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虚の機繰  作者: 浮海海月
目覚め編
2/11

2.目覚め−弐−

西園寺力也さいおんじりきやだ」

「はい?」

「俺の名前だ」

急に何を言うのかと思ったら自己紹介か。「改めて自己紹介をしよう!」くらいの前置きはあっても良かったんじゃないか?

神河紅葉しんがもみじです。神の河に紅葉って書いて…」

流れに乗って俺もちゃんと自己紹介をしとこう。多分このタイミングを逃したら一生自己紹介させてもらえない気がするし。

「シンガ…神河か、なんか聞き覚えのある名前だな」

「俺ん家パン屋なんすよ、ベーカリーシンガっての。イチオシはメロンパンすよ!今度どうっすか?」

こういう時くらい宣伝して母さんに借りを返しとかないとな。今朝も遅刻しそうになって起こされたし。

「ハッハッ!商魂があっていいな!今度寄ってみるとしよう!」

ほんと、よく笑うなあこの人



「今日は見学ってことで軽く説明とかを受けてもらうって感じなんだが、残念ながら俺はここまでだッ!」

やけにオーバーなリアクションとってくれるなこの人。こういうとこが人を惹きつけたりするんだろうか?

だったらトーマには無理そうだな。うん。トーマさんその「なんか失礼なこと考えてそう」って顔やめてなんで分かるんですか怖い

「んでまぁここから先は頼れる副部長の明星ひばり《あけぼしひばり》さんにおっ願いしまーす!」

「もー!その紹介やめて!ハードル上がるから!」

おお、随分と綺麗な人じゃないか。しかも明るくて優しそう!こういうのだよこういうの、こういう人を人々は美少女と呼ぶんだ。自称美少女の幼馴染さんには是非お手本にしてほしいものだ。

「まったく…勝手に仕事押し付けちゃって…あとでどうしてやろうかしら」

あら、意外とアグレッシブなのね。フンッなんて鼻息まで鳴らしちゃって−−いやそりゃそうか超がつくほどのアグレッシブなやつが集まる部だもんな、そりゃこの人もアグレッシブだろうよ。

「んじゃ、改めて自己紹介ね!私は明星ひばり!東間の2年生やってます!趣味は、うーんゲーム?とかかな?よろしくね!」

「1年の神河紅葉です!実家はパン屋!好きなことは体を動かすことと寝ることです!よろしくお願いしますッ」

「オッケー神河くんね…よし!君は異能戦の経「ないっす」験は?」

「魔力の扱い方は知「らないです」ってる?」

「オッケード初心者ね!」

そんなはっきり言わんでください、じいちゃんとばあちゃんが趙反対したからできなかっただけなんです。別に高校入ったから「俺もワンチャンあるんじゃね?」とかで入ったとかそういう訳じゃないんです、ほんとなんです。そんな『任しといて!』みたいなグーサインは大丈夫ですほんと

「うーん、魔力の使い方は正部員じゃないと教えてあげられないからなぁ…じゃ、軽く『ホール』とかの説明だけしよっかなぁ…」

『ホール』あの魔力災害のことか、知らない人とかいるのか?逆に

明星先輩は「別に暇だったら練習風景見てていいよー」とは言ってくれたがちゃんと聞いとこう。なんかすごい秘密とか聞けるかもだし。いやせんぱいいや先輩のじゃなくて『ホール』のね。



どこから持ってきたのかわからないホワイトボードを使いながらセンパイが説明を淡々とし始める。ほんとどこからどうやって1人で持ってきたんすか、それ。

「『ホール』っていうのはね60年前まで世界中で猛威を奮っていた『災厄の魔女』の死後、魔女の魔力の源として使われてた魔素の地脈が供給先を失って地上に溢れ出した魔素濃度の高い危険地帯のことを言うの。生き物は高濃度の魔素をいっぺんに浴びると『侵食』って言って身体がどんどん壊れていっちゃって最終的に魔物なっちゃうんだけど、どれくらい耐えられるかはその人の耐性次第だから一様にどのくらいの時間が危ない!とかは言えないんだよね」

まあこの辺はみんな知ってることだろうな。ホールの中で遭難して〜みたいな映画とかあったり「悪い子はホールの中に放り投げるぞ」なんて言われたりするし。

「んで、ホールの中は高濃度の魔素があるって言ったよね。実はね、魔物っていうのはその身体を魔素から構築するの。だからホールの中にはかなり強い魔物がうじゃうじゃいるのよ。それだけじゃなくてある程度成長すると外に迷い込んじゃうやつらとかも出てきちゃうわけよ。」

これも知ってる。ニュースでたまに魔物がホールから市街地に出没したっていうニュースたまに見るからな。でも、

「センパーイ!しつもーん!」

「はい!神河くん」

「魔物はある程度成長したら外に出るんですよね?じゃ、なんで中はかなり強いのがうじゃうじゃいるんスカ?」

「ふふ、いい質問ね」

お、今のはいい質問だったのか。センパイも「うーんとね…」なんて顎に手当てて考えてるし。こりゃ将来有望だな俺は。

「えっとね、さっきは外に迷い込んじゃうって言ったけど、実際はね、ホールの中で魔物たちが独自のナワバリみたいなのを作ってて、そのナワバリ争いに負けちゃたのが行くあてもなくなって外に出てきたりするの。迷い込むのはかなりレアケース。ナワバリを作るのは魔素を浴びれば浴びるほど強くなるからね、なんとかして中にずっといたいのよ。」

