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新緑との出会い その名を己と云ふ


 梨緒さん、ブチギレ。






『僕の名前は『つちのと』。夢渡りを得意としているから夢魔、なんて呼ばれたりもしているけどね』



はい、次はおねーさんの番だよ、なんて言って近寄ってくる少年に対し思わず後ずさると、僅かに顔を顰められた。


座り込んだままの姿勢でいたためかあまり距離を置くことはできなかったけれど、少しでも近寄って欲しくなかった。


この世界に来てから初めて他人の悪意というものに嫌というほど晒された梨緒にとって、目の前に佇んでいる少年は正に警戒しなければならない人物だった。



『……別に、そんなに慌てなくても。食べたりしないから』



若干の呆れを含んだ言葉を梨緒に向かって投げかけた自らを己、と名乗った少年は彼女の怯えようを見て軽く肩を竦めたあと半歩後ろへと下がった。


少年が少し後ろに下がったのを見てそっと息を吐く。


緊張していた身体が少し弛緩したような、そんな気がして思っていたことを少年に問い掛けてみる。



『(何故名前も知らない私をこんな所へ連れてきたの。一体、何が目的なの……?)』



確かに思っただけで声には出ていないのに少年には言っていることが分かるらしく、眉を顰められた。



『――その質問を答えるのは今じゃないよ。おねーさんは僕の問い掛けにまず答えてくれないと』



少年の自分勝手な発言に驚きと侮蔑の表情を浮かべた梨緒は思わず服を握り締めた。



『もう一回聞くけど、おねーさんの名前は?』


『(梨緒よ。……私の名前は梨緒)』


『リオさんね……ふぅん――でもその名前は本物じゃない』



少年の苛立ちが伝わり渋々と答えた梨緒に、嘲笑を含んだ言葉が突き刺さる。


そして、その言葉は彼女を凍りつかせる。



『誰かが付けた偽りの名前なんて僕は興味ないよ。僕は本当のことが知りたいんだ……ねぇ名前、教えてよ』



今、目の前に居る少年は和やかな笑みを浮かべている筈なのに、視覚は天使のような姿を捉えているというのに。


どう考えてみても自分には悪魔にしか思えなかった。



『……そうやって被害者ぶって皆にちやほやされてるんだぁ……でも残念、僕にはおねーさんを可愛がってあげることなんて出来ないよ。だって、自分じゃ何も出来ないって悲観ぶって人の善意を利用してさ。甘えるだけで自分では何にもしようとしない馬鹿な女。僕そういう女がこの世の中で一番大嫌いなんだ――いい加減その善意が哀れみからくるものだって自覚したら?』


『(……)』



(確かに他の人から見れば私は乙達に甘えているかもしれない)


(いや、実際に甘えているのは分かっているし、彼らがどう思って私に好意を寄せていてくれるのかもはっきりとは言えない)


(だけれども、必死に記憶を探しているのに、それが見つからないことがどんなに辛くて悔しいことかこの少年は分かっていない……)


(私がどんな気持ちでこの世界にいるのか少しも分かっていない!)



『――何? 言い訳も出来ない訳? それとも図星だったりして……あーあ、残念だなぁ、僕おねーさんともう少し遊びたかったのに』



――パシッ



ここでサヨナラだね、なんて嬉しさを隠すことなく言い、梨緒の方へと手を伸ばしてきた少年の手を払いのけ、その頬を叩いた。



『~っ痛ったぁ……ちょっと、何すん……』


『――なんにも知らないくせに分かったような口聞かないでよ!! 』





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