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虚の機繰  作者: 浮海海月
新人戦編
6/12

6.屍達の舞踏会序幕−弐−

 ―ひばり視点


 人。落下。割れた地面。剥き出しの敵意。

 目に映る全ての情報がそれを敵だと認識する。


 先に動いたのはひばりの方だった。巨漢の腹に突き刺す蹴りを撃ち込む。

「予想通り」

 怪しく笑い巨漢がそう呟く。よく見ると彼女の脚は腹には到達せず、掌でせき止められている。

「いいな、お前」

 ブンッ

 掴んだ脚を放さず砲丸投げの要領で投げ飛ばす、但しスピードは砲丸投げのそれをゆうに超える。いくつかの壁を貫いてようやく勢いを殺すことに成功する。

(魔力で守ってなかったらミンチにされてたな)

「やはりこの俺が見込んだだけはある。今のを喰らってまともに立っているとは…」

 たった今自分が通った穴から先程の巨漢が顔を出す。パンパンと鼻につく拍手を彼女に送りながら―

「勝手に見込んで勝手にガッカリされるよりはマシってことにしとこっか?ゴリラくん」

「俺は人間でやってるんだがな、北条童子ほうじょうどうじって名前もある」

「人はね空からいきなり降って来て挨拶もなしに人をぶん投げるのを人間とは呼ばないのだよ、ゴリラくん」

「それじゃあ挨拶もなしに俺に蹴りを入れたお前はじゃじゃ馬だな」

「失礼な奴」

 辺りに衝撃波が走る。二人の拳と拳がぶつかり合い瓦礫がひしゃげ、吹き飛んでいく。

 実力は拮抗。膠着はなし。互いの肉と肉が激しく衝突し、離れ、また衝突して…を繰り返す。

 止まらない。両者一歩たりとも動きを止めない。下がらない。


「漢なら」


「女なら」


「「攻めあるのみ!」」


(拳じゃ押し負けるなら…)

 バキィッ

 脚と腕が衝突する。真正面からの衝突ではなく真横からの一撃。童子の腕が少し、ほんの少しだけ軌道から外された。

 その隙を彼女は見逃さない。即、距離を詰め、彼の腹に手を添える。


 激しい突風。竜巻の如く吹き荒れる風に吹き飛ばされ、瓦礫が宙を舞い、大気は切り裂かる。そしてそれは彼もまた同じ。

(これは…能力と考えるのが妥当だな)

「『突風を操る能力』とでも言うのか?」

「残念、大はずれ♪」

 舌をベーッと出してハズレだと告げる。自信満々に言っていた割にはそんなに悔しそうでもないのが癪にさわるが。

「教えてあげようか、私の能力」

 手に空き缶を一つのせて語り出す。相手の答えに耳も貸さずに勝手に。

「私の能力はね、()()。ただそれだけだよ。弱いでしょ」

 空き缶がひとりでにグシャっと捻れて潰れた。嘘はない。

「だから超鍛えたんだよ〜この身一つで全員倒せるくらいにさ。実際強くなったけど」

 ジリジリと二人の隙間が埋まる。身振りまで使って大袈裟に語る彼女もいつでも攻めの姿勢に戻れるように。

「でもそれじゃあ限界があるの。だから発想を変えることにしたんだ」

 掌を童子に向ける。ソレは脅し制圧する銃口に等しい。いつでも彼を貫けるのだから。


「私の能力は『捻転』。手のひらで触れた全てを捻り、回転させる」


 彼女の手に大気がまとまり、潰され、圧縮されていく


「私は今、()()()()()()()()


 再び風が吹き荒れる。瓦礫を空を彼を、全てを切り裂き、吹き飛ばす。


「なんって使い方をしやがる…」

 このくらいではへこたれる様子もなく再び彼女に向かって歩みを進める。進む。走る。走る。止まる。

 宙から2〜3メートルはありそうなブロック片が()()()()()()()。そんな様子を見れば誰でも歩みを止めるだろうが、彼の場合止まる理由は避けるためなんてものではない。

 ブロック片に向かって突き上げる蹴りが一閃。崩れ落ちたそれの後方で、飛翔し、再度投げ飛ばそうとする彼女を確認する。

(回転させた空気を押し出すことで空をも飛ぶのか!)

