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OH!庭番  作者: 唯一
7/10

7.御庭番、葛藤す

ー…翔が瑠璃を明確に主人であると認めたキッカケは、小学2年生まで時を遡る。

歩き始めると同時に開始された、父親による御庭番修行に耐えかねた翔は家を飛び出し、近所の公園の雑木林の中に隠れていた。

そこへ翔が居なくなった事を聞きつけた瑠璃がやってきたのだ。

「しょうくん!こんな所にいたー!」

「…るりちゃん?」

「どうして、おうち、出てきちゃったの?」

心配する瑠璃の言葉に、翔は嬉しさから涙を流して、家出した理由を吐露した。

翔は顔も知らない”主人”のために修行を重ねる事への不満や不安から、父親に反抗して家を出たのだと言った。

「会った事ない人なの?その…しゅじんって言う人」

「うん…」

翔から家出の理由を聞いた瑠璃はなんて事ない風に言う。

「だったら、がんばらなくても、いいよ!」

「…え?」

予想だにしていなかった事を言われ、翔は驚いて目を見開く。

「イヤなら、やらなくていいんだよ!わたしが、おじさんに言ってあげる!しょうくんを、いじめないでくださいって」

「るりちゃん…」

頑張ることが出来ない翔を責めるのではなく、受け入れ、励ましてくれる瑠璃の姿は翔に眩しく映った。

まるで憧れのヒーローの様に。

「いっしょに帰ろっ」

そう言って、瑠璃は翔に向かって手を伸ばす。

伸ばされた手と瑠璃を交互に見た翔は、意味を理解し笑顔で手を重ねた。

「うん!」

そして、2人は手を繋いで帰路につく。

服部宅について直ぐ、瑠璃は翔の父親に文句をつけた。

知らない人のために翔をいじめないで、と。

翔の父親は困った様子で答えに迷っていたが、瑠璃に重ねて文句を言われてなし崩し的に翔をいじめないと約束するのだった。

しかし、瑠璃を父親と共に徳川宅まで送った帰り、翔は父親から主人の正体を聞くことになる。

「翔、お前はもうお前の”主人”に会っている」

「…誰なの?」

「…瑠璃お嬢様だ。瑠璃お嬢様こそ、お前の”主人”なのだ」

「るりちゃんが…?」

瑠璃が自分の主人であり、守るべき存在だと聞かされた翔は見えない不安から解放された。

と、同時に瑠璃が主人である事に安堵したのである。

そして、後日。

翔は瑠璃に自分の主人であって欲しいと告げた。

その告白は端から見て、可笑しさしか無かったが、瑠璃は好意的な解釈をしたらしく、主人になる事を了承したのである。

その時、瑠璃は主人と呼ばれるよりも「お姫様」が良いと無邪気に言ったため、翔は瑠璃を暫くの間「姫ちゃん」と呼んでいた。

それが原因で2人は中学校に進学してから、疎遠になってしまったのだが、また別の話である。

そして、現在。

翔は幼き頃の約束を思い出し自嘲気味に笑った。

「…もう、分かんないんだよなぁ…」

幼い頃、父親から瑠璃が主人である聞かされて、瑠璃の為なら頑張れると思った。

そして、今でもそれは変わらない。

ただ、瑠璃に対する気持ちが、恋情なのか家族愛なのか、はたまた強い忠誠心なのか区別が付かなくなっているのだ。

初恋の相手は瑠璃だった気がするが、主人だと聞いてからは、そんな気持ちも無くなった気がする。

だが、瑠璃に恋する気持ちは分からないでも無い。

瑠璃は人を無自覚に誑かすのが得意だし、慕われるだけの魅力を十分に持っている。

ずっと見て来たから嫌という程に知っている。

だからこそ守りたいと思える。

「…今更、考えても仕方ないか」

ただ、守りたい。

その明確な思いだけを持って、翔は使命を果たすだけだ。

例え、人の恋路の前に立ちはだかる事になろうとも…。




