動物が出てくる映画で泣くタイプ
放り込まれたのは、真っ暗で上も下もない空間だった。
地面も川も一緒に呑み込まれたのか、水や土や砂利が体に纏わりついて呼吸ができない。
すぐ傍でバタバタとアリベルが暴れている気配がして、手を伸ばすとアリベルの熱い掌が触れた。
腕を辿って、アリベルの体を抱き寄せて耳に口を寄せる。
「大丈夫」
声が届く空間なのかわからなかったけど、一応聞こえたらしくアリベルの動きが少し落ち着いた。
暗闇の中、手探りでアリベルの顔を確かめ、間違えないよう唇を重ねて、肺の中の空気を全て吹き込んだ。
唇を離すと、アリベルの手が俺の頬を包む。
アリベルがこれ以上騒いで酸素を無駄にしないように、俺は何とか笑ってみせた。
さて、この後どうしよう。
出口も分からないし、俺の酸素だって、もってあと数分といったところだ。
こんな所で死ぬのかと少しテンションが下がったけど、いきなり光が差し込んで逆再生のように外に放り出された。
さっきまでいた川の中に戻って、泥だらけの体が今度は水浸しになる。
「こ、怖かったぁ……」
アリベルは川の中で水か涙かわからないまま顔をくしゃくしゃにしていた。あと少しで本当に死ぬところだったから、その反応も無理はない。
それで一体何に食われたんだろうと川辺を見ると、思った通り人型の小紅と、心配そうにこっちを見ているソフィアがいた。
「小紅さん、呑み込んじゃ駄目ですよ!アリベル、大丈夫ですか?」
「おいしそうな匂いがするものじゃから、つい……狩刃様、ご無事でしょうか?」
「やっぱり小紅がいたのか。なら、さっきのは小紅の胃の中ってこと?」
「狩刃様、小紅は紅竜ですわ。胃袋などという下賤なものは存在しませんの」
「へぇー?亜空間みたいなもんか?久しぶりに死にかけたよ。それで、どうしてここに来たんだ?」
「小紅さんが、山の中から紅竜の気配がするって言うんです。アリベルとルカ君も山に入って行ったみたいなので、心配で追い掛けてきました」
「ああ、そうそう。超ラッキーなことに竜石だけ落ちてて……あれ?アリベル、竜石は?」
「えぇっと……んん?さっきまで持ってたんだけど……」
アリベルに渡したままだった竜石はどこに行ったんだろうと川の中を探しても見当たらない。
さっき呑み込まれた時に中で落としてしまったのかと小紅の方を見ると、小紅がぱかんと口を大きく開けた。
体の大きさに合わない巨大な深紅の舌の上に、さっき拾った竜石が乗っている。
「狩刃様、これですわね?」
「そう、それだよ」
返してもらおうと手を伸ばすと、小紅は口を閉じてゴクリと竜石を飲み込んだ。
「え……た、食べちゃった、のか?」
「ええ、いただきました。しかし、どうやら契約外の者が力を使ったようですわ」
「契約外……?」
どういう意味かと首を傾げると、近くの木々が轟音とともになぎ倒される。
振り返ると、さっきの怪人アルマジロウサギが飛び出して来た。
しかし、さっきと違って全然元気が無い。
フラフラと2本脚で俺達に近付こうとして、途中で力尽きたようにばったりと倒れた。
「どうした?小紅がやったのか?」
「いいえ、もう限界だったのでしょう。竜石は賢者の石と同じく、この世界の人間のみ力を使用することが許されています。契約外の者が使ったのでは、長くは持ちませぬ」
「やっぱり、死んじゃうのね……」
アリベルは、倒れたアルマジロウサギの長い耳を撫でた。
耳だけ見るとふわふわで可愛らしいけど、鋭い尻尾は俺の血で黒く汚れていて、ギャップが大き過ぎて怖い。
「知恵の無い物とはいえ、契約を反故にしたのです。安寧は永遠に望めませぬ」
「そう……アルちゃん……」
怪人アルマジロウサギは、アリベルが撫でている間に体の端から砂になって消えて行った。
竜石を外した時の神竜と同じだ。
つまりこいつは、水に溶けた竜石の力を使って巨大化していたのだ。だが、人間以外のアルマジロウサギがその力を使ったせいで契約に反し、たった今、悲惨な最期を迎えたということらしい。
こいつだって巨大化したくてしたんじゃないだろう。石が入っていることなんて知らなくて、ただ水を飲んでいただけなのに。
しかし、俺は大怪我をさせられたし、見た目が化け物過ぎて、それほど同情はできなかった。
「……で、アリベルは何で泣いてるんだ?」
「感受性が豊かな子なんですよ」
俺の疑問ももっともだと思ったのか、ソフィアがそっと教えてくれた。




