log.1 目を覚してから見る夢 壱
酷く殺風景な荒野に血潮を降らせ、骨を断ち、肉を砕く。
「ウオオオオオオ!!!!!」
己の貌を忘れ去った異形の化け物共の咆哮。それらは合戦に臨む兵共の如く行進を進め、唯一人荒野に立つ男に幾千幾万もの猛威を振るう。
彼は唯独り、荒野にて舞う。
いや、それはあまりに美化しすぎか。
あれは「舞う」なんて大それた物じゃぁ無いが、荒れ狂い押し寄せる異形の波の中を思うがままに駆け抜け、剣先を振るいて波を押し返すその様は行雲流水の如し。
切るのが面倒だからと伸びっぱなしだった銀髪は依然として流麗なままで、小川を流れる清水よりも澄んでいる。
あれだけの血雨を降らせておきながら、彼の身に一切の返り血は無く、靡く髪にさえ滲む赤は存在せず。
名も無い荒野にて墓標を刻む。
ここにある墓はたったの五つ。四つは誰かが、一つは彼が殺した亡き友らのもの。
転がる屍肉は幾億。墓守は孤独に、戦績を刻み込む。
異形は人に非ず。
しかしながらに、貌だけは人に似せた髑髏。
「ケタケタ」
「ケタケタ」
「ケタケタ」 「ケタケタ」
「ケタケタ」
「ケタケタ」
「ケタケタ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」
其れらは嘲笑う。
この荒れ野にて場違いにも何かを守り続ける無意味な行為をか、何も成し遂げ得なかった彼自身をか。
口腔へと刃を突き立ても嘲笑は止まず、頸を刎ね落としたとて其れらは止まらない。
無限の孤独にて無限大に発散する戦績を刻み続ける。
「この私を使おうってんだ。精々愉しませろ。」
刃を見る。
彼女は彼を助けようだなんて微塵も思っちゃいない。
ただ幾百ばかりの空白の時間を埋めるだけに彼を使う。
柄の裏に自身の手。
一見すれば白く綺麗な手。だが、その裡を見れば血に塗れた罪人の穢らわしい手。
この罪人に死罰など生温い。
延々と巡る己が呪いを以って、彷徨う事だけを赦し、永遠に生きながらえ、四肢が朽ち行く時を待つ。
墓標に今日も水を撒く。
雑草も生えぬこの地に生ける花などありはしないが、水を撒き、墓を洗う。
こうする事で自身の罪さえも流れる事を願って。
「戻れ、――――――。今ならまだ――」
間に合わなかったのだ。
彼を呼ぶ声はその時にはもう既に彼の耳に、ココロに届かなくなっていた。
己に空いた穴を埋められるのは唯の一人のみ。
其の者以外の述べた金言も、さながら餓鬼の戯言のように流れ去る。
其の者でさえ、今ここには居らず。
また、墓標に水を撒く。
突如として息苦しさを覚える。
あの時に似た、酸素を欲して喉を開こうとしようと開かない感覚。
喉仏を潰され、頰に落ちる泪の数々を彼は未だ鮮明に――
―――――――――――――――――――――――――
「―――――あん…た…なんか産む…んじゃ…なかった―――――」
哀情に溺れて嗚咽を漏らす。
声も、顔もろくに思い出せやしないのに、夢にだけは出る亡霊が現れるたびにこうして溺れてしまう。
彼女にもう一度、とは思いはしない。
けれど、後悔ばっかりだ。
もし、もしもあの時に戻れるのなら、訪れる事切れを当然の報いとして受け入れよう。
そして願う事なら、来世は人では無い事を
―――――――――――――――――――――
「んん…」
騒がしく鳴り響くアラームを手探りで止める。しかし、携帯の画面に表示されるストップボタンは見当たらず結局顔を上げて止める。
(うっさいなぁ…)
わざわざアラームまでかけたのは誰だ。
ただでさえ目覚めの悪い夢を見たせいで機嫌が悪いって言うのに、枕元でこんな音を出されたらたまったもんじゃない。
人体は不思議なものだ。不愉快と感じたものは目も開かないまま指先だけで消すことが出来ちゃうんだから。
バチンと物を叩く音がしたと同時にアラームが止まり、もう一度ぐちゃぐちゃの掛け布団に頭を埋めて差し込むうるさい日差しから目を守る――
「モミジー?!あんたまだ寝てんのー?!早く起きなさーい!!」
母の声が先ほどの携帯よりも大きく聞こえる。
ただでさえ声が大きい母の声は少年の左耳を通り抜け、脳を突き抜けて右耳から出ていく。
「あんた昨日始業式やったんだから早く準備しなって!
