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虚の機繰  作者: 浮海海月
目覚め編
4/56

log.4 目を覚してから見る夢 肆

 ひばりが専属をコーチを付けると言い出してから早一週間、紅葉はひばりの元で、透馬はまた別の人間に特訓をつけてもらうこととなった。

 選考理由は「紅葉くんは身体が元々出来上がってたし体術を伸ばすべき」ということ、「体術ならこの部で私よりすごい人は一人しかいない」の二言だけで済まされた。


(この人そんな強いのか)


 内心驚いていたのを感じ取ったのか彼女は何食わぬ顔で練習メニューを追加する。


「あともう100セット追加ね〜」


 正に鬼の様相である。




―――――――――――――――――――――




 六日前


「そういえば魔力の使い方、教えてなかったね」


「そうっすね、お陰で昨日は痛い目見ましたよ」


 少し悪態を吐きながら文句を言う。実際、痛い目を見たのだからこのくらいは許してもらって当然だろう。


「ふふっ、ごめんね〜これからちゃんと教えてあげるから〜」


 特に悪びれることもなく、紅葉の悪態に触れることもなく、またどこから持ってきたのかわからないホワイトボードを使って説明を始める。

 足元の『職員室用』は気付かぬうちに何処かへ行ってしまったようだが


「じゃ、魔力の使い方説明していくね」


 と言った後、ペットボトルがひとりでに潰れた。


「今のが私の能力、『魔力』は充電式電池で魔術とか能力の『術式』は回路みたいなイメージかな」


「術式に魔力を流してプログラム通りの動きをさせるのが主な使い方だね。全然魔力纏って殴るだけでもそこそこ強いんだけど、モスキュールくんのパンチ超痛いし」


 初日に失礼なことを言った人はどうやらホントにゴリラ戦法をする人らしく、あの時捻り潰されなかったことを幸運に思う。


「センパーイ、魔力が充電式電池なのはなんでですかー?」


「君はホントにいい質問をしてくれるね、授業してて楽しいよ」


 優しく微笑み言葉を連ねる。


「世界中に漂う『魔素』を変換して『魔力』にしているからだね。人によって体に蓄えられる魔力量も変換効率も違うんだけど、これも練習していけば全然高められるよ」


「キミは元からそこそこ多いけど」と付け加えられ少し気分が良くなった紅葉は再び問いを投げかける。


「じゃあオレの能力ってどんなもんなんですか?」

(我ながらいい質問じゃないか?これから先、超大事になることだし)


「それは使ってみなきゃわかんないな〜」


 素っ気なく返された。それもそうだ。自分で把握してないものが他人に分かる訳もない。


「でも使おうとしたら意外となんとなく分かるもんだよ」


 少しのフォローが心に沁みる。


「んで、本題の魔力の使い方なんだけど、基本的には魔力を『流す』イメージをすると上手くいくよ」


 理屈はこうだ、電気と同じようなものであるのだから術式に流せば魔術や能力が使える、身体に流せば帯電するかの如く身体に纏わせることができる、といった特段難しいことは何もないことだ。


「魔術と能力の違いは?」というのは身体に生得的に刻み込まれた術式が『能力』、零から術式を構築することで作り上げた『魔法』に人が限りなく似せて作れる限界が『魔術』だ、と軽く教えてもらった。




―――――――――――――――――――――




 そして現在


(特に難しいことはないって思ってたけど、実際やってみると結構キツイ!)


 ひばりから与えられた特訓メニューは「一日中常に魔力を纏いながら生活すること」。

 一度でも気を抜くと鉄拳制裁が飛んでくる仕様付きなのでどんなことがあっても成功できる優良メニューとなっている。


 それに加えて放課後にはひばりと組み手をひたすらに繰り返しては翌日記録した動画を見て改善してを繰り返す。

 ひばりの指導はかなり的確で「ここの動き、明らかに手抜いてる。」だとか「この体勢からの払いじゃ無理がある。当たりもしない当たればいいだけの攻撃に意味はないよ」だとかその場その場の必要な言葉をくれる。


