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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー屍界狂想 ネクロノワールー
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103.屍界狂想 ネクロノワール 17

ーーー『帝国領内戦機本部』ーーー


あの死闘から一週間が経った。

ジークフリードは、本来の彼は…戦機『ジークフリード』から切り離され、軍直下の病院………と言えるだろうか?

軍に所属する者で、怪我人等が収容されている施設へと訪れて居た。

そもそも生者を軽く見て、死者を兵器として扱うこの世界に於いて病院と言った物にどれだけの価値が存在するのかは定かでは無いのだが。

故に、まるであばら屋の様に清潔さのかけらも無い建物なのだが。


然し、ジークフリードはとある人物に会う為に訪れて居た。




「やぁ、その………初めましてで良いのかな?」


恐々とした笑顔の青年が見下ろす先に居るのは青髪碧眼、そしてその瞳に怒りを湛えた小さな少女(クリームヒルト)だった。

その少女は青年の存在に気が付くと、一瞬だけ表情を明るくするのだが、それが自分の知る彼ではないと思うと、とても複雑そうな物に変わったのだった。


「ジークフリード……で良いのかな?……説明…の約束だったか?」

そう呟く少女の左腕は、存在しなかった。

「その腕は………そうか、駄目だったか。僕がもっと早く目覚めていれば…すまない…」

ジークフリードの申し訳無さそうな声色に、憎々し気に溜息を吐くも、顔を上げて少女は答えた。

「いや、戦場では全てが自分の責任だ。…それよりも、聞かせて欲しい。君の…いや、君達のこれまでを」



ーーージークフリードは話した。

自分が意識の無いまま『シグルド』と戦り合った事を。意識を取り戻した後に再び闘いに挑み、仇敵で在る『シグルド』と、自分の意思でサポートをして居た『燐夢・令式』の事を。

そして『シグルド』の右腕を取り込んだ物の、核を傷付けられて瀕死になった事を。

その際に姉である『ディアドラ』が目覚め、自分の核を修復する間、替わりに『ジークフリード』として振る舞い、現在に至る事。


ーーー『シグルド』と自分が生前、数年前迄は親友であった事を。



ーーークリームヒルトは聞いていた。

過去と今、そして彼自身の境遇。皇国の犯した罪と、それ故の残虐性を。

クリームヒルトが知る限り、帝国は人間狩り(マンハント)こそ行わない物の、優秀な兵隊の遺伝子情報を抜き取り、そこからクローンやコピー人間を生み出し兵士として調整する。故に彼等に意思は無く、あくまで戦闘用の人形だ………と言う情報が知らされている限りだった。

故に、人間狩りを軽々しく行わない分、皇国より遥かに人道的だ………と、人道の破綻したこの世界に於いて誰よりも固く信じて居たのだが…、現在少女はその意思が揺らいで居た。


本当に帝国は人道的なのだろうか?


ジークフリードが語る通りで在れば、あの自分を模したコピーである燐夢・令式は…帝国が言うのとは全く異なり、自分の意思を持って居るのではないか?

実際に、このまま皇国の悪魔の玩具にされる位なら、自分がこの手で眠らせてあげようとした所、少女は確かな生きる意志で拒絶して来たのだった。

あの煤けたスクラップの様な右腕に、強力な魔力を込めて殴って来たのだった。

お陰で粉砕された腕の骨がバラバラに肉に食い込んで左腕は使い物にならなくなったのだが。


しかしてクリームヒルトは、ふと思い出した様にジークフリードに問い掛けた。


「所で君の姉………ディアドラと言ったか?彼女が使っていた君の右腕は…」

「あぁ、これはその……大丈夫さ、半分しか奪われて居ないからね。」

ジークフリードの言葉に首を傾げる少女だったが、ジークフリードは右手の平からパチパチと小さな電流を走らせていた。

「お姉ちゃんが中途半端に僕の腕を使ってただけだったお陰かな、電気制御回路こそ奪われた物の、増幅・解除等の性能は奪われ無かったみたいなんだ。………まぁ自由に扱えなくはなったけど、それでも十分な威力を放てるし、それに………。」

ジークフリードが一度会話を切ると、今度は右手の平から炎を吹き上げたのだった。



「炎に電気を纏わせて放てば良いだけの話さ。」



その炎は、パチパチと、電気を纏わせていた。



ーーー

ーーーーー




ーーー『共和国領内工房』ーーー



「ーーーどう言うこった!?」


工房中に主人レオンヴォルトの声が木霊した。

その声を叩きつけられた主は飄々として、聞き流していた。


「皇国の飛行型戦機で在る『シグルド』は今度の戦闘で確かな成果を発揮出来なかった。故に今後は国の研究機関に保管し、データを採取した後に凍結する………と、確かに通達しました。」