息子のイメージ『遅刻』になったら田舎の母ちゃん悲しむぞー!」
飛び起き上体を起こす。
田舎には両親はおろか,じいちゃんもばあちゃんもいないってのとツッコむかのようなものすごい勢いで。
と、すっとぼけるのも大概にして…
携帯の画面を見る。原因は不明だがアラームが止められていて、何故かは分からないが画面にヒビが入っている画面をだ。
「あ…」
そしたらあら不思議。半覚醒状態の脳みそも完全にパッチリだ。
「ハア?!やっばい、遅刻する!」
待ち受け画面に表示されている数字は8:30。登校時間は8:40。
危機感を覚えるのには十分すぎる時間だ。
大慌てで部屋を出る。
袖を通した制服は着慣れていないからか、はたまた寝起きすぐに着たせいか、ボタンはかけ違ってるし、シャツはシワッシワだしと、かなり着崩れてしまっている。というかみっともない。早急な改善を求める次第だ。
「あ、やっと起きた。パン置いてるから走りながら食べてきなー。」
母は今から職場に向かうのか、気が早いとも思うけれど、もう白い工房服に身を包みエプロンをかけているところ。
そして、なっさけない我が子の格好を見るや否や、「なんて格好してんのアンタ!」と駆け寄ってきているところだ。
「なんでもっとちゃんと起こして組んなかったんだよ?!」
紅葉…そう呼ばれた少年へと迫る遅刻への焦燥とそこから来る理不尽な怒りはなんの罪もない母へと向けられた。
こうして格好を直してもらっているのにも関わらず、なんて無礼な。とは言うまいよ、親子同士のプロレスみたいなもんと納得しよう。
その証拠に、ほら。
「なんでもなにも、あんたの部屋がきったないから入るに入れないせいでしょうが。
恨むなら私じゃなくて日頃のあんたを恨みなさい。」
ぐうの音も出ないおっしゃる通りのド正論。
この勝負に勝ち目はないと見極め、即座に白旗を上げると、食卓に置かれた少し冷めたカフェオレを一気飲みし、一切れの食パン口に放り込んで玄関まで全力ダッシュ。
「いっふぇきまーす!」
しっかりと新たな門出の挨拶をしたら、すぐさまに扉を開けて家を出て行く。
残念ながら門出を祝ってるような暇はどっかの誰かのせいで消え失せてしまったのでね。
「はい、いってらっしゃーい」
息子の出発を見送る母の顔は意外にも満足げだったと、後に彼女の夫からリークが出ている。
早い呼吸をしながら中学三年間を年がら年中通い詰めた道を爆走する。
道中で見かけた子猫は逃げ出すし、尻尾踏んで怒らせた犬が振り払われるくらいの猛スピードで爆走する。
「はぁ、はぁ…」
春の陽気ってやつはこんなにも暑い奴だっただろうか?
ブレザーなんて着てたら汗でぐっしょりになって、帰る頃までずっと濡れてるシャツが肌に引っ付く気持ちの悪さを味わうことになるだろう。
残念ながら今の彼はその例外ではあるけどね。
当たり前だろう?春先のランニングで上着着てる人間を見たことあるかい?