「やはりお前はおもしろい!」

 大きく大地を蹴り飛翔する。目指すは一点。明け方の星を目指してただひたすらに―

「普通飛んでくる?!こんなとこまで!」

「俺はいくらフラれても追いついてみせる漢だぜ」

 ニタリと酒呑童子が如き漢は笑った。


―――――――――――――――――――――――――


 特殊エリア

 ―力也視点


「随分とまあ暴れてる奴らがいるもんだなあ。分けて欲しいくらいだ」

 都市エリアから聴こえて来る轟音に耳を傾けながらそう嘆く。

 昨年、圧倒的実力により大会を制した彼はありとあらゆる参加者から恐れられ、避けられていた。自業自得である。手加減もせず一週間の大会期間が三日を残して終わるような結果にしたのは紛れもない彼自身なのだから。避けられるのも当然というものだ。

(魔力は感じるから近くにはいるんだろうけどな)

 いっこうに距離を詰めてくる様子はない。むしろ魔力が混じった石かとも思えてしまう。

(全員倒しに行ってもいいんだけど純粋に数がなぁ…多いんだよなぁ)

 変に攻め入ってもなんとかできる自信はある。確信ですらある。それでも動きを見せないのは―

(文句言われるの面倒なんだよなあ)

 純然たる最強だけに許された悩みだった。


―――――――――――――――――――――――――


 ー紅葉視点

「休憩所ォ?何それ?そんなんあるの」

 休憩所。休憩するための建物、または、そのために簡単な設備を整えた場所。あるの。どこに。徒歩何分。

 と、聞き出したくなる気持ちをグッと抑えて

「そんなとこあるならわざわざ隠れ場所探す必要も無かったんじゃ?行かないん?」

「使える時間が限られてるからな。戦闘が激化したときにしっかりと休める場所を確保しときたい。」

 やはり透馬は冷静である。序盤、それもまだ猛者らしい猛者とも戦っていない上に、怪我も少ない。疲労だけなら少し休めば回復するのだから今は我慢して中盤・後半戦に備えておく判断をしたのだ。

「やっぱ頼りになるな!」

 夏のような笑顔を浮かべて彼に賞賛を贈る。決してお世辞なんかではない心からの言葉を。

「ありがとな」

 照れくさそうにしている。珍しい。

 そんな気恥ずかしさを誤魔化すために、

「ルール説明にこれが無かったのは後で運営に文句言っとこうぜ」

 二人の間で堅い誓いが結ばれた。


「外じゃまだすごい戦闘してんのかな」

 ここは都市エリア。いくら三つあるエリアの中で二番目に大きなエリアでも近くで竜巻が起きるような戦闘が起きれば流石に目立つ。

 二人はそんな戦闘を目の当たりにしてここに逃げ込むように隠れ場所を決めたのだから、外の様子が気になるのは当然だろう。最悪の場合、自分たちも巻き込まれる可能性すらあるのだから。

「やってるんじゃないか。音が全然止まないし、魔力が散って魔力探知がしづらくなってる」

 あまりに大きな戦火に、周囲は焼かれなくとも魅入られている。


 そして戦火は炎から大火へと―


―――――――――――――――――――――――――


 ーひばり視点


「フラれても迫ってくるのはね、『漢』じゃなくて『シツコイ』って言うの!」

 飛翔する翼のない鳥を蹴り落とさんと鋭い蹴りが放たれる。

 鳥はそれ如きで落ちるほど弱輩ではない。大鷲に抗い、未だ大空を駆ける。

「漢はしつこいくらいが丁度いいとラファエルちゃんも言っていた!」

「誰よソイツ!知らない子の話を意気揚々と語るんじゃないわよ!」


 ラファエルちゃん:四人組アイドルグループ『エンジェルズ・ラバーズ』の人気投票四位。あまりのポンコツさ加減に自他共に呆れてしまっているが「逆に推せる!」との固い支持を得ている。


「なんだ嫉妬か?心配しなくてもお前もしっかり相手してやる!」

「あら嬉しい。でも私は一番じゃなきゃいやよ。ついでに構われるくらいならみぞおちにグーパンお見舞いしてあげるわ!」

「おっそろしい女だ。これはグラスを渡す相手を間違えたな」

 激しい攻撃と口撃の応酬に他の割り込む隙はない。空中での戦闘、強者同士の闘い、暴風、どれをとっても近づきたくない理由ばかり。

 そんな台風の中心にある二人には最早「目の前の敵を倒す」ということだけに集中する獣に成り果てた。「いずれこの怪物は自分の脅威になる、その前に潰す」唯、それだけを考えて…

 突如、ひばりが身を翻し後退する。

 大鷲の翼を借り大空を飛び続けた鳥は、その翼を突如として失い急速に落ちていく。

 大鷲はそれを逃さない。出力を上げ、暴風を彼に向けて撃ちつける。

 空中、逃げ場はなく暴風を一身に受ける。落下速度が上昇する。地面との衝突の前に着地の準備を整える。

(着地寸前…狙うはココ!)

