お悩み相談室(5)
「坊主と嬢ちゃん! とにかくカウンターに座れよ!」
「ああ。はぁ、坊主はやめろよ。そんな歳じゃねぇよ」
「はん? あははは、わいからすればお前はまだガキじゃい!」
「別にいいけどな……そうだ。こいつ未成年だけど、酒は飲ませないから、座らせていいか?」
「おお、それならかまわん。よし、座って待っとれ! ちょっと一服してくるわ」
タバコをすう仕草をしながら店の奥の引っ込んでいく不良初老。たくっ、客を店に放置するなよ……俺のこと信用しすぎだろ……年月経ってるんだから。
まあ、営業前に来た俺らが悪いんだけど、もう俺もおっさんだって言うのに……キャッチマンも変わらねぇな。
変に面倒見がいいというか……。
「店長、店長、早く座りましょうよ」
由衣はワクワクした表情で椅子を指さす。こういうところに初めてくるからテンションが上がってるのか……懐かしいな。
俺も若い時に上司に連れてこられた時ははしゃいでたな……そのあと、1人でウイスキーを1本開けてアル中1歩手前までいったのもいい思い出だ。
俺はカウンターの端の席に腰かける。由衣はそんな俺の後をついてきて横の席に座った。
「ふふっ、店長って信用されているんですね。私のこともすんなり受け入れてくれましたし」
「信用っていうか……なんていうか」
「私、店長とマスターの話を聞いてみたいです」
「変なことに興味があるんだな……やめとこうぜ。そんな面白い話でもないしな」
「ええー、いいじゃないですか」
「いじけんなって……」
「いじけてません……もう……」
話をすとなると、こいつが怒りそうなネタもいくつかあるしな……。ソープに乱入した件とか……美奈を泊めた経緯とか……。
大人とは都合の悪い部分は語らない生き物だ。
「なんだ小僧? お前彼女の尻に敷かれてるのか!? あっははは」
その時、酒瓶を数本持ったキャッチマンが現れた。
「敷かれてねぇよ……」
「わ、私たち付き合ってませんから! そ、その……」
そ、そんなに必死に否定しなくても……おっさんちょっとショック。
「そうなのか? それならアヤメも安心するってもんだ!!」
「なんでアヤメ……? そりゃ、アヤメは俺の最高に可愛い妹の1人だが……帰りあいつになんか買っていってやるか」
「あ、食いもんなら、間に合ってると思うぞ? わいが死ぬほど送り付けてやったからな!! 10人の力士が食っても足りないぐらいのな!」
もはや嫌がらせじゃねぇか……?
「はぁぁ、あんた昔からアヤメに甘いよな? ロリコンか?」
「てめぇだけにはいわれたくねえ!!」
「えっ? 店長ロリコンなんですか!? わ、私とかどうですか!?」
いわれのないロリコンという業を押し付けられ、部下には何故か急にくいつかれた、
「若い女はロリに憧れるのか……でも、お前はロリじゃねぇだろ……真のロリに失礼だわ。女には20歳を過ぎてもロリをステータスとして戦う風俗嬢がいるんだぞ? お前の容姿でロリを名乗ったらそいつらに失礼だわ」
「店長の言ってることは相変わらず意味がわかりませんが……」
ドン引きされた……。
お前が言い始めたことだろ……。
「小僧、お前は相変わらずだな……よし、積もる話もあるからな! さて、何を飲む? 最初の一杯はわいが奢ってやる」
「おっ気前がいい。ありがとうな。そうだな……」
「あっ、ありがとうございます。注文ですね……私は……」
由衣はカウンターに置かれていたメニューのノンアルコール欄に目を通す。そこには名前と材料、味の説明などが書かれているようだ。
キャッチマン……仕事が細かいな……。
まあ、俺はそんなキャチマンの努力を見ずに、普通に飲ませてもらおう。
「キャッチマン、バーボンのオールドクロウってあるか?」
「なんだ? 安酒だな。奢ってやるんだからもっといいやつ飲んでもいいだぞ?」
オールドクロウはケンタッキー州で生産されている低価格帯のストレートバーボン・ウイスキーだ。
俺はバーに行くといつもこいつを頼む。
飲み馴れてるし、何より……安いからな……バーって一杯1000円オーバーの酒って山ほどあるからな。クロウは7、800円だし。
「いいんだ。気に入ってるからな。ロックで頼む」
「わかったよ。それならつまみを豪華にしてやる! 嬢ちゃん! 決まったら声をかけてくれ!」
「あ、は、はい……」
キャッチマンは俺たちから少し離れた位置で、アイスボックスから大きめの氷を取り出し、手慣れた手つきでカリカリとアイスピックで削り始める。
俺が頼んだロック用のアイスを整形してくれているようだ。
……この人本当にマスターになったんだな……。元医者、風俗のキャッチ、すげぇー人生だよな……。まあ、最近は俺も人のこと言えないけど……。
「…………」
その時、由衣が俺の顔をぼーっと見ていることに気が付いた。
「ん? どうかしたか?」
「えっ……い、いえ、店長メニューを見ないで頼んだので」
「ああ、俺が頼んだやつは置いてある店が多いからな。逆に高級店に置いてないことが多い……」
いい意味でも悪い意味でも安酒だな……俺的には置いてなかったら、マイナスポイントだ。庶民を舐めるな。
「ふふっ、へぇ……私、お酒飲めるようになったら、それ飲んでみようかな。オールドクロウですね」
由衣はスマホを操作してメモをする。
「おお、いいんじゃねぇか? 最初の酒としてはかなり相応しくないのが面白い。40度だしな……まっ、その時は俺が奢ってやるよ」
「えっ、本当ですか!? 不穏なことも言っていた気がしますが……店長を信用します。ふふっ楽しみです……」
「…………」
その時は飲ませ過ぎないように注意しよう。
「それで? お前は何頼むんだ?」
「そうですね……むぅ……これも、美味しそうな感じがする……でもこっちもお洒落な名前だし……」
再び真剣なメニューとにらめっこする由衣。
その表情が可愛らしくて、見ていると自然と笑みがこぼれた。