赤の信号が目に入って一時停止。足踏みもせず、やれるだけ息を整えることに時間を使う。
「おはよーございます!」
すれ違う小学生たちは偉いことで、交差点で食パンを食べ進めてる高校生にも挨拶をしてくれるので、そんなダメな高校生でもちゃんと挨拶をし返してあげるのだ。
あげるなんて上から目線で言っちゃダメか、返させていただく、か。
「おふぁよーふぉふぁいまふ。」
こんな風でなければ満点なのにな、と愚痴ってる間に信号が青に変わって再加速。
いや、思い直そう。遅刻ギリギリ猛ダッシュかましてる時点で赤点モンだ、とな。
しばらく直進したらば、通い詰めて知り尽くした道から、これから高校生活三年間を通い尽くす、昨日知り合ったばかりの道へと路線変更。
しばらくしたら見えてくるはずの校舎を、今後これほど輝かしいなんて思うことはないと思う。
「だからさー、あんなキレイにとぐろ巻くなんてことなくね?どうやって巻いてるんだろな?ケツぐるぐる回してんのかな?」
朝っぱらから何の話をしているのだろうか。
いや、あまり深く勘繰らない方が身の為だ。聞くからにこれクソみたいな話だから。あ、クソみたいってかクソなんだけど。
「頼むから俺を巻き込まないでくれ。」
友達のお前が巻き込まれてくれずに誰がどう巻き込めるって言うんだ。いや巻き込むってそういう意味じゃなくてね。
そんでなんでお前はそんな「嘘つけ〜」みたいな感じでつっ突けるんだ。
「えぇー?そんな遠慮しないでさー。」
机の上、そこに乗った少年が笑いながら友人に語りかけ、友人は呆れつつ話を聞く。
昨日出会ったばかりにも関わらず既に数年の付き合いがあるかのようなやり取りをしているとこには素直に感心するけど、出来る事なら万人にも理解できる内容をだね。
「頼むから、マジで。やめろ。」
「ガチ拒絶は結構ショックなんですけどぉ…」
完全に強めの否定をされたところでしょんぼりとした顔に変わるけれど、それも一瞬のこと。
少し小気味のいい足音が聴かれてくる。その音の主が絶賛「廊下を走るな!!!」という怒号も連れてきていさえしなければ『少し』じゃなくて『かなり』まで格は上がっただろうに。
足音は止まらず「すんませーん!」という情けない声と共に近付いてくる。
足音は二人のいる教室の数メートル手前でブレーキ音に似たものに変わり、銀髪の少年がヘッドスライディングで入ってくる。
「ギリギリ…セーフ!!あ、ちょミスった、いっでぇ!!」
先程までの小気味良い音は何処へやら、不快な轟音に変わった。
銀色の髪に若干の赤が滲んでいるのもマイナスポイントだ。
「神河ァ!廊下を走って教室にスライディングで入るなァ!ついでに二階堂!机の上に座ってんじゃねぇぞ!」
先程の怒号の持ち主であろう教師による怒声を歓迎せず迎え入れる。
二階堂と呼ばれた少年は目を丸くして驚く。スライディングの張本人は倒れた掃除ロッカーに下敷きになっているというのに。
「えぇ?!俺とばっちりっすか?!」
『天気は快晴、今日もいい一日になるでしょう』なんていう朝のお天気占いは二度と信用しないとここに誓おう。
「何がとばっちりだ!机は椅子じゃねぇってツってんだろうが!」
マジで誓おう。あの天気占い出したニュース番組にクレーム入れてやるとな。
「で、ずいぶんと遅かったな『遅刻未遂ヤロウ』。」
とばっちりを受けた少年はやはり不機嫌な様子で額に浮かべた十字の血管を見せつけながらふんぞり返っている。
(机に座ってなきゃとばっちり受けなかったのに…完全なる八つ当たりだこんなん。)
それをやめれば怒られないのでは?と逆撫でするのを堪える。
だけど胡座組んでたらまたすぐにブチギレ先生にとっ捕まるんじゃないかとも思うけど。
「悪かったって、オレのせいでとばっちりくらったのは謝るからさ。ジュース奢るから気ぃ直してくれよ、シュン」
パンッと手を合わせ、かしこまった雰囲気で謝罪のポーズを取りながら文言も添える。
片目を僅かに開いてチラリと覗き込むように少年を見ればとっくに胡座は解かれていて、紅葉のすぐそこに彼の表情があって…
「マジ?!じゃあ一番高いの頼んだ!」
シュンと呼ばれた少年、『二階堂瞬』はここぞとばかりに目を輝かせそう宣言した。
「一番高いのって二百三十円のエナドリだけど、ほんとにそれでいい?」
今は試験が近いわけでもなけりゃ、こんないい朝からエナドリキメるような時期でもないし、そんなとち狂った生活サイクルしてる訳でもない。
