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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第一章『異世界に召喚、いや、異世界を召喚した少年』
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九の巻『忍の本領発揮』

   九の巻『忍の本領発揮』



 戸隠峰コンチェルンの開発部が発売を開始した新型のエンジンを積んだ高級車ばかりを盗む窃盗団を捕まえる依頼を受けた冒険者ギルド『狼狐』。


 やることが決まれば即行動、雷丸が一つの指示を出せば緋桜の指揮の元に十の行動をする御傍衆たち。


 現場の情報取集もその一つ、最後に盗難にあった車の車庫前の痕跡が無いか調べた。

 高級住宅街の中、近くに店もなく用事もなく歩く人はまばらで、昼間でも人通りはほとんどない。


「目撃情報はありませんね」


 雷丸のもとに探索にちっていた御傍衆が戻ってくる。みな緋桜と同じくめぼしい情報は掴んでいなかった。


「資料を見た時から、ある程度は予想されていた事態です」


 だが緋桜は想定内だと情報がほとんどないのに慌てる様子を見せない。


「策はあるのか?」

「はい、これだけ頻繁に事件を繰り返して尻尾を見せない相手、おそらくは土地勘のある者のしわざ、事件の発生場所もこの街近辺に集中、約二十台以上の被害が出ているところから見てそれなりの規模の施設がこの街内にあると思われます」


 戸隠峰コンツェルンの調査ファイルにも盗まれた車が街の外に持ち出された形跡がないと書かれていたことから、緋桜の推理を裏付けている。


「次の車を盗もうとした時に現場を抑えると」

「その通りです」

「次に犯人が狙う車を特定できるのか」

「おまかせください、情報からの相手の行動を予測するのは忍の得意分野の一つです」


 失敗など起こさないと表情が語る。慢心ではなく培ってきた技術に裏打ちされた自信の微笑、受付嬢の時もこの笑みを見せていたのなら間違いなくナンバーワン受付嬢だろうと思う雷丸であった。


 緋桜の作業は早かったまさに水を得た魚のごとく、ギルド本部二階はまだ殆どが手の付けられていない状態であったので、そのうちの一つの空き部屋を対策本部にすると、これまでの被害情報をまとめ、街に走る盗難にあった同型車をリストアップ、車庫などの位置を調べターゲットになりやすい順にナンバリング。


「街に存在する四十九台のうち次の目標と思われる対象を五台まで絞り込みました。あとは御傍衆を五班に分け見張ろうと思います。私見ですが遅くとも三日以内には次の犯行がおこなわれるかと。持ち主の許可があれば忍だけが嗅ぎ分けられる匂い粉を振りかけておくのですが、今回は内密とのことなので、この方法を選択しました」

「すべてまかせるぜ」

「ありがとうございます」


 緋桜の後ろに控えていた十四名の忍が合図もなくその姿を消す。すでに班分けはされていたらしい、後は報告を待つのみ。

 ギルドの運営は清に全て任せてあるので、雷丸と緋桜は対策本部で待機となっていた。


 一日目は何事もなかった。


 二日目も穏やかな対策本部、雷丸は昼食をとり緋桜が入れてくれたお茶をすすっていると。


「どうやら動きがあったようです」


 窓から一羽の鳩が舞い込んできた。天井近くを一度旋回して緋桜に腕に降りる。

 足に括り付けられた筒にはメモのような手紙を携えていた。


「発生したのはハの地点、下手人は南下、現在追跡中」


 広げられた街の地図に情報を書き込む。


「現場に近い、イの地点の者は援護に向かわせ、残りはこちらに呼び戻します」


 指揮を任せられた御傍衆筆頭は行動を報告するのみで動きが止まることがない、壁に掛けられていた紐付きの竹筒をとり窓ら空に向けて引く。

 一般人の雷丸からは微かに青い煙が出たように見えたが、仲間の忍にはしっかりと青色の狼煙が登ったのが確認できるそうだ。


「犯人は車で逃走してるんだろ、どうやって追いかけてるんだ」


 雷丸は今まで忍が車を使った所を見たことがない、それどころか貧乏なのでギルド『狼弧』は一台も所有していない。


「タクシーでもつかまえるか、経費で落ちるかな」


 依頼は亜雪からのもの、うまく話せば必要経費は出してくれるかもしれない。


「いえ、走って追いかけています。直線で全速力を出されれば追いつけませんが、街中を走っている限り、車といえど振り切られるほど柔な鍛え方はしていません」


 緋桜の宣言を証明するように、車を使わずとも数キロ離れた監視場所から屋根伝いを走り、わずか数分でぞくぞくと本部へ帰ってくる御傍衆たち。


「お、おお~」


 携帯電話普及率が百パーセントを越えたと言われている現代日本で電子機器を一切使わず見事な連携を雷丸に見せつけた。


「機械を使わないのは異世界ファンタジーっぽくなくていいな、ちょっと和風だけど」


 ちょっとではなく純度100%の和であるのだが、緋桜は長を立てて聞き流した。今は忍としての役目を全力でまっとうしている。


「追加の情報を待ち、下手人に隠れ家に襲撃を掛けます」

「俺がついて行くことはできるか」


 雷丸も足でまといになるのはわかっている。しかし自分が受けた依頼である以上、ただここで待っているだけは嫌だった。


「危険が予想されますが」

「できるなら頼む」

「わかりました。長も出陣なさる用意を急げ」


 雷丸の男気を感じ取った緋桜は、長の想いに答えるため早急に準備に取掛かった。

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