なるほど、それなら確かに納得だ。いるだけで強くなれるんだそりゃその方がいいに決まってる。弱者は黙って外に出されるのもまあしょうがないことだ。

「んじゃ、話戻すね」

優しく微笑んでからくるりと身を翻してまたホワイトボードを使いながらの説明に戻る。一瞬、ホワイトボードの足のとこに“職員室用”って見えた気がするけど気にしない気にしない

「ホールの中の物も基本的には侵食を受けてて、内部環境はコロコロ変わっちゃうのよ。そのせいもあって今もあんまり調査が進んでないのよね。それだけじゃなくて犯罪者たちがそのことをいいように使ってホールの中に隠れ家を作ったりしてるのよ。だからホールの中で出会う人も危険だったりするのよ。」

環境がコロコロ変わる?何それ、こわっ

割とマジで怖いな目印はこれ!って決めてたのが気づいたらなくなってたりするんだろ?そりゃ遭難もするわ。

「でも、ある程度はちゃんとルート見つける方法とかもあるからそれを覚えておけば遭難することはほとんどないよ!…超大変だけどね」

あぁなーんだ、ならよかった安心だ。最後になんか言ってた気もするけどまあいいことでしょ、あー安心安心。

「ホールの覚えておくべき情報はこのくらいかな。あとは魔力操作ができるようになれば耐魔素剤使わなくても割と平気ってことくらいかな」

「めっちゃ大事なとこをついでの感覚で言わないでください!?」

びっくりした、それはそれはびっくりした。どのくらいびっくりしたかっていうと母親と出かけてる時に同級生とばったり会うくらいびっくりした。そんな「テヘッ」みたいなやってないでちゃんとして下さいマジで。



「ホールの説明はこのくらいかな。あとなんか聞きたいこととかある?」

「ない、と思います」

多分ないだろ。結構しっかり説明してくれたおかげもあって割としっかり理解できたと思う。あ、でも一つだけ聞いておかないといけないことあったな

「あの、正部員になってからホールに入るようになるまでどれくらいかかりますか?」

「えっとね、新人戦が5月にあるからそれまでに間に合わせるよ」

5月?5月って言った?あと1ヶ月しかないよ?てかさっき「超大変」って言ってましたよね?マジで言ってんすか?

「じゃ、時間ないってこと理解ってくれたとこで早速この書類にサインお願いね?」

センパイ…今日一番の笑顔でそんな詐欺みたいなこと言わないで下さい…



「それで今必死にその本読み漁ってんのか」

「そうですけど、なにか?」

「不貞腐れるなよ。だから俺が手伝ってやるって言おうとしてんだから」

「…ありがとさん」

ごめんトーマ。部長みたいなのは無理だろうなとか言って。お前ほんといいやつだよ。大好き

「…なんか気持ち悪いかなやめよっかな」

「なんでぇ!?お願い助けて下さい!1ヶ月じゃ間に合わないからぁ!」

「わかった!わかったから!泣きついてくんな!」



「モミジー?ご飯出来たよー?」

家に帰りそれからもひたすらに本を読み続けて早数時間。既に日は沈み、月が昇り夜空を照らし始めている。

もうそんな時間になってたのか…

「はーい!今行く!」


「母さん…これ…なに…?」

「なにって晩ご飯じゃないの」

目の前に並んだ“ソレ”を改めてよく見る。

確かに幻覚かもしれないしなよーく目を瞑って、よーく擦ってはい!目開けた!

「今日の売れ残りよー、ちゃっちゃと食べちゃってー」

机上に並ぶのはとても夜食には適さないであろうはずのパン−−いわゆる菓子パンの数々−−と、申し訳程度のサラダボウル。いかにも『手を抜いている』とアピールしているようにしか見えない

「今売れ残りって言ったよね!しかもしょっぱいのとかゼロの!甘いやつばっかじゃんか!これでどうやって夜を越せと?!」

「だいじょぶだいじょぶこんくらいじゃ死なない死なない」

そういうことじゃない、とでも言いたげな息子を軽くあしらいながら母はケラケラと笑う。この人の人生には“不安”とか“心配”なんてものはないのだろうか、そうでなければ食べ盛りの健全な男子校生の晩ご飯を簡素にするとは考えられないものだ。

「もみじ」

雪のような優しい声が母子の言い争いに割って入る。その声は母の少し高めの声よりも、息子の無駄に大きいだけの声よりも滑らかに、透き通るようにその場を諌める。

「ご飯食べる前にいただきますしなさい」

「…はい」

祖母−−神河雪しんがゆき−−は常にその場をよく見、聞き、判断を下す。今、この場にどんな行動が必要で、どんな言葉をこの場に落とすべきか。雪より白く、何よりも透き通ったその眼で全てを見透かしているかのように−−

「ばあちゃん」

「はあい」

「刀、俺にくれよ」

−−長い間反対し続けた愛孫の戦闘への参加の“確定した事実”これを聴いた今、この瞬間、その眼の中に映し、確かに見透すのは−−紅葉の揺るがことない意志だけで

紅葉: 魔力操作 不可

   能力   不明、使用不可

   特記事項 『ホールの歩き方』全143p中21p読了


透馬: 魔力操作 D

   能力   不明

   ランク  E

   特記事項 親友が最近ちょっとやばそう

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