 童子に向かい、高速で突っ込む。高速の大鷲の脚を避ける術などない。それだけでは済まさない。狩りの際に獲物に向かって石を落とす鷹のように、遥か上空からブロック片が落とされる。

「ほんとにイかれた女だ、お前は」

「褒め言葉として受け取っておくわダーリン」

 ひばりの攻撃全てが獲物に命中した。


(嘘でしょ…)

 先程までの様子とは明らかに違う。

 黒く短く後ろに流されていた髪は白く長く変わり、猛々しいその身体はさらに一回りほど大きく膨らんでいる。八尺はあるだろうか、その身体は赫く荒々しさが感じられる。頭に角を生やし、爪は鋭く硬く変わっている。

 その風貌はまさに鬼。その中でも目立ったのは瓢箪だろうか。普通の鬼ならそんな物持っていることなど聞いたことはない。

「酒呑童子か…!!」

 酒呑童子。かつて侍たちが自らの栄華と誇りをかけて闘い、果てた国で悪虐を尽くした悪鬼。国一番の侍によってその首を斬られ終幕を迎えたという怪物。

 それが今、目の前に…

「なるほどね、それならその硬さも納得だわ」

「惚れ直したか?ハニー」

 鬼の手が明星の両の腕を貫いた。先刻とは比べようにもならない程の敏捷性に、膂力。元が怪童なら出来は怪物なんてものでは済まされない。そこらの魔物なら今の一撃で吹き飛んでいたことだろう。

(腕…ある。今のちゃんと守ってなかったらやばかったな…)

「伝説の怪物の能力。強い訳だ。犬に猿、雉に負けちゃうような鬼じゃなくて酒呑童子だもんね。弱い訳がない」

 相手の能力を冷静に考え直す。

(変身系の能力。でも、それだけとも考えにくい。()()()()能力は変身する以外にもそれが使う技やらなんやらまで使ったりするし、一番厄介なのは)

「強さは完全にイメージに委ねられる。異能の悪いとこだね」

 魔法はイメージの世界だ。イメージ出来ることはなんでも実現できるし、出来ないことは実現できない。

 それは能力もまた同じ。紅葉の能力も創る物はイメージに委ねられるし、透馬の能力も兎のイメージからなるものだ。そんな中で酒呑童子という崩れることのない圧倒的怪物のイメージ。

 実に厄介極まりない。

「これで負けたらいい訳できないね」

「心配ない。言い訳を並べるのは俺じゃないからな」

 両者そう言って笑う。余裕の笑みを浮かべて再度走り出す。

 瓦礫が飛ぶ。暴風に捕らわれた瓦礫が投げ飛ばされ、殴り返される。また飛んでいく。また帰っていく。また。また。

 ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!

 徐々にペースが上がる。両者のボルテージが上がる。距離が縮まる。

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 最早瓦礫は動かない。

 瓦礫の向こうの相手を目指して殴り、削っていく。そして遂に、

 ドゴォッ!

 割れた。どちらが捉えるが早いか。

 八尺程のその身体は彼女を捉えた。頭に直撃を喰らい脳が揺れる感覚を味わうことになるが、彼女の小さな手は酒呑の強大な身体に向かって突き出されていた。

 グリンッ

 酒呑が大地に倒れる。脳が震えていようが関係はない。もう片方の手を肩に押し当て再度回転させる。

 鈍い音が耳に残る。酒呑の雄叫びが周囲に響く。

 蹴飛ばされることで強制的に距離を離されたが、確実にダメージは入れられたはずだ。


「ハハハッ…」

 目に入った光景には絶句するしかない。

「ふざけないんじゃないわよ…!」

 先刻折った腕にも関わらず、通常と変わらない膂力を持った腕を振り回して酒呑は立ち上がっていた。


(腕は治ってない!治癒はできない!ダメージは残ってる!)