外を屯ろす者達に比べて、幾分か身形の良いネズミ顔の男性がそう告げると、レオンは今にもはち切れそうな程に激昂した。

「おいふざけんな!!誰がアイツの整備を務めてると思ってやがる!!俺様に断り無くそんな事は許さねぇ!!」

「もう決まった事なのです。」

ネズミ顔の男がそう言うと、何やら指示を出して外で待機していた戦機を呼び、戦闘機型の戦機で在る『シグルド』を積み込んで居たのだった。

「ふざけんな………こんなの…戦機の人権もクソもねぇ!!マジで物扱いしかしねぇなら皇国や帝国のクソッタレ連中共と同じじゃねぇか!!」

「戦機に人権は有りませんから。」

淡々と仕事を熟す男に怒りを露わにするレオンだったが、等のシグルドとリンムレはと言うと…。

シグルドはあの激闘からずっと意識を取り戻さず、工房内の鉄のベッドで眠って居た。

そしてリンムレは落ち込んでいるのか、それとも信じる者に殺され掛けた恐怖故か、シグルドには近付こうとせずに遠く離れた場所で遠くを見つめ続け、時々シグルドを見詰めては発狂し、激しく震え出しては気絶、起きてもまた遠くを見つめる………と、それだけを繰り返して居た。


「くっそ……ボウズも嬢ちゃんもこの調子で、このままじゃお前さん達、何も出来ねぇまま機能停止しちまうんだぞ?」


レオンヴォルトは、いつの間にか二人に対して強い情を抱いて居たのかも知れない。

頭では理解してるのだ。いずれにしてもずって共に在る事は無い。ましてやこの死と狂気と殺戮に彩られた世界に於いて、いつ誰がどこで死んでもおかしくは無い。

故に、情を移した所で明日にはどちらかが死んでいる事など当たり前の事だった。


ーーーだけどなぁ、それでも何か期待しちまうのは仕方ねぇよな?………なぁ、ニイちゃんよぉ。




ーーーー




シグルドは夢を見ていた。



世界はグニャグニャと歪んで居て、見ているだけで頭が割れそうに痛く、そして吐き気を催す景色だった。

その中心に、一人の男が佇んで居た。




「なぁ馬鹿弟子、お前は何の為に強くなりたいんだ?」


師匠の声だった。


「無論、皇国と帝国を焼き尽くす為だ。」


俺は自分の心に素直に答えた。否、答えてしまった。


「………」


無言の師匠。


この答えでは駄目なのだろうか。


「他にもある。」


そうだ、確かに在る筈だ。


「俺は姉さんともう一度逢いたい。…その為に、皇国の技術を奪い、姉さんを取り戻したい。」


もう一度、素直に答えた。


「ーーー本当にそれだけか?」


腑に落ちない。


「自分を誤魔化してんじゃねぇか?」


どうして俺が答えを誤魔化す必要が有る?


「もう一度答う。」


師匠は一呼吸置き、そしてーーー


「お前は何の為に強くなりたいんだ?」



俺は………。




頭を過ぎったのはリンムレだった。



ーーーそして、レオンヴォルト。あの男にも礼をしなくてはならない。


何よりもーーー



「俺を信じる馬鹿な相棒バディと約束したからな。俺達は一連托生、一心同体だ。………だから」




「リンムレを守るのは俺の為だ。俺は俺の為に、リンムレを…アイツが安らかに過ごせる場所を守りたい。」




俺の答えを聞いた師匠は、ニィッと笑うと、俺に近付いて来て、頭をボンボンと叩いて言った。


「よく言った。ならあの力に頼り切るな。」


世界は未だにグニャグニャと歪んだままだった。


「あの力は世界を、そしてお前の大切なモノを皆喰っちまう物だ。」


シグルドの隣には黒く小さな仔犬が居た。

それは隙あらばシグルドを喰い殺そうと、ギラギラとした視線を向けている。


「少なくとも、飼い慣らせる奴ぁそうそう居ねぇ。………が、」


師匠が黒い仔犬に何かキラキラした物を突き立てた。

すると、黒い仔犬はまるで煙の様に世界に溶けて消えてしまった。


「どうしてもって時に力が欲しいなら、思い出せ。俺は…俺の名前はーーー」



それは、美しくも何処か恐れを抱かせる様な、宝石のように透き通った剣だった。



「俺の名前はーーー『ティルフ=ブリンガー』、聖剣ティルフィングの化身。

…血を吸う度に主人に力を与えるが、使い熟せ無けりゃ主人を殺す呪われた剣だ。

………俺との繋がり(バイパス)を信じられるなら、使い熟して見せろ。」



シグルドは恐る恐るその宝石剣に左手で触れた。

すると、見る見る内に剣は左手へと吸い込まれ、そしてーーー





「……ル…ん!」




「…シル…ん!!」





ーーーーシグルドは段々と意識が浮き上がって行くのを感じた。





「セシルさん!!……あぁ、良かった……セシル…さん…」



目が覚めた時、目の前には姉さんによく似た赤い少女が佇んで居た。



「助けて……セシルさん…。このままじゃ、皆が……」




赤い色の正体は、全身が傷だらけで、血に塗れた



今にも命を失いそうなエルキュール=グラムバルクの姿だった。

ネクロノワール編、一部完です。

次回からウィスタリアに戻ります。(強制)

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