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世界最強の殺し屋は異世界で静かに暮らしたい 〜最凶の殺し屋一家の三男が、最弱の神王候補に雇われた件〜  作者: 霜月ネル
第9章 帰るまでが遠足です

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部屋着にしても二軍

 小紅に乗って牧場に戻ると、俺はまず牧場に併設されている医務室にぶち込まれた。

 医者からこの怪我で生きていてすごいと褒められつつ、見苦しくないように包帯を巻いてもらう。考えてみると、牧場の横にあるんだから人間用ではなくて動物用の医者なのかもしれない。

 ともかく、さっぱりした所で医務室を出てアリベルを探すと、さっきまで泣いていたのにすっかり元気になって子供に混ざって乳しぼり体験に励んでいた。

 牧場に来たらとりあえず牛の乳を搾ってみるのは、異世界でも共通らしい。

 小紅はというと、子供の姿に変身して羊を追い掛け回して遊んでいる。

 可愛い幼児にしか見えなかったけど、動物には小紅の正体がわかるみたいで、羊のくせに生きるか死ぬかの瀬戸際みたいな必死の形相で逃げ回っている。


「小紅、竜石吐き出してくれないかなぁ……」


 褒賞金が諦めきれなくて呟くと、ソフトクリームを食べていたソフィアが「無理ですよ」と答える。


「神竜は自分と同じ色の竜石を取り込むんです。それで力や寿命を得て、半永久的に生き続けるんですよ」


「へー同種で喰い合うのかぁ」


 まるで狩刃みたいだ。せっかく異世界に来たのに、どこにでも同じような奴ばかりいる。


「あーあ、紅竜を倒したことにして褒賞金貰おうと思ってたのに」


「そういえば、ルカ君、服はどうしたんですか?」


「ああ、破れてたからさっき医務室で捨てられちゃった」


「裸でいると風邪ひきますよ。さっきお土産にシャツを買ったのでよかったら着てください。でも、アリベルに買ったので、可愛すぎるかも……」


「何でもいいよ、デザインは気にしないから」


「では、どうぞ」


 ソフィアに渡されたシャツを広げると、真ん中に大きな瞳が強調されたアルマジロウサギのキャラクターが描かれていた。

 どこの世界でも、観光地には浮かれたTシャツが売っているのか。


「……」


「あら?嫌でした?デザインは気にしないって言ったじゃないですか」


「……俺、この動物が嫌いみたいだ」


「違うの買ってあげましょうか?」


「いや、そんな……うん、これでいいよ」


 せっかく貰った服に文句を言うなんて贅沢なことはしない。

 俺は大人しくシャツを着て、出来るだけ胸に居座るキャラを見ないように夕日が沈みかけている空を見上げた。


「紅竜石だったら多分金額も多くて、夢の褒賞金生活が始まってただろうなぁ……」


「狩刃様、そう落ち込む事もないですわ。この小紅、パワーアップしました」


 羊を追い掛け回すのに満足した小紅が俺の横に来て、パチン、と指を鳴らした。

 ぽわんと音がして、アリベルの叫び声が牧場に響き渡る。


「こ、小紅!!勝手に私の体を変えないでよ……まぁいいけど」


 凄い剣幕で駆けて来たアリベルは、前と同じく胸が大きくなっている。

 怒っているのかと思ったけど、小紅に変えられた自分の姿に満足そうだった。


「パワーアップ?見たところ、前と同じだけどなぁ」


「どうせ、直接触らないでも変えられるようになったとか、その程度でしょ?」


 そう言ってアリベルは無造作に大きくなった自分の胸に触れたが、その瞬間にはっと表情を変えた。

 まさか、と俺も息を飲む。


「感触が……ある……!」


「なん……だと……!」


「小紅の能力に、もはや不可能はありませぬ」


「よし!!小紅、よくやった!」


「……ルカ君、小紅さんの能力に関しては随分前のめりですね」


「狩刃様、また小さくしてさしあげましょうか?今度は意識まで幼くすることができますわ」


「うおおぉぁああ!小紅、それは秘密だから、しーっな」


「おや、小紅と狩刃様の二人だけの秘密ですか……ふ、ふぇ、へぶしっ!」


 小紅がくしゃみをすると、ぽわんと音がしてアリベルの胸が元の大きさに戻った。

 無念のアリベルの叫び声がまた牧場に響き渡る。


「そこは向上しなかったのか」


「何か鼻に引っかかっているのです……へぶしっ!」


 小紅はもう一度くしゃみをすると、口の中にずるずると腕を突っ込んだ。

 曲芸で喉から剣を取り出すみたいに、体の中から植物の枝を引っ張り出す。


「俺とアリベルと一緒に飲み込んだんじゃないか?」


「なんだかいい匂いがする草ですね。食べ物なんじゃないですか?」


 ソフィアが言うように、枯れかけた草に見えるのに甘い匂いがした。小紅の口から出てきたからあんまり触りたくないけど、俺の経験から判断するに食べられる草の中でも上位に位置するような気がする。


「あ!ルカ、それがアルティスよ。小紅、どこにあったの?」


「おそらく、アリベルの服に引っ掛かっていたんじゃろうな。旨そうな匂いがしたから、狩刃様とまとめて呑み込んでしまったのじゃ」


「俺とアリベルが死にかけたのは、こいつのせいか……まぁ手に入ってよかったな」


 小紅の胃は亜空間になっているし、これをケーキに練り込んで火を通せば問題ないだろうし、それにアリベルは小紅が口から取り出すところを見ていないし、ギリギリセーフだと思う。

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