 震えた脳で必死に思考を回転させる。彼女はガクガクと震える脚を無理に立たせた子鹿に成り果てた。

 しかし、子鹿には子鹿なりの化かし方がある。

 能力はフル回転。風は彼女を再び空へ旅立たせる。

(治ってないなら、治せないなら!勝機は数えきれないほどある!今は少しでも時間を稼げ!)

 低空を彷徨い、酒呑から距離を離す。

 各一撃が決め手になるような相手、近くにいていい事など片手で数えるほどもない。

 少しでも距離を稼ぐ。そのうちに今出来る精一杯の攻略法を死ぬ気で考える。思考を巡らせる。

 脳の震えも収まってきた頃かそろそろ思考を止め仕上げに入る。

(大方の作戦は決まった、あとは今来た道からアイツがくるのを待つだけ)


 壁が崩壊する。

 全ての壁をぶち抜いて最速、最短の道を通ってくる。

 怪物に常識など通用しない。通用すると思った方が悪いのだ。

(こいつの攻撃は一つでも受けたら…負ける)

 酒呑の御技は彼女に容赦なく浴びせられる。一挙手一投足が命取り。見逃すことも、聞き逃すことも許されない。

 御技のすべてを紙一重で避ける。脚は身体を翻して、腕は身体を逸らして、なんとか身を取り留める。

 掌を大地に向け、暴風を吹く。暴風は竜巻となり、辺りのすべてを飲み込み、破壊する。明星は再び空へ飛び立つ。

(飛んでこないな…流石にこの風だ。飛べば私の勝ちが確定するようなもんだし飛べるはずもないでしょ)

 それでも彼から目を離さない。あの鬼ならこんな状況でも飛ぶ。そう言えるだけの力が彼にはある。

 決して彼に魅入られてしまった訳ではない。

(確かに少し…面白いやつだとは思ったけどね)


「どうした!そんなに俺が気になるか!」

 飛んだ。あの鬼は。鉄筋の壁が砕かれ、抉られる業風の中で。

「残念ね。ちょっと遅かったわ」

 この風の中でまともに動けるのは彼女、明星ひばりに他ならない。

 いくら酒呑といえど怪物は自然の脅威に足らない。


 鬼の頸に風刃がかかる。

「酒呑童子だって最後は寝首を斬られて死んだんだもの。あんたも頸はそこまで強くないんでしょ」

「またフラれたか…」

 暴風は止み、酒呑は人へ姿を変えた。

 天気は快晴。夜空には偽物の星が輝いている。


「貴方がもう少し早ければ、グラスも受け取ってあげられたかもね」


―――――――――――――――――――――――――


 ー東間高校休憩所


「ほら見て!ひばり先輩が勝った!」

「うん、ほんとによかったね」

 興奮気味の深雪が静に言っては跳ねてを繰り返す。静も内心気が高まっているのかやや普段よりも動きが見える。

「紅葉くんたちも勝ってるみたいだし今のところ順調だね」

「ええほんと!まさか開始すぐにここに飛んでくることもなく勝ち進んでるみたいね!」

 深雪の視線は変わって冷ややか。いざ、皆のサポートをする準備をする、という段階でここに送られてくるとも思うまい。

「しょうがないだろ!相手結構強かったんだぞ!」

「だーかーらー!その相手の姿も見えてないようじゃ何にやられたのかわかんないって言ってんの!」

 大方落っこちて戦闘不能にでもなってんじゃないの、とは彼女、深雪の言葉だ。

 そんな深雪と部員たちを「まあ相手がすごく強かったのかも知らないし…」と宥める。


「そこの二人ー!口動かしてないで手を動かしてちょうだい!」

「はーい、相川さん、そろそろ行かなきゃ」

「ほんと?今行きまーす!」

 部員たちの寝所と食事はマネージャーたちが行うことになっている。イクサビトの戦闘のサポートをするのはいつも彼女らのような優秀な陰の功労者のお陰であり、それを育成するため、という名分の元任された仕事だが、ぶっちゃけ運営側の費用削減では?とも思う。