「ー…え?」

「だからさー、俺に多田がやってるネトゲ教えてくんない?」

ヤンキーらしさを出しつつ、翔は多田の肩に腕を回し遊びに誘う。

多田は引きつり顔で翔の誘いを、どう断ろうかと頭を悩ませている様だ。

多田と一緒にいた友人までもが翔のヤンキーっぷりに怖気付いて、遠巻きに見ている。

「この前、多田にゲームの事、聞こうとしたら帰っちゃったじゃん?俺、ショックだったんだよねー。だから、今度は教えてくれても良くねぇ?なぁ?」

「う、うーん…で、でも、服部くん…家にパソコンあるの?」

多田は遠巻きに誘いを断ろうとして、苦し紛れにパソコンの有無を確認した。

「ねぇけど…多田んちにならあるだろ?」

「えっ…で、でもそれだと、一緒には遊べないよ…?」

「じゃあ、パソコン部だっけ?あそこ行って、そこで遊べば良いじゃん。よし、行こうぜ~」

翔の誘いを何とかして躱したかった多田であったが、逃げ道を塞がれてしまい、結局翔に引きずられる様にしてパソコン室へ向かう事になった。

しかし、その道中で翔は、とある人物に呼び止められた。

「あ、服部くん。良かった、まだ居てくれて」

「…小野田先輩?」

声を掛けてきたのは、瑠璃が入部している茶道部の部員で3年生だ。

…瑠璃の憧れの先輩である。

「俺、今日部室に顔出したんだけど…徳川ちゃんがまだ来てなかったんだ。用事があって来れなかったのかなー?と思って、皆に聞いたけど、何も知らないって言うし…服部くんなら何処に居るか知ってるかな?と思って…」

「…はい?」

瑠璃が部室に行っていない?

可笑しい。無遅刻無欠席、部活も1日たりともサボった事など無い瑠璃が、部活開始時間を過ぎても部室に行っていないなんて…。

今日、徳川家で何か用事があるとも聞いていない翔は胸騒ぎを感じた。

「え、と、徳川ちゃんって…あの徳川さんですか?」

「ん?よく見たら珍しいね、服部くんが人と居るなんて。友達?」

瑠璃の苗字を聞いた多田は目を輝かせて、小野田に話しかけた。

対して小野田は翔が率先して人と居る事を面白がっている。

噛み合わない会話の中で、多田は翔が瑠璃と知り合いである事を知った。

「は、服部くんって…ウチのクラスの徳川さんと知り合いなの!?」

「知り合いって言うか、幼馴染だったよね?」

「えぇ!?お、幼馴染!?い、良いなぁ…」

翔が答えず、小野田が答えるのを聞いて多田は心底羨ましそうに笑った。

その反応を見て、翔の中で益々と嫌な予感が募っていく。

「それで、服部くん。徳川ちゃんが居る場所知らない?」

「し、知ってるの?服部くん」

小野田が聞き、多田が重ねて聞いてきたのを聞いて、翔は多田から腕を離して、走り出した!

瑠璃が部室に向かうまでの時間、翔は多田と一緒にいた。

瑠璃に接触させないためである。

しかし、それが裏目に出てしまい瑠璃が姿を消した!

つまり、ストーカーの犯人は多田ではない!

多田は単なる、瑠璃の行き過ぎたファンだったのだ。

犯人は別に居る。そして、今、正に瑠璃と一緒に居る!

翔は走りながら、スマホを取り出し画面を操作する。

瑠璃に気がつかれない様に仕込んでおいた、追跡アプリで瑠璃のスマホの位置を探る。

スマホの位置は刻々と移動していっている。

翔は校舎を飛び出し、GPSを追って縦横無尽に走った。

屋根から屋根へ。時には電柱同士を飛び移り、何よりも早く瑠璃の元まで走っていく。

スマホのGPSが一箇所に止まったのを見て、翔は一度立ち止まり場所を確認する。

瑠璃が連れ込まれた場所は…!



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