを作ったりするのじゃのじゃ少女
141/247

倉庫には街の子ども等がおったのじゃ

こんにちはー。

今日もよろしゅうおねがいします。


 わらわ等は鑑札を受け取ると早速不動産内見の旅兼香辛料のお買い物に出発したのじゃ。なにやらわらわの鑑札が銅から銀になっておったりしたことなぞは一切気にせずスルーしておくのじゃ。

 で、なのじゃ。

「わー、すげー! あのとき神殿にいた偉い人」

「すいませんすいません、ごめんなさい」

「マ、マーティエ?様。どうかお目こぼしを」

「かみのけがきらきらしてるー」

「許してくださいっ」

 今、わらわ等の前には五人の子どもがおって、それぞれが騒がしく声を発しておるのじゃ。


 どうしてこうなったのか、なのじゃ。

 たどり着いた倉庫は確かに並びの二棟のうち一棟が焼け落ちもう一棟にも多少の被害があるのが外からでもよくわかる状況であったのじゃ。

「すいません。私も実地を見るのが初めてだったもので。焼け跡の始末もせずに夜逃げしたようですね」

「ゴミの始末が必要になるだけなのじゃ。なんというか、わらわが思うておったより一回り以上大きな土地であるのじゃ」

 その広い敷地には中程まで形を残して焼けた柱の残骸が立っておったり瓦礫なぞが建物のあった場所に放置されておったりと言う、焼け跡の惨状が残ったままなのじゃ。瓦礫は焼け焦げたものしか見あたらぬゆえおそらく被害の軽かった石材なぞは回収されておるのじゃ。まあエコと言うべきかの。

 ゴミの始末について聞いてみたところ、海や川に捨てていたのが最近問題になっておるのじゃそうなのじゃ。全くエコにあらざることなのじゃ。


 それは兎も角、焼け残った倉庫の方なのじゃが焼けた棟に面した壁面は煤でかなり黒くなっておるし、外から見上げてはわかりにくいのじゃが屋根が一部失われておるのじゃ。屋根は木製の板屋根ゆえそこから延焼しなかっただけ運が良いと評すべきであるのじゃ。

「さて、屋根にどの程度の穴があいておるのか中から見ねばならぬの」

 わらわがそう言うて入り口に向かおうとするとモリエに鋭い声で止められたのじゃ。

「待って! 誰か出入りしてる。多分今日、少なくとも二日以内。中にいるかも」

 待って、の後モリエは声を潜めてそう告げたのじゃ。

 表の扉はしっかりと閉じられて商業組合管理であることを示す木の板が打ち付けられておるのじゃ。


「黒くなっててわかりにくいかもだけど、風通しか光採り用に窓がある」

 わらわの疑問に答えてくれたのじゃ。煤で黒くなっておって壁面と区別が付きにくかったのもあるのじゃが、まず第一に倉庫に窓があると思っておらんかったのじゃ。

 わらわの中で三重の扉で閉じられた頑丈な土蔵のイメージがあったのじゃが、それが考え違いの元なのじゃ。家の敷地内の貴重品置き場ではのうて商品の一時保管場所ゆえ耐火も防犯も大したことはあらぬのじゃ。

 防犯が本当に必要であらば人を配すのじゃろうの。


「あの窓の下の壁、煤が削れて石壁が見えてる。窓を乗り越えて入った人の靴先が当たった痕跡だよ。あとそこに瓦礫があるのも出入りが楽なように運んで置いた足場だと思う」

 流石は狩人なのじゃ。いや狩人が追う獲物の痕跡とは大きく違う気もするのじゃがその応用が利いておるのじゃ。

 窓は頑丈な木の板を内側から閂をかけて閉じるものなのじゃが、火事で壊れて外れておったか中のものを慌てて持ち出した際に閉め忘れたかなのじゃろうとこれはミルケさんの推理なのじゃ。


「どうする?」

 そう訊きながら既にモリエは鉈を革の鞘に入れたまま引き抜いて手に持っておるのじゃ。鉈は外套で見えぬ腰の後ろに布に包んで下げておったのじゃ。冒険者らしい心得と言うべきかの。

「まだわらわのものではあらぬ、商業組合の管理物件なのじゃ」

「事後処理になりますが組合から冒険者協会に出した現状調査の依頼にいたしましょう」

 ミルケさんに水を向けるとわらわの考えの一歩先の結論が出てきたのじゃ。おそらく二人の中では既に踏み込んでみることになっておったようなのじゃ。


「二人が入り口から錠を開けて入ると慌てて窓に来るはずだから窓から私が入って挟む」

「入ったら<光明>で明るくするつもりなのじゃが、暗い方がよいかの」

「急に明るくすれば動きが止まるからその方がいい」

 簡単に打ち合わせをおこのうて即行動なのじゃ。こういう突入はダイナミックエントリーと言うのであったかの。少し違う気もするのじゃが、まあどうでも良いのじゃ。

 ミルケさんが鍵を取り出しがちゃがちゃと錠を開くのじゃが、この時点で既に「やばい、人が来た!」「どうしよう」「逃げなきゃ」「でも見捨てては行けないよ」みたいな声が聞こえて来おってそれまで盛り上がっておったやる気も減じたのじゃ。

 どうでも良いのじゃが錠前の構造は前世でも昔使われておったような簡単な構造で鍵が丸い金属の棒から凸凹のある板が生えておるような奴なのじゃ。電子化されておらぬ平たい金属の鍵はあつこうたことがあるのじゃが、この倉庫の鍵のようなクラシカルなものは民俗資料館みたいなところでしか見たことがあらぬのじゃ。


