<22> 荷(に)
超有名な歴史上の人物が言ったとか言わなかったとか持て囃はや)される格言めいた言い伝えに、━ 人生は重き荷を背負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず ━ などというのがある。まあ、誰が言ったかはどうでもいいとして、確かに人世を歩む上での教訓にはなります。^^
とある市役所に勤める課長補佐の堀越は、暑い最中、延滞する住民の税金に汗していた。身体的な仕事としては軽いが、心理的にはかなり厳しく重かった。誰も取りたてたくて取り立てに回る職員はいない。これ以上、延滞すれば、管理職である堀越の最終責任になったから、取り立てに回る羽目になったのである。
「無いものは無いんでね…」
「いや、それはそうなんでしょうが、そこをなんとか支払って頂かないと…。このままですと延滞税が課されますし、私どもも困ります」
「私も困ります。無いんですから…」
その後、言い合いは延々と続いたが結論は出なかった。
「それじゃ、また寄りますので…。この次は、お願いします」
「はあ、支払えるかどうかは分かりませんが…」
「そう、おっしゃらずに…」
場合によっては財産の差し押さえという事態にもなりかねない支払い額ではなかったから、余計に堀越は頭が痛かった。頭痛で頭が痛くなったということではない。^^ 堀越は取り立ての重荷を捨て、気楽に暮らしたいな…と心底、思った。
「どうでしたっ!」
笑顔で担当している部下に言われ、お前が言うなっ! と堀越は心で突っ込んで怒った。
平職員の方が責任が軽いですから、心の荷も軽い訳です。人生というのは出世するだけがいい人生ということでもないようです。^^
完




