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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第二章『集団戦への参加は、調査です。仕事です。本当です』
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十八の巻『魔法剣士チェリー』

   十八の巻『魔法剣士チェリー』



 日焼けした肌に短く逆だった髪、鉄製の鎧を着込んだ高校球児のような熱きオーラを感じさせるカーンズの登場は騒がしかった広場に静けさをもたらした。



「女性の参加が嬉しいのはわかるが、我々は本気で月光熊の討伐に挑む、遠足気分の者たちには辞退してもらいた」


 浮かれていた者たちは非難の視線を浴びせるが、真面目に冒険に取り組んでいるカーンズの存在は落ち込んでいた雷丸の気分を浮上させた。真面目に冒険を取り組んでくれる者たちは皆同士が雷丸の考えである。


 カーンズは装備からして職業は超戦士。あらゆる武器を装備できる変わりに魔法が一切使えない。耐久力が全職業の中で一番高いが冒険者ギルド『狼狐』ではもっとも不人気職業である。やはりリアルで体験できるとあって魔法が使える職業に人気が集中したからだと雷丸は推理していた。

 そんな中、超戦士を選択してトップレベルパーティーのリーダーをやっているのだ、見た目通り実直な性格なのだろう。


「俺たちは先日経験をした。月光熊の肌は岩のように固い、よって前衛職の参加条件は一撃で岩を傷つけられる者に限定させてもらう」


 集合地点をここに指定したのはテストに使うに丁度良い大岩があったからのようだ。カーンズの仲間と思われる魔法士が岩に防御魔法をかけて硬度を上げている。


「そして後衛職は回復や偵察に必須の穏行など討伐に役立つスキルを所有する者に限定する」

「それは横暴するぎだろ!」

「いや、間違ったことは言ってねェ」


 リーダーカーンズのもの言いに抗議する声と賛同する声に分かれた。抗議している者たちは緋桜と清のことをチラチラと見ている。この条件だと緋桜たちがパーティーから外されると考えているようだ。


「せっかくエルフや受付嬢が参加してくれんだぜ。条件なんか必要ないって」

「ふざけるな! こっちは本気で攻略目指してるんだ。遊びの奴や女は必要ねェ!!」


 反対派は前回の討伐で失敗したカーンズのグループが中心に、今度こそはと完全に遊びを斬る捨てた全快モードのようだ。討伐にかける熱意の差が緋桜たちの参加賛成派と反対派に分かれる原因になっている。


「普通は緋桜たちが強そうには見えないよな」


 そもそもの原因が弱そうに見える傭兵ルックの緋桜やエルフになった清が完全な色物、ネタキャラと思われている。初期装備の彼女たちを誰もが初心者だと勘違いするのはしかたがない、たしかに異世界は初心者で間違い、間違いないのだが。


「緋桜」

「了解しました」


 名前を呼ばれただけで主が何を求めているか理解した傭兵ルックの忍娘はスタスタと大岩まで歩いていき、初期装備のロングソードを抜くと。


「セイ」


 さして気合いも入れることなく魔法で固くなっていたはず岩を斬り裂いた。


「……――え?」


 傷つけるのではなく岩を一刀のもと両断した。大岩の上部がゆっくりと斬られた断面を滑り落ちていく。


「これでも実力、不安?」

「ナッ!?」


 誰にも悟られずカーンズの後ろに回りこんだ清が首にダガーを突き付けていや。


「い、いつの間に」


 首筋にひんやりとした刃が突き付けられるまでまったく気がつかなかったカーンズ。


「穏行、偵察、自信有り」


 いくら緋桜の行為に驚いていたからとはいえ、目立つエルフ娘の接近に全く気がつかなかったリーダーは素直に清の実力も認めた。


「悪かったエルフのお嬢さん、君たちの腕は申し分ない討伐クエスト参加を心から歓迎する」

「エルフのキヨナ、よろしく」

「キヨナさんか職業は斥候士だな」


 斥候士は全職業中で素早さが一番高い、他にも穏行や鍵開けなど専用にスキルを有している。


「向こうの岩を割った受付嬢は?」

「彼女はチェリー・クリムゾン。ギルドお抱えの傭兵で魔剣士だ」

「な、なんですかそれは!?」


 緋桜が自己紹介するよりも早く雷丸がとんでもない名前を口にした。


「ギルドお抱え、その腕なら納得できる。キヨナさん、チェリーさんよろしく」

「チェリーさん!?」


 緋桜の名前をもじって勝手にカタカナの恥ずかしい名前をつけた。それを疑いもなく信じる冒険者たち、彼らも異世界に合わせそれぞれ冒険者名を持っているのだから違和感がしないのであろう。


「ちなみに俺はサンダー・ザークル、よろしく頼むぜ」


 自分の名前も同様にもじって濁点をつける。


「君は何ができるんだ?」

「リトルウルフとリトルフォックスが召喚できる!」

「そうか、追跡に役立ちそうだな」


 きわめて標準的な召喚士スキルで、たいしたインパクトを与えることはできなかった。


「少しさみしいなチェリー」

「チェリーってなんですか」

「異世界での名前だよ、異世界っぽいだろ」

「だからって……」

「どんまい、魔法剣士チェリー」


 口元をひくつかせ笑いを堪えながら、清は棒読みの言葉で慰める。魔剣士と魔法剣士を言い間違えているのはワザとであろう。


「さらに恥ずかしくなった!」

「いいか月光熊に斬りかかる時は、ちゃんと職業と名前を名乗りあげてからするんだぞ」


 ギルドマスターとして忘れられたうっぷんを緋桜をいじることで散らす大人げない雷丸に便乗する清。緋桜は二人の期待通りに面白い反応を返して楽しまれていることに気がついていない。


「そ、そんな……」


 真っ青になった緋桜が肩を落とし落ち込む、ついてきたことを心底後悔しているようだ。

 さらに、岩を切り裂くとんでも技まで披露した影響でチェリー・クリムゾンの名前は参加冒険者の間でまたたく間に広まっていった。


「よし出発だ。前回俺たちが月光熊と遭遇した地点まで行き、そこから探索をはじめる」


 裏山異世界初の集団討伐が開始された。

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