 魔力を常に纏うのも「使える魔力を増やしとくのと、一分一秒でも長く魔力に触れて慣らしとかないと実戦で碌に使い物にならないから」と説明してくれた。

 ここまで来たらいくらキツくても従っておくが吉だ。昼休みに先輩から昼食に誘われるのは役得だと思うことにしたが、シュンからは「裏切り者ー!!」と誹られた。実際は録画を見てるだけなので特に気にしないことにするけど。


 他にも気づいたことはひばりは男女問わず人気があるということ。一緒にいることが増えた途端に周りの目が鋭くなったことと、どこに行ってもひばりを呼ぶ歓声が起きるのだから間違いはないだろう。

 肩にかかった淡い色の髪、小さく、整った顔立ちに加え、発育もかなりいい。人気が出ない筈がない。


 そんな美少女と特訓をしている彼は絶賛、


「…ケテ…タス…ケテ…」


 地面と顔を合わせていた。




―――――――――――――――――――――




 二十分程前


「ほら、ぼさっとしない!受けるだけじゃなくて自分からも攻める!」


 ひばりからの猛攻を受けつつ攻めることができたらそれはもう初心者とは呼べないのでは?と思いながら「はい!」と返事をしておく。


 ひばりの体術は随分と完成されており、魔力なしで手足がまるで人の倍くらいにあるような動きをするのだ。


(これでも手加減してるとか絶対嘘だろ!)


 空を切る音が顔のすぐ横を通る。威嚇用の拳で意識を逸らし、次の一手で相手を潰す。彼女の常套手段だ。


 次の拳を掌で受け流し、崩す。彼女の姿勢は低くなる。少し予想から外れたのか驚いた顔をしている。


(トった!)


 姿勢の下がった彼女目掛けて突きを繰り出す。この状態から避けることは難しいだろう。


 紅葉の拳が彼女にかかりそうになるその瞬間、彼女の身体が高速に回転し顔を目掛けて回し蹴りを放った。


(ハ?)


 予想の遥か外をいく動きに呆気に取られ、避けることもできず、気が付けば体が地面から離れていた。




―――――――――――――――――――――




「センパイ、強すぎでしょ…」


 今ならゴリラ戦法はあのモスキュールじゃなく、ひばりだと胸を張って言えるだろう。モスキュールもゴリラ戦法をするらしいが、これはもうベクトルが違う。この人のはゴリラはゴリラでも脳筋ゴリラだ。


 この一週間、ひたすら特訓をつけてもらったが、ひばりはただの一瞬も能力など使わずに紅葉を圧倒してみせた。


「そりゃ副部長ですから」


 フフンッと鼻を鳴らし、自慢げに応える。これだけの自信は間違いなくあの強さからやってくるのだと、なんとなくわかる。


「センパイがそんな強いなら部長はもっと強いんでしょうね…」


「まあね、まだ学生なのにS級認定貰ってるくらいだし勝てるわけないね」


「S級?!あの人どんだけ強いんすか?!」


 この世界には強さの指標としてE〜Sのランクが指定される。Eは一般人に毛が生えた程度、Dは占星術士の最低ライン、Cはそこそこ修練を積んだ人、魔物たちの平均のランク帯レベル、Bは一般の占星術士の多くがここで足を止め、一人での作戦導入が増えるランク帯、Aは天才などと言われるような人間が集まる箇所、Sは正しく天災と呼ぶに相応しい人が与えられる一種の称号の様なものだ。

 それをあの人―西園寺力也―は持っているというのだ。天災がすぐそばにいれば誰でも驚くだろう。


「私もA級だけどね」


 もうなんかよくわかんなくなって来そうだった。



「ま、今日はもうここまでにして続きは明日にでもしよっか」


「明日?明日土曜日ですけど?」


「うん、知ってるよ?」


「何を言っているんだ?」と言いた気な顔をして応える。


(なーんだ、知ってるのかーならダイジョーブかー)


