<24> 風
人生には風が吹いている。生きていこう…と進む方向に吹く順風と、反対側の方向へ吹く逆風だ。風と言葉が交わせるなら、どうか一つ、味方になって下さい、出世した暁には美味しいパンを食べてもらいますから…くらいのことは言いたいものです。^^
高林は、とある会社に勤めるしがない中年社員だ。
「高林さ~ん! これ、お願いねっ!」
高林のデスクの上へ、ドサッ! と書類の山を置いたのは、結婚もせずキャリア・ウーマンの道をひた走る課長の半田美沙だった。うざったい視線を半田に向けた高林だったが、直属の上司の命なのだから従う他はなかった。
「はい…いつまでにです、課長?」
「そうね、今週一杯まででいいわ…」
「分かりました…」
素直に応諾したが、どう贔屓目に見ても十日、いや今月一杯はかかるな…と、高林には思えた。高林は救いの神風が吹くことを願った。すると、その思いを知ってか知らずか、今まで吹いていなかった会社ビルに強風が突然、吹き始めた。それまで微風すらなく、会社ビルの窓は全て開けられていたから堪らない。高林の上に置かれた書類の山は瞬く間に課内に吹き飛び、舞い散った。課内の誰もが書類を拾い集めようと右往左往したが吹く風は一向に吹き止まず、全書類が高林のデスクの上へ戻ったときは退社を告げるチャイムが鳴り響いた頃だった。ところが、誰もが気づかない不思議な現象がこの書類に起きていた。それに高林が気づいたのは、次の日の朝だった。諦めていても、まあ仕方がない。少しづつやるか…と最初の書類の一枚に高林が目を通したときだった。書類は処理すべき箇所がすべて処理れていたのである。まさか…と思いながら、次の一枚、そしてさらに次の一枚と高林は書類に目を通したがやはり同じで、全ての書類が処理されていたのだった。
『そんな馬鹿な…』
高林は我が目を疑ったが、書類の山が全て処理後の書類に変身していたのは紛れもない事実だった。
「あの…課長、出来ました」
「ええ~~っ!!」
半田は悲鳴に近いソプラノの高音で驚いた。それもそのはずで、今朝から処理にかかったとして、まあ今週一杯では無理ね…くらいに踏んでいた矢先だったからである。とはいえ、処理済みなものは仕方がない。
「や、やるじゃない。ご苦労様…」
半田は高林にそうとしか言いようがなかった。半田は味方の風だったのか…と、助けられた昨日吹いた順風に感謝した。
まあ、こんなお話のようなことは有り得ないでしょうが、人生を守る風と攻める風は、確かにあるようです。どうもその風は運なのではないか? と思います。^^
完