「にしても部長が初日0点とはね、今年の大会は荒れるわよ〜」

「やっぱり凄い人なんですか?部長さんって」

 静が問う。深雪は向こうで部員たちと「あんたらの点が誰に移ったかわからないんだから、やられたんじゃなくて事故ったんでしょ」とか言い争っている。少し苦言を呈させていただきたい気持ちになった。

「そりゃあ凄いわよ。去年は一年生で圧倒的な差をつけて優勝したし、初日からどんどん点取ってね。こりゃ勝つわって、みんなが思ったんだもの」

「今年はまともに勝負させてもらえないかもね」とも続ける。

「でもまだあと六日あるんですもんね。きっとなんとかなりますよ」

「だといいわね」


「何?何のお話してるの?」

「うわ!なんだひばりか…おつかれさま」

「おつかれさまです…」

 急に顔を覗き込むようにして入ってきたひばりに驚いてしまった。「ちょー疲れたよー」と言うその身体は余裕そうな顔とは裏腹にボロボロで先の闘いがどれほど熾烈な闘いだっかを物語っている。

「まさか一年でこんな強くなるとはね、びっくり」

「あんま驚いてるようには見えないけど〜?」

 とか言ってないで早く休んで欲しい。というか一年でここまで強くなれるものなんですか。と言いたい気持ちを抑えて先輩二人の世界に浸らせてあげることにした。こういうのも大事な休憩になるかもしれないと思ったから。

「先輩休んだ方がいいんじゃ…」

 我慢できなかった。先輩の笑顔が眩しかったのをよく覚えている。


―――――――――――――――――――――――――


 ー二日目ー


 ー紅葉視点


 なんていい朝だろうか。太陽は見えず、小鳥のさえずりは聴こえない、長所のトーストにヨーグルトもなければ硬い床のせいで体はガチガチに固まっている。

「起きたか」

「おう、見張りありがとな」

 ここで休むにあたって二人は交代で見張りを立てることにした。前半は紅葉が、後半は透馬が、という風に。

「様子はどう?」

「風も音もしばらく前に止んだよ。多分デカい戦闘が一回終わったんだろうな」

 昨夜中々寝付けなかった理由の一つの戦火が消えていることを今更理解する。確かにさっきから辺りは静まり返っている。

「でも、それで隠れてた奴らが活発に動くようになるはずだ。それに片方はもうしばらくしたら戻ってくるだろうし、じきにここも危なくなるだろうな」

 冷静に情報を分析し、状況を把握してくれる、そんな頼りなる相棒に頭が上がらない。

「じゃあ今のうちにいつでも戦えるようにしとかなきゃな」

 固まった体をほぐし、寝ぼけた頭を冷ます。

 初日に比べ二日目は脱落者が少ない。戦闘経験の少ないものが棄権したり負けたりすることが格段に減る。

 故に、二日目を乗り越えればそう易々と負けることもない、立派なイクサビトとして十分な戦績と言える。


 裏を返せば、ここで負けるものは勝利に溺れ、油断した愚か者とされることになる。


―――――――――――――――――――――――――


 ー力也視点


「やっと来たのか」

 随分と待ちくたびれたと言わんばかりに体を伸ばしながらそう言い放つ。

「もう全員取りに行こうかとしてたところだ」

「お前を相手に無策で行くわけにも行かないだろう」

 両目を閉じた色素の薄い細身の男は、薙刀を向けて応えた。

「じゃあキミには僕に勝つ策がある、そう捉えていいんだな?」

「ああ、それでいい」

 少々圧をかけたというのにまるで効き目がない。自分に圧がないとかそういう次元ではない、本物の自信からくる臆することのない強心臓が故のもの。


 笑みが溢れる。久しく闘り合うことのできなかった敵につい、顔が綻んでしまう。

「そうだな、そんくらいでなきゃ、イクサビトは…

 務まらないもんな」

 いつの時代も最後に勝つのは己を信じることのできるやつだと相場が決まっている。信なき刃に斬れる首など一つもない。


「ゾーラ・ルックハード、参る」

「西園寺力也、よろしく」


 両者気合十分。いつでも行ける。


 今日、特殊エリアは完全に封鎖されることになるー


西園寺力也:魔力操作 S

      能力   不明

      ランク  S

      所持ポイント 0点

      特記事項 やっと戦闘できる


明星ひばり:魔力操作 A

      能力   捻転

      ランク  A

      所持ポイント 108点

      特記事項 派手な戦闘しすぎた、テヘッ

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