「じゃなくて!学校空いてませんよね?どこでやるんすか?!」


「ああ、そういうことね」と呟き、言葉を繋ぐ。


「私のお家にいらっしゃい!」


 某月に代わってお仕置き系戦士みたいなポーズを取って声高らかにそう言い放つ。


(ダイジョーブじゃないじゃんか…)と思っても他にいい案も思いつかなかったので結局お邪魔することに半ば強制的に決定した。




―――――――――――――――――――――




「ここでいいんだよな…」


 彼女から聞いた住所にやってきて、間違っていないかしっかしと確認する。標識に「明星」と彫られているし間違いはないだろうとインターホンを鳴らす。


「どちら様?」


「明星センパイに練習に誘われた神河紅葉です。センパイはいらっしゃいますか?」


 失礼のないように丁寧に手短に済ます。

 しばらく待つとドタドタという音とともに男の子とそれを押しのけるようにひばりが出てきた


「い…いらっしゃ~い…」


「男だ!姉ちゃんが男連れてきた!」


(出だしは好調といったところか…)


 今日は憎たらしいほどの快晴だった。




―――――――――――――――――――――




「弟がごめんね。あとでちゃんと言いつけておくから」


 ため息を吐きながら謝罪をしてているのを見ると、普段何をしても平謝りで返されるのがウソのように思えてしまう。


「いえ、そんな迷惑なんてかかってませんし大丈夫ですよ…」


 一応定型文で大丈夫だと伝えておく。決して少しいい気になったわけではなくこの先輩に叱られる弟くんがあまりに可哀そうだったからだと、心の中で言い訳を並べる。


 ふと思い返すとこの家の庭はそこまで広くはないことを思い出す。ではどこで練習をするのか尋ねてみると「うちの隣が空き地になっててね。そこでやるよ」とだけ返ってきた。


「時間もそんなにないしすぐにでもはじめよっか」



 勢いよく木剣を突き出す。

 しばらく体術ばかりで戦っていたから鈍っているかと思ったが、そんなことはなく、寧ろ一週間前よりも洗練されているように感じる。

 突き出した木剣を彼女目掛けて一文字に薙ぎ払う。


 それを掌で受け止め、背負い投げの要領で投げ飛ばし、踏みつぶさんとばかりに足が振り下ろされる。


 すんでのところで躱し、体勢を整える。


(やっぱセンパイ相手に変に攻めると倍で返されるな…!)


 ひばりの体術は攻防一体となっていて、攻めに対して切り返しを入れてもよくて掠るか、最悪何倍にもなって帰ってくる。そのうえ、元より彼女は好戦的な戦い方をするため、碌に攻めさせてはくれない。


(それなら…)


 彼女の拳に合わせるように木剣を振るい、彼女の攻めに同調していく作戦に出る。

 無論、刀に拳であれば拳のほうが速く動き、依然として攻めの姿勢が変わることはないが、この確かな変化に気づかない者はいないだろう。


(紅葉くんの動きが変わった。今まで防戦一方だったのに急に…)


 足元が凍り付く。足元の冷気は遂に彼女の脚に降り掛かる。


(しまった…!)


 冷気は実体を帯びて彼女の足を封じていく。

彼女の目も瞬間、足元に向けられる。


「パキム(氷を造る魔術)!」


彼が覚えた数少ない魔法。そのことは確かに覚えていたが長い間体術だけで組み手をしていたからか、完全に抜け落ちていたこと。その事実は今確かに彼女に足枷をはめるに至った。


「ッシ…!」


大きく振りかぶった木剣が彼女に袈裟斬りを放つ。




―――――――――――――――――――――




「よし!こんだけできるなら。新人戦もいいとこまでいけるでしょ」


「あ…ありがとうございます…」


 今、紅葉が天を仰いでいる理由は下半身の動きを封じたことで勝利を確信したのち、自由の利く上半身だけで返り討ちにあったからだ。


(完全に油断した…)


 今思い返すだけでも反省点がいくつか思い浮かぶ。

 あそこは能力を使っておけば打開できたんじゃないか、凍らせてから袈裟斬りを放つまでの時間はもっと縮められたんじゃないかとかそんな風に思い返す。


「途中からはめちゃくちゃ良かった。ちゃんとキミは強くなってる。だからもっと自信をもって胸張っとくんだぞ!」


 夕焼けに照らされた彼女からもらった言葉は斜陽よりも輝いて見えた気がした。

神河紅葉:魔力操作 Ⅾ

     能力   不明

     ランク  なし

     特記事項 『A級イクサビト』明星ひばりからのお墨付き


明星ひばり:魔力操作 A

      能力   不明

      ランク  A

      特記事項 「やっぱり私の教え方がいいんだろうね~」

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