というわけで今そんなの飲んだらカフェインにぶっ殺されるハメになるというわけだけど、本人が望むならまぁ、やぶさかではないか。
「あ、やっぱメルティ炭酸な。」
やぶさかだったらしい。エナドリは勘弁だってさ。
代わりにと名を連ねたのは最近流行りの炭酸飲料「メルティ炭酸HOPE」。その名の通りびっくりするほど甘く、炭酸も激しめ。若者を中心にブーム、らしい。
「オマエよくあんな甘いの飲めるな、オレ絶対無理だわ。」
紅葉が実際に飲んだ際の一幕を再現しよう。
「…これ無理」
あえてどんな顔をしてたかは言わないであげよう。だけどもこれだけは言える、「好みじゃなかった!」と。
「それじゃケガ治してあげてんだから私にも奢りなさい…よっと!」
先程までの鈍い痛みとは異なり、はっきりとした掌の感覚が後頭部に走る。
治ったばっかの頭がぷっくりと膨らみかけて引っ込む。
「最後叩く必要あったか?!結構ちゃんと力入れやがって!」
患部に手を当て後ろを振り返る。あとついでに文句も言うけれど、多分無駄骨に終わる。
「何よ。幼馴染かつ美少女と名高いこの『相川深雪』様に治してもらっておいて、文句でもあるわけ?」
ほら見ろ、無駄骨だ。一文句を言ったら十で返してくるんだ、こいつは。
勘違いでなければ美少女は人の頭を結構な強さで引っ叩かないし、自分で自分のことを美少女とは言わない。
白藍色の髪に桜色の瞳、スレンダーな身体は確かにその条件は満たしてるかも知れないが。
「治した後毎回一発ぶん殴る闇医者のくせに。」
ぶつくさ口を尖らせてブー垂れてみる。
「次から法外な金ぶん奪ろうかなー?」
おっと逆効果だったみたい。しくじっちゃった。
「ワーアイカワサンニナオシテモラッテウレシイナー。
マジアリガトーカンシャカンゲキアメアラレ。」
「美少女が足りない、やり直し。」
やり直しとか言いながら盛大に拳をほっぺたにめり込ませないで欲しい。言えるもんも言えないじゃないか。
「まあまあ相川さん、神河くんもこう言ってるし…」
二人の間にひょっこり生えてきてまあまあ、まあまあと宥めようとする背の低い女の子が一人。
ややウェーブのかかったツヤのある黒髪は自前らしく、しょっちゅう女子二人組から羨まれている。それ抜きにしてもこじんまりとしていて可愛いがられているのだけど。
「静、だめなのこの男は。ちょっと痛い目みないと学習しないのよ。」
今は除いて…かな。昨日は「静に感謝しなさい!」って引っ込んでくれたのに、今日はダメらしい。
「さっきだいぶ痛そうな目にはあってたよ?!」
(本間さんは優しいね。絶対にこの2人みたいに「奢れ」とか言うようにはならないでね。
ほんとにお財布がスッカラカンになるから。」
この文句のつけようがないくらい完璧で優しい少女が『本間静』。
初日から遅刻ギリギリの登校で頭に怪我を負うようなこの男にも優しくしてくれる心の持ち主。
趣味が読書、散歩、花の世話とか言う可憐がすぎる女の子。
自称美少女にも見習っていただきたい所存だ。
おっと、背中にヒヤリとした感覚が。おお怖。ていうかこっちにまで干渉して来ないでくれない?
「目覚ましはちゃんとかけてたのか?お前のことだからかけてて寝てたんだろうが。」
朝の出来事をよぉく思い返して見る。
鳴り止まない目覚ましのアラーム、スヌーズはたっぷり、母さんが起こしに来るまでぐっすり。
うん、まったく持って仰る通りじゃないか。
「大正解!」
「何が「Exactory!」だよ」と激しめのツッコミを貰って脳天にチョップを喰らう。そんなにバカスカバカスカ頭ばっか殴ってくるからバカになるんだぞ。
「かけてて寝坊したの?!逆にどうやったのか教えてくんね?」
今の呆れた様子の男と単純に驚愕している女の子が『切頭透馬』と『綾小路凛』。
透馬、深雪とは中学のときからの仲ではあるが凛と静、瞬とはつい昨日顔合わせたばかりである。ただし仲良くなったのはコミュニケーション能力の高い凛と瞬の二人のお手柄でしかないが。
「まあそれは置いといて、みんなはもうどの部に入るのか決めた?」
「オレとトーマは占星部に入るつもりだけど、みんなは?」
「あーしは特に入るつもりはないかなぁ、やりたいこと他にたっぷりあるし。」
「俺も今んとこ決まってないなー。いいとこあったら教えてー。」
現状不加入多数、静と深雪は何処か濁されたので恐らくは部に入る人は男二人だけになりそうだ。
中々地味な絵面にはなりそうだが、男二人、部活動を通して汗を流し合って友情を深めていくというのもまあ、悪くないか。
『占星部体験入部歓迎中!!!!』
校庭の一角、というか割と結構な広さのとこにやけにガタいのいい男だったり、気の強そうな女がいたり、氷やら炎やらが飛び交う『いかにも』な場所にソレはあった。
しかし、しれっと注釈のところに『シんじゃわないように気をつけるから安心してね』って書いてるのは流石にスルーは仕切れない。別にハートマーク付けとけば許されるわけでもないので今すぐ消してもらいたい所存である。なんか心なしかイラってくるから。
「失礼しまーす。」
看板に気を取られてる俺を他所目に、透馬は何食わぬ顔でそこに入ってく。
(待てよ、こっちは中学の時は全然剣道部だったんだぞ中学から異能やってたお前とは訳が違うんだっての。
かわいいかわいい君のお友達はすこーし驚いてるんだけど)
「し、失礼しまーす…」
少し遅れて紅葉も中に入る。
改めて入って見てみると本当にここが学校かどうかを疑ってしまって少し息を呑む。
(もしかして、オレ今年中には死ぬんじゃね?父さん母さん先に行く我が子をどうかお許しください)
とかふざけたことを考えていると奥からガタイのいい男がこっちにくる。正直言ってかなり怖い顔をしているせいで「俺らなんかやったっけ?」とトーマと顔を合わせる。
しかし心当たりはない。強いて言うなら今朝のトンデモスライディングを目撃されていたくらいだろうか。
が、その男からはたったの一言「ようこそ占星部へ」とだけ放たれる。
(ああ、わかったぞ。この人ここの部長だな?めちゃくちゃ筋肉ムキムキで占星部なのに全部ゴリラ戦法でなんとかしそうだけど確かにそれも戦術だし割とありがちなパターンだろ。うん。…?どうしたトーマ?そんな怖い顔して?モミジくんちょっとびっくりしちゃうよ?)
今日何度目かも知らない透馬の呆れ顔が浮かび上がり盛大にため息を漏らし悪態をつく。
「…俺はお前のそのよく動く口にびっくりだよ」
透馬の顔と男の顔を視線が何度も行ったり来たり右往左往。片や手で顔を覆い、どこからどう見ても呆れ返っているし、片や目尻をピクピク痙攣させながらも笑顔を保とうとしているし。
「悪かったな…ありがちなパターンのゴリラで…」
もう一回頭を殴られた方が良かったかも知れない。
「アッハッハッハッ!!!…!!ッハ!!ッ!」
笑いすぎて途中途切れ途切れになってしまっている豪快な男がひたすらにゴリラ、じゃなくて背が高く筋骨隆々の男の背をバンバン叩いている。そんなに面白かったのだろうか。
「力也、そこまで笑うことないだろ…」
背中をバンバン叩かれてる男の方は少し…いやかなりの困り顔で、隣でゲラゲラ笑っている男をどうしようもなく眺めている。
困り顔の要因、半分は紅葉のせいだけど。
「モスキュール、それはちょっと難し、アッハッハッ!!」
この笑いに笑いまくりまともに喋れていない人がどうやらこの部の部長らしい。モスキュールさん―あとでちゃんと謝っとかないといけない人―と比べると細身で威圧感が感じられない。これで部長をやっているのだから相当の実力者なのだろうけど、今はとてもそうは見えない。微塵もそういうのを感じられない。
(にしても笑いすぎでしょ。そろそろ酸欠で倒れるんじゃないか?)
笑いまくってかれこれ四分弱。ほんと酸欠でぶっ倒れたとしても「そりゃあんな笑いまくってたらな」と呆れる時間が経過してるのに、部長の顔は青くなる様子は見受けられない。
「あー笑った笑った。で?君がうちのモスキュールに挨拶してくれたのか」
急転、先程までの清々しいまでの笑顔は何処へやら、いや笑顔ではあるのだが威圧感が急に増した。
(トーマさん見てないでちょっとくらい助け舟出してください。しれっと練習混じったりしないで助けてください)
もうこうなれば…と深々と頭を下げ声を張る。
「その節は大変申し訳ありませんでしたぁ!」
もうめっちゃいい勢いで腰おったぞ。ぺんぺん草よろしくお淑やかに丁寧におったぞ。これでダメなら潔く腹を「顔あげていいよ」あっ、ハイ。
「別に気にしてはいないよ。あ、いやモスキュールの方はしてるかも知れないけど、僕はしてないよ。
むしろそのくらい根性ある方が鍛え甲斐がある。歓迎するよ、占星部へ」
こうして何事もなく少年は占星部への加入を許された。
初めて小説を書いたので超絶不安ですが暖かい目で見といて下さいね。