 まさにどうでも良いことを考えながらであったのじゃが、入り口を強行突破で逃げようとされる可能性も加味して<光明>はしっかり使うのじゃ。先ず一瞬光量限界の閃光を放ったのち倉庫内を充分照らせる光量まで落とす、覚えた頃には難しかったような操作も今は簡単に行えるのじゃ。

 閃光の後窓という名の木の板を蹴破ってエントリーしたモリエに退路も塞がれ、不法占拠者等は速やかに確保されたのじゃ。問題点はミルケさんも閃光で眩んでしまっておったことくらいなのじゃ。

 でまあ、冒頭のやり取りに返るというわけなのじゃ。


 光で怯んだところをあっけなく捕まった不法占拠者たちは街の子ども等じゃったのじゃ。そのうち身体の大きな子ども二人は港湾協会の仕事に混じって賄いを食べておったらしく神殿にもついて来ておったようなのじゃ。

 ゆえにわらわが神殿におったことを覚えておったのじゃな。

「其方等五名で全てなのかえ? それとも牡蠣取りの仕事に行っておるものがおるのかや」

「あと一人、ルッテ……、妹が」

 今日は港湾協会の仕事に混じっておらぬのじゃな、と言う疑問もあって人数を質すと年嵩の方、とは言ってもわらわと同じくらいなのじゃ、の男の子がそう言うといきなりわらわの前にひざまずいたのじゃ。

「頼める立場じゃないし、お金もないけど、頼みます。どうか妹を、妹を助けてやってください。お金はないけど俺が何でもします! 俺はどうなっても構わないから妹を」


「こいつの妹のルッテが熱を出して、どうしていいのか俺たちはわかんなくて!」

 説明をしておるつもりで何も追加情報があらぬことを言っておる男の子は馬系の耳がついておる獣人さんなのじゃ。妹らしき馬耳少女がその後ろに隠れるようにしておるのじゃ。

「どこにおるのじゃ」

「こ、こっちです」

 倉庫の中は空なのじゃが、頑丈そうな木の柱が多く立っておるため見通しがよいわけではないのじゃ。とは言え見回せば廃材の焼けた板などを立てておる場所が見つかるゆえそこであろうとは判るのじゃ。

 そして無論案内される先はそこであったのじゃ。

 モリエは当然と言う表情、ミルケさんは少しあきれた表情でついて来るのじゃ。モリエは助けるのを当然と考えておるのであろうが同時に身体の大きめの子ども等とわらわの間に入っておるのじゃ。これも護衛なぞもこなす冒険者の当然なのじゃろうの。


 倉庫の床は土のままなのじゃ。倉庫の中まで荷馬車を乗り入れるゆえ土のままか石葺で当然なのじゃが、そこに住み着こうとすればそれはネックなのじゃ。

 焼け跡から拾ってきたと思しき焦げのある木の板を床に敷き、同様の板を入り口側からの目隠しとして立てたちょっとしたスペースなのじゃ。

 屋根に穴が開いておるのが倉庫の入り口から見て右奥なのじゃが、そこから明かりは採れるが外気は避けたい、しかし入り口の傍は怖い、そんな判断があったのであろう左手の真ん中あたりにそのスペースはあったのじゃ。

 そのスペースの中でボロ布にくるまって荒い息を上げておるのは想像よりかなり小さな女の子だったのじゃ。幼稚園児サイズであろうかの。いやさ栄養が足りておらぬだけでもう少し上の年齢やも知れぬの、己を鑑みてそう気づいたのじゃ。


 近づくとこほこほと咳もしておるのじゃ。ボロ布が周りに散乱しておるのじゃが、暖をとる布団としては全く足りぬのじゃ。

 孤児院での記憶にあるのじゃが、おそらく皆で身を寄せ合い互いの体温で暖をとっておったのであろう。年嵩の者等が港湾協会の仕事に行かずに残っておったのは暖房器具としてなのじゃ。

 優しい話なのじゃが、栄養状態が悪い子ども等がこれをやると全員が病気に罹かる危険行為なのじゃ。

「た、助かりますか?」

「おそらくは風邪なのじゃが体力が大分削れておって良くはないのじゃ」

 肺炎にはまだ至っておらぬと思うのじゃが、所詮わらわも素人なのじゃ。

「モリエ、その子ども等を<洗浄>するのじゃ。一緒に寝て暖をとっておったのであらば伝染っておる可能性も高いのじゃ」


 わらわはモリエにそう言うと、わらわの方の仕事を始めたのじゃ。

「<強壮>」

 先ずは一時凌ぎなのじゃが体力を祈祷で底上げなのじゃ。

「<防寒>」

 本来そう長続きせぬのじゃが魔法陣の調整でなるべく持続時間を強化するのじゃ。これは<強壮>も同様じゃの。

 そして本命なのじゃが、風邪に効くかどうかを知らぬのじゃ。魔漿石を握らせるのを忘れずに、なのじゃ。心配そうに見る子ども等に一応言っておくのじゃ。

「癒せるかどうかは癒しと慰めの神の御心次第なのじゃ。ゆえに其方等も祈るが良いのじゃ」


 御心次第、というのは祈祷が効く対象であるのかどうか、そして魔力の要求量がこの子が耐えれる範囲に収まるのかどうか、と言うことなのじゃ。わらわは女の子に向き直り、息を整え精神を集中するのじゃ。そして修得するために発動はしておるのじゃが、実用に使うのは初めてゆえ丁寧に祭文を祈祷していくのじゃ。

「癒しと慰めを司る 命あるものの庇護者

大いなる癒し手よ 慈悲深き御身に願い奉る

ここに臥せるものに慰めを

ここに祈るものに癒しを

病を祓い平穏を運ぶその御手をここへ

<平癒>」


お読みいただきありがとうございました。

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