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虚の機繰  作者: 浮海海月
目覚め編
1/28

1.目覚め−壱−

 


「―――――あん…た…なんか産む…んじゃ…なかった―――――」


―――――――――――――――――――――――――



「んん…」

 騒がしく鳴り響くアラームを手探りで止める。しかし、携帯の画面に表示されるストップボタンは見当たらず結局顔を上げて止める。

(春休みなんだからもっと寝てていいだろ)

 わざわざアラームまでかけたのは誰だよ、と心中で舌を打つ。あと二、三時間は寝れるだろ。

「モミジー?!あんたまだ寝てんのー?!早く起きなさーい!!」

 母の声が先ほどの携帯よりも大きく聞こえる。

 ただでさえ声が大きい母の声は少年の左耳を通り抜けて右耳から出ていく。

「あんた昨日始業式やったんだから早く準備しなって!母さんヤだよ!息子のあだ名が『初っ端遅刻ヤロウ』になるなんて」

「あ…」

 飛び起き上体を起こす。

 半覚醒状態の脳みそも完全にパッチリだ。

「今何時…ハア?!やべぇ!遅刻する!」

 待ち受け画面に表示されている数字は8:00。登校時間は8:40。

 危機感を覚えるのには十分すぎる時間だ。


 大慌てで部屋を出る。袖を通した制服は着慣れていないからかはたまた寝起きすぐに着たからか、かなり着崩れてしまっている。

「あ、やっと起きた、パン置いてるから走りながら食べな」

 食卓に置かれたのは一枚のトーストとホットのカフェオレ。一度にカフェインを飲み切りトーストを持って玄関へと走る。

「ありがと、じゃ行ってくる!あと母さんごめん!」

「はい、いってらっしゃー…なんで?」

 よく分かってない母の顔を背に自らの通う高校へと足を運ばせる。


「…でさー、マジやばくね?!」

「何を言ってるんだか」

 机の上、そこに乗った少年が笑いながら友人に語りかけ、友人は呆れつつ話を聞く。

 昨日出会ったばかりにも関わらず既に数年の付き合いがあるかのようなやり取りをしているとこには素直に感心する。

「いやそこはさちょっとは笑ってくれてもいいんじゃないか?!」

 少し小気味のいい足音が聴かれてくる。その音の主が絶賛「廊下を走るな!!!」という怒号も連れてきていさえしなければ『少し』じゃなくて『かなり』まで格は上がっただろうに。

 足音は止まらず「すみませーん!」という情けない声と共に近付いてくる。

 足音は二人のいる教室の数メートル手前でブレーキ音に似たものに変わり、銀髪の少年がスライディングで入ってくる。

「ギリギリ…セーフ!!あ、ちょミスった、いっでぇ!!」

 先程までの小気味良い音は何処へやら、不快な轟音に変わった。

 銀色の髪に若干の赤が滲んでいるのもマイナスポイントだ。

「神河ァ!廊下を走って教室にスライディングで入るなァ!あと、二階堂!机の上に座ってんじゃねぇぞ!」

「えぇ?!俺とばっちりっすか?!」

『天気は快晴、今日もいい日になるでしょう』なんていう朝のお天気占いは二度と信用しないとここに誓おう。



「で、ずいぶんと遅かったな『遅刻未遂ヤロウ』」

 とばっちりを受けた少年はやはり何処か不機嫌な様子でふんぞり返っている。

(机からは意地でも降りないのな)

 それをやめれば怒られないのでは?と逆撫でするのを堪える。

「悪かったってオレのせいでとばっちりくらったのは…ジュース奢るから気ぃ直してくれよ、シュン」

「マジ?!じゃあ一番高いの頼んだ!」

 シュンと呼ばれた少年、『二階堂瞬(にかいどうしゅん)』はここぞとばかりに目を輝かせ宣言する。

(今度なんかあったら盛大にイジり倒してやる)

「じゃあケガ治してあげてんだから私にも奢りなさい…よっと!」

 先程までの鈍い痛みとは異なりはっきりとした掌の感覚が後頭部に走る。

「最後叩く必要あったか?!しかも結構いてぇんだけど!」

「何よ、幼馴染かつ美少女と名高いこの『相川深雪(あいかわみゆき)』に治してもらって文句でもあるわけ?」

 勘違いでなければ美少女は人の頭をそこそこな強さで引っ叩かない上に自分で自分のことを美少女とは言わない。

 白藍色の髪に桜色の瞳、スレンダーな身体は確かにその条件は満たしてるかも知れないが。

「次からお金取ろっかなー?」

「ワーアイカワサンニナオシテモラッテウレシイナーマジアリガトー」

「次はグーでいってあげようか」

 …勘違いでなければ美少女はグーパンもしない。

「まあまあ相川さん、神河くんもこう言ってるし…」

「本間ちゃん、だめなのこの男はちょっと痛い目みないと学習しないのよ」

「さっきだいぶ痛そうな目にはあってたよ?!」

(本間さんは優しいね。絶対にこの2人みたいに「奢れ」とか言うようにはならないでね、ほんとにお財布がスッカラカンになるから)

