14.怯える富豪と見える嘘⑩関わり
ドミニク・クローヴィス→富豪の老人。
ロワク・モラン→コンサル。
ヘレナ→屋敷のメイド。老人の交際相手。
ライアン→ヘレナの息子。
ギョーム→屋敷の医者。
ギルベルト・エブァンス→ブリジットの兄。シスコン。
ルカ→ギルベルトの従者。
メリィ→ブリジットの専属メイド。
リオネル・モンフォール→リオ。 セルジュの後輩。真面目。
朝、ブリジットは今日の予定を確認しに行ったら、思いもかけないことを言われた。
「今日は一人にさせてごめんな。団長が団員の訓練を監修してほしいといわれて」
ギルベルトがブリジットに謝る。ブリジットは誇らしいような残念な気持ちになった。
お兄様、さすがだわ。どこに行ってもひっぱりだこ!でもでもここまできてお兄様を盗られるなんて!!団長ひどいわ!お兄様がいくら素敵だからといって!
「今日はメリィも訓練に参加させるっす。女性の騎士も何名かいるので。メリィは強いっすから」
ルカがブリジットに手を合わせて謝る。ブリジットは力無い微笑みで了承する。
メリィも行ってしまうのね。仕方ないわ、メリィも素晴らしい人材だものね。
「一人で外出は危ないからもし外出る場合は必ず供をつけるんだぞ」
「のどかだから大丈夫ですよ」
ギルベルトの忠告にブリジットは軽く流す。
「やはりメリィは訓練からはずすか。ブリジットを守らないと」
心配症のギルベルトが悩み始める。ブリジットが慌ててギルベルトに近づき、ギルベルトの提案にぶんぶんと頭を振る。
「今日は大人しく部屋にいますわ。この家にある本を読んでます」
ブリジットの発言にギルベルトがほっとしたような顔をした。
*
ブリジットが応接間で昨日手に入れた手がかりをテーブルに並べた。偽新聞と懐中時計。そしてクローバーのしおり。クローバーのしおりは拾ったクローバーを昨日の夜メリィと一緒に加工してしおりにした。てがかりとにらめっこをしていたら扉のノックの音が響いた。
コンコン。
「はーい、どうぞ」
扉を開けてリオが入ってきた。
「失礼します。ブリジット様、捜査が少し進展したと伝言がありました。ああ、これが例の懐中時計ですね」
リオがブリジットの手元にある懐中時計に目を向ける。 ブリジットは昨日の夜話した内容を伝えると、リオが腕を組み始めた。
「ふむ。確かに日付も入っていない」
リオは指先で紙面をなぞり、スペルを指差す。
「少し文字も違う、このスペルのeが他2枚は少し潰れているのに対し偽新聞の方はeが潰れていない。やはり偽新聞の可能性が高いですね。
偽新聞に書かれていたナバリが、本当に存在した人物なのか調べましょう」
「新聞社に行けば分かるかしら?」
リオが黒の手帳にかいつまんだ内容を書いていく。急いで書いてるのにきれいな字で癖字もなく読みやすい字だった。
リオは手帳を閉じたが、その場からなかなか動こうとしない。
「あの…ブリジット様」
「なにかしら?」
「今日は予定なければ一緒に街に捜査しにいきませんか?」
「え?」
「ブリジット様がついてくれたらこの事件解ける気がするんです」
リオが期待のこもった眼差しでブリジットを見つめた。
「…そうね。リオが一緒なら一人ではないし行きましょう」
「はい!」
リオは嬉しそうに微笑むと、ブリジットに手を差した。ブリジットはその手を取り、リオのエスコートで、二人は応接間を出た。
*
街の新聞社で手分けして探すことになった。
「それでは片っ端から読んでいきましょう」
「ええ。がんばりましょう」
ブリジットは最近の記事からめくった。脱獄の記事は見当たらない。
やはりあの新聞は嘘を書いている。なぜ?
無言で一心不乱に新聞をめくっていたら手が汚れてきた。リオが自分の手も汚れているくせに、ブリジットの手の汚れをしきりに気にして謝り出す。
「ブリジット様、申し訳ない。このような地味な仕事をしてもらいお手を汚してしまいました」
ブリジットが首を振る。
「たくさんの新聞記事を読んで思ったんだけど、あれは偽新聞確定ね。普通脱獄など市民に危険がある場合、あんな軽い文面ではないわ。例えば、市民各位においては戸締りの厳重の注意を要すとかよ」
「なるほど。たしかに」
リオがブリジットの指摘に感心してほうっと息を吐いた。
「だから、あの新聞にはなにかあるわ。絶対にあばいてやる」
ブリジットは決意を秘めた目で新聞に目を通す。その姿に、リオも影響を受け気合いが入る。新聞を読むスピードが少し早くなった。
二人で探していたとき、ブリジットはついに記事を見つけた。
「あった!あったわ!ナバリは実在していたわ。しかも強盗殺人をおこしている。この記事を見て」
ブリジットはリオに記事を目の前にかかげた。
《ナバリは貴族のグレニー一家を襲い、主人含め家人を何人か殺害した。逃走中に捕まり裁判で終身刑となった。》
リオは食い入るように何度も記事を目で追った。
「この事件は十五年前ですね。ここまでの情報があれば捜査記録で調べられます!」
*
リオの権限で捜査記録を確認したところ事件の詳しい内容がわかった。
「被害者はグレニー家の数人、犯行場所は屋敷、金庫が開けられ金目のものは全て取られたそうです。逃走する際、家人と会い強盗殺人になったそうです」
「今のところドミニクと接点はないわね」
「共犯者はグレニー家の使用人、この使用人がナバリを招き入れ見張りの役割もしていた。そしてリーダーのナバリ、逃走の馬車の御者の三人です。凶器はナイフです」
「そう。動機はお金かしら?」
「はい。前々から金庫にお金を貯めていると噂があり狙われたみたいです。致命傷のナイフは躊躇いがなく傷も少なかったと証言があります。殺人をしたのはリーダーのナバリだけです」
「三人全員逮捕されてるわね。金庫は開けられていたのよね?主人を脅してあけさせたの?」
「いえ、逃亡する際にばったりと会い見つかったと証言があります。裁判結果は全員終身刑です」
「偽新聞の強盗殺人の話は間違いなかったということね」
ブリジットは視線を落とししばらく考え込んだ。
「……おかしいわ」
「何がです?」
ブリジットは気になる点を挙げた。
「凶器はナイフ。たぶんとっさに手に持っていたものだと思うの。共犯者は三人。見張り、リーダー、逃走用の馬車を操る者」
そこでブリジットは顔を上げた。
「金庫を破るなら、それなりの道具が必要になるはず。なのに手元にあるのはナイフ。彼らにはバールなど必要なかった」
「金庫をあけるのに家人を脅して開けたわけではない。それは」
「鍵を開けれる者がいたのよ。一味に鍵師がいた」
ブリジットの表情が強張る。
「ドミニクの寝室にはたくさんの金庫がある。もしあの金庫が鍵師の腕を鈍らせないためにあるとしたら…」
リオが目を見開いた。
「……まさか」
「そう。ドミニクは強盗殺人の一味、鍵師だった。これが彼の秘密なんじゃないかしら」