本間静(ほんましずか)』。初日から遅刻ギリギリの登校で頭に怪我を負うようなこの男にも優しくしてくれる心の持ち主。

 自称美少女にも見習っていただきたい。

「目覚ましはちゃんとかけてたのか?お前のことだからかけてて寝てたんだろうが」

「スゴイじゃんトーマ、大正解」

「かけてて寝坊したの?!ヤバすぎっしょ!」

 今の呆れた様子の男と単純に驚嘆している女の子が『切頭透馬(きれずとうま)』と『綾小路凛(あやのこうじりん)

 透馬、深雪とは中学のときからの仲ではあるが凛と静、瞬とはつい昨日顔合わせたばかりである。ただし仲良くなったのはコミュニケーション能力の高い凛と瞬の二人のお手柄でしかないが。

「それで、みんなはもうどの部に入るのか決めた?体験入部考えといてって先生言ってたけど」

「俺とトーマは異能部に入るつもりだけど、みんなは?」

「うちは特に入るつもりはないかなぁ、やりたいことあるし」

「俺も今んとこ決まってないなーいいとこあったら教えてー」

 現状不加入多数、静と深雪は何処か濁されたので恐らくは部に入る人は男二人だけになりそうだ。



『異能部体験入部歓迎中!!!!』

 校庭の一角、というか割と結構な広さのとこにやけにガタいのいい男だったり、気の強そうな女がいたり、氷やら炎やらが飛び交う“いかにも”な場所にソレはあった。しかし、しれっと注釈のところに『シんじゃわないように気をつけるから安心してね』って書いてるのは流石にスルーは仕切れない。別にハートマーク付けとけば許されるわけでもないので今すぐ消してもらいたい所存である。

「失礼しまーす」

 看板に気を取られてる俺を他所目にトーマは何食わぬ顔でそこに入ってく。

(待てよ、こっちは中学の時は全然剣道部だったんだぞ中学から異能やってたお前とは訳が違うんだっての。かわいいかわいい君のお友達はすこーし驚いてるぜ)

「し、失礼しまーす…」

 少し遅れて少年も中に入る。

 改めて入って見てみると本当にここが学校かどうかを疑ってしまって少し息を呑む。

(もしかしてオレ今年中には死ぬんじゃね?父さん母さん先に行く我が子をどうかお許しください)

 とかふざけたことを考えていると奥からガタイのいい男がこっちにくる。正直言ってかなり怖い顔をしているせいで「俺らなんかやったっけ?」とトーマと顔を合わせる。しかし心当たりはない。強いて言うなら今朝のトンデモスライディングを目撃されていたくらいだろうか、

 が、その男からはたったの一言だけ、

「ようこそ異能部へ」

 とだけ放たれる。

(ああ、わかったぞ。この人ここの部長だな?めちゃくちゃ筋肉ムキムキで“異能”部なのに全部ゴリラ戦法でなんとかしそうだけど確かにそれも戦術だし割とありがちなパターンだろ。うん。…?どうしたトーマ?そんな怖い顔して?モミジくんちょっとびっくりしちゃうよ?)

 今日何度目かも知らない透馬の呆れ顔が浮かび上がり盛大にため息を漏らし悪態をつく。

「…俺はお前のそのよく動く口にびっくりだよ」

「悪かったな…ありがちなパターンのゴリラじゃなくって…」

 もう一回頭を殴られた方が良かったかも知れない。



「アッハッハッハッ!!!…!!ッハ!!ッ!」

「部長、あんま笑わんでくださいよ…」

「モスキュールくん、それはちょっと難しアッハッハッ!!」

 この笑いに笑いまくりまともに喋れていない人がどうやらこの部の部長らしい。モスキュールさん―あとでちゃんと謝っとかないといけない人―と比べると細身で威圧感が感じられない。これで部長をやっているのだから相当の実力者なのだろうか。とてもそうは見えないが。

(にしても笑いすぎでしょ。そろそろ酸欠で倒れますよ)

「あー笑った笑った、で?君がうちのモスキュールに()()してくれたのは」

 急転、先程までの清々しいまでの笑顔は何処へやら、いや笑顔ではあるのだが威圧感が急に増した。

(トーマさん見てないでちょっとくらい助け舟出してください。しれっと練習混じったりしないで助けてください)

 もうこうなれば…と深々と頭を下げ声を張る。

「その節は大変申し訳ありませんでしたぁ!」

 もうめっちゃいい勢いで腰おったぞ。ぺんぺん草よろしくお淑やかに丁寧におったぞ。これでダメなら潔く腹を「顔あげていいよ」あっ、ハイ。

「別に気にしてはいないよ。むしろそのくらい根性ある方が鍛え甲斐があるしね。歓迎するよ、異能部へ」


 こうして()()()()()少年は異能部への加入を許された。


初めて小説を書いたので超絶不安ですが暖かい目で見といて下